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不穏な人たち 4

兄様の試合の相手は、兄様より少し年下の子だった。

兄様と違ってベスト型の防具と肘までのロング手袋と、薄い金属のプレートを太腿と脛につけていた。

持っている剣は兄様の剣とそんなに変わらないように見える。


相手のほうが防具は揃っているのに、会場からは兄様の悪口だけが聞こえてくる。

セバスもその声に気が付いて、キレイな眉を顰めてみせた。


「……にいたま」


審判の始めの声に、兄様は一歩も動かず剣を正面で構えたままだ。

相手は審判の合図とともに走り出し、気合いの叫びを上げて剣をふり下ろす。

兄様は、軽やかな身のこなしで剣を避け、または剣で受けて流している。


「……実力の差が歴然ですね」


セバスの言う通り兄様は余裕の対応なんだけど……周りの人たはそれもおもしろくないみたいで、益々兄様の悪口がヒートアップしていく。


「いいえ、レン様。よく見てください。ヒューバート様への悪口はあちらの……レン様が嫌な気分になられた場所のみです。他の観客は戦う二人を快く応援していますよ」


セバスの大きな手が肩に回され、ギュッとぼくを抱きしめる。


「そうね……むしろヒューの悪口を言っている子たちを怪訝な顔で見ているわ」


紫紺がゆらゆらと尻尾を揺らし、ペロリと自慢の爪を舐める。


「あれだろ? 瘴気のせいで性格が悪くなってんだろう?」


白銀は弱い奴が相手の試合はつまらないと、顔を伏せて昼寝の体勢である。

兄様は何度か剣を交わしたあと、大きく振りかぶってきた相手の横をすり抜け、トンと剣の柄で背中を押して相手を転ばした。


「勝者! ヒューバート・ブルーベル」


審判が兄様へ手を向けて勝利の宣言を放つ。

でも……兄様はあんまり嬉しくなさそうです。

転ばした相手に手を差し伸べて、観客に向けてペコリと頭を下げると静かに控え室へと去っていった。


「セバス様! 確認してきました。あのブースにいる観客は、全員ホワイトバード公爵家の寄り子貴族の子息たちです」


シュッバッと戻ってきた騎士さんが、ピシッと立ってセバスにご報告。


「……やはり、ホワイトバード家ですか」


どうやら黒いモヤモヤは、ホワイトバード家に関係する子どもたちから出ているみたい。


「んゆ?」


なんだか、ホワイトなんちゃらって最近聞いた気がするよ?


「あれよ。ヒューに結婚してって迫った女の家よ」


「そう? しこん、そうだった?」


「ええ。正確にはホワイトバード公爵家の親戚のホワイトホース侯爵の孫娘よ。ちなみホワイトホース侯爵は現宰相よ」


おおーっ! 紫紺ってばお利口さん。

ぼくは、パチパチと拍手します。


「お、俺だって、それぐらい覚えてらーっ」


ウキーッ! と白銀がムキになるけど、たぶん白銀は誰が誰だが覚えてないと思う。


「どんまい!」


ポンポンと白銀の背中を叩いて慰めてあげたら、余計に拗ねちゃった。


「だったら、あの子とあの子。ヒューが婚約を断ったときに彼女の後ろで睨んでいた子だってわかるわよね?」


「はにゃ?」


白銀はコテンと首を傾げたあと、窓越しに兄様の悪口を言っていた集団に視線を向けるが、むっつりと黙ってしまった。

うん、これは全然覚えてないね!


























お昼ご飯を食べて少しお昼寝したあとは、アリスターの試合です。

ディディはこの試合までに王城から戻ると意気込んでいたけど、ダメだったみたい。

じゃあ、ぼくがディディの分もアリスターを応援するね!


アリスターは兄様とは反対に年上の男の人が相手です。

ノースリーブに筋肉が盛り上がった腕がニョキッと生えています。

背も高いし、筋肉がモリモリの体で、持っている剣もものすごく大きいですよ?


「アリスター……」


大丈夫? アリスター、大丈夫? 怪我とかしない?


「大丈夫よ。アリスターのほうが強いわ」


「ほんと?」


紫紺が満面の笑みで頷いてくれたのに、白銀は難しい顔で対戦相手を睨んでます。

二人とも表情がとっても豊かですね? 見た目はワンちゃんとネコちゃんなのに……。


「いや、あいつ、ちょっとおかしいぞ」


「んゆ?」


「……白銀様のご指摘どおり、少々、興奮していますね」


アリスターと向かい合った相手は肩が上下に揺れるほどの荒い呼吸に血走った目、何度も剣の柄を握る手は汗が滴っている。

審判も心配そうに相手の様子を窺っているみたい。


「あっ」


審判が相手を押しとどめようとしたら、相手は太い腕で審判を薙ぎ払った。

そして、そのまま片手で剣を振り被って、アリスターへと突進してくる。


「あ、あぶないっ」


怖くてぼくは両手で自分の目を覆ってしまった。

ガッキーンと剣同士がぶつかる鈍い音が響く。


「アリスターも力負けしていませんね」


セバスが静かなトーンで試合の実況をしてくれるので、ぼくはそのまま目を塞いでいた。


「あら、やっぱりアリスターのほうが身のこなしが軽いわね」


「……ひょいひょい避けるから、相手の足が覚束なくなっているぞ」


むむむ、やっぱりぼくもアリスターの試合ちゃんと見る!

目を覆っていた手を外してパチッと目を開けると、アリスターが相手の剣を潜るように避け、相手の懐に入り剣の柄でお腹の痛いところを突いていた。


「おげぇっ」


相手は汚い声を発して膝から崩れ落ちた。


「……勝者! アリスター。ただし、相手は反則負けだっ」


審判がそう叫ぶと試合会場に鎧を着た兵士さんが何人も走ってきて、倒れた試合相手を拘束していく。


「あっ!」


「どうしました、レン様?」


「どうしたの?」


「どうした、レン?」


あの、アリスターの相手の人……口からボロッと黒いモヤモヤを吐き出したよ?

いつもお読みくださり、ありがとうございます!

申し訳ありませんが、GW中は更新をお休みいたします。

次回は5/7(水)になります。

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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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