春花祭 終日
ガタンゴトンと馬車に揺られて、アーススターの街でお祖父様に無事な姿を見てもらって、お屋敷に帰ったら心配して泣いて目を真っ赤にした母様に抱きしめられて。
自分のした行動がみんなの迷惑になっていて、ズドーンと落ち込んだままお風呂に入れられて、ベッドの中で体を丸めてしょんぼりしてます。
ぼくは心配されただけで済んだけど、父様や騎士さんたち、母様に怒られたのは兄様。
白銀と紫紺もだけど……。
アリスターのことが気になって、つい危ないことをしちゃったけど、みんなに迷惑や心配をかけるつもりはなかったのに……。
翌朝、予定よりも遅い時間に起こされて身支度をして、朝ご飯をもしゃもしゃ。
お祖父様と父様は昨日の事件の後始末で、徹夜で役所や領兵本部とのやり取りして帰ってこなかった。
あー、せっかくの家族旅行だったのに、ぼくのせいでお仕事になっちゃった……、ごめんなさい、父様。
「レン、元気ないね」
兄様が困ったように笑う。
だって、ぼく……悪い子なんだもん。
しょんぼりしたまま、馬車に乗ってアーススターの街へ。
春花祭も今日で終わり。
お昼にお花の品評会の結果が発表されて、領主夫婦のご挨拶でお祭りは終わって、みんなで後片付け。
ぼくたちは後片付けを手伝うことなく、そのまま馬車に乗ってブループールの街へ帰るんだ。
はっ!父様は事件のことがあるから、ブルーベル領に一緒に帰れないかも……。
はーっ、やっぱりぼくのせいだ。
ぼくが暗く鬱々としているので、白銀と紫紺も大人しく馬車の座席に丸まって伏せている。
チルでさえ、静かに白銀のもふもふに埋まっている。
いつもと変わらないのは、昨日大活躍だったチロだけ。
兄様の綺麗な金髪を一房抱えて兄様の肩に座り、うっとり兄様に見とれている。
「さあ、着きましたよ」
セバスさんがそう言って馬車の扉を開けて、ぼくを抱っこして降ろしてくれる。
昨日見たままのお祭りの飾り。
ふわふわ漂うお花の香りと、ひらひら舞う花びらの鮮やかな色。
兄様に手を引かれながら、お花のアーチを潜り、噴水広場の舞台へと重たい足を進める。
「ほら、ここに座って。セバス、何か飲み物と甘い物が欲しいな」
「かしこまりました」
兄様と母様の間に座って、足元には白銀と紫紺が可愛くお座りしている。
昨日、ぼくたちは操られて連れてこられた子供たちの荷馬車とは、別に用意された馬車で帰ってきた。
アリスターと妹の獣人の子は、悪党のおじさんたちと同じ荷馬車に乗せられると聞いて、ショックだった。
ぼく……アリスターも助けられなかったんだ。
しょぼん。
「レンくん。ほら、一番人気のお花が決まるわよ」
母様に促されて舞台を見ると、立派なお花が幾つも並べられていた。
ぼくが気に入っていた青いお花は、舞台の端にある。
司会のお姉さんが紹介した優勝のお花は、花弁が幾つも重なった大輪の花。
白やピンクの花弁がグラデーションになっている、淡い色の華やかなお花。
「まあ!素敵!」
母様が手を叩いて喜ぶ。
他にも紹介されるお花は赤い小さなお花が鈴なりに咲いてたり、オレンジ色の細い花弁が放射状に開いてるお花だったり、どこか春らしい可愛いお花が多かった。
ぼくは、舞台の端の青いお花を見る。
うん、綺麗だけど色合いが他のお花とはタイプが違うかも……。
でも、ぼくはそのお花が一等大好きだよ?だって……。
ぼくは横に座る兄様を見つめる。
「ん?どうしたの、レン」
「なんでも……ない」
大好きな兄様と同じ色合いだから……。
「報告にあった行方不明の子供も無事に保護できたな、ギルバート」
「そうらしいですね。ただ、こちらに来る途中で被害にあった商隊もあるみたいで……」
レンが気にしていた獣人の子たちも、そんな商隊の護衛冒険者の子供らしいし。
捕まえた男たちは、別の領地で指名手配として追っていた盗賊団だった。
凶悪というほどではない小悪党だが、今回は子供の誘拐や強盗、殺人と重罪を犯した。
まあ、王都に送ったあとは極刑、奴隷落ちというところか。
俺は机の上に置かれた、子供の玩具のような笛をイヤーな目で見る。
どうすればいい?こんな魔道具……だよな?
「義父上、これ、どうします?」
「あー、王都の魔術師団に送って調査してもらう……ほうがいいよな?面倒くさいが……」
「ですね」
しかし、取り調べではこの笛を使って、子供たちを操り自ら来るように仕向けたというからには、調べてもらわないとな……。
でもな……これ、レンが形を変えちっゃたんだよな……。
「レンのことは報告せんでいいじゃろ」
「え!?」
「要は、これが犯罪に使われた謎の魔道具だって報告すればいい。子供たちがどうやって術から覚めたなんてことは、適当に報告するさ」
「いや、それでは……」
「どうせ、捕まった奴らも説明ができないんじゃから、かまわん」
そうなのだ。
あの小悪党たちはある日突然、道化師の姿の男に雇われたという。
報酬が高いこと、相手が子供、それも幼い子供を拐うだけの簡単な仕事と思い、請け負ったらしい。
道化師の男の素性も、笛の魔道具のことも詳しいことは何も知らないのだ。
狙ったのは、春花祭のアーススターの街にいる子供たち。
途中の旅路で子供を拐ったのは、魔道具の力を試すため。
「結局たいしたことは、わかりませんでしたね。黒幕が誰だったのか……」
「うむ。なぜ、アーススターの街を狙ったのかもな」
捕まえた男たちは、道化師の男の目的を知らなかった。
ただ、幼い子供が必要と言われたらしい。
「あー、義父上。もうひとつお願いがあるんですが……」
ひょいと片眉を上げて、こちらを向く義父上。
「魔道具の術の力を増幅する歌を唄っていた、獣人の子のことですが……」
レン!父様頑張るからな!
じいーっ。
ぼくは舞台に飾られた、例の青いお花を見ています。
今日でアーススターの街とはさようならだから、見納めなので、見ています。
じいーっ。
「君、この花、気に入ってくれたんだね!」