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不穏な人たち 1

兄様たちからの「観戦禁止」を律儀に守ったぼくは、兄様たちが出場しないランクの試合を父様とセバスの実況付きで堪能し、白銀たちと会場周りに設置された屋台でのグルメを楽しんでいた。


そう、楽しんでいた。

兄様とアリスター抜きで!


ここ、大事なことだから、もう一度、声を大きくして言いますっ。

兄様とアリスター抜きで剣術大会を楽しんでいますっ!

フンッ。


「レン。いい加減、機嫌直しなさいな。二人の試合も決勝なら応援してもいいんでしょ」


呆れた声の紫紺の尻尾がするりとぼくの頬を撫でていきます。


「放っておけ。負けたらカッコ悪いからレンには見られたくないって、男ならあるだろう? そういう見栄だよ、見栄」


ニシシと笑った白銀は、再び甘じょっぱい味付けの骨付き肉と格闘を始める。


「ギャウッ!」


ぼくのお膝に前足をのしっと乗せて、据わった目つきのディディがゆっくりと頭を左右に振った。

置いてけぼり仲間のディディの顔には、「絶対に許すまじ!」の文字が見える。


「まあ、退屈だよな。レンたちが見ているのは行儀のよいお手本みたいな試合ばかりだもんなぁ。やっぱ冒険者たちの剣とかは実戦を重ねているから見てるとワクワクするもんなぁ」


父様は冒険者たちの試合が見たいそうです。


でも、ダメ。

父様は、「俺は禁止されないぞ?」と不思議顔でしたが、ぼくが応援できないのに、父様が兄様たちを応援できるのはズルイので、父様も見ちゃダメ!


胸を反らして頬を膨らませて言い切るぼくの姿に困った顔をした父様だったけど、セバスがきっちりと頭を下げて「わかりました」と納得してくれたから、ぼくの勝ちです。


「ブロンズクラスの決勝には奥様もフレデリカ様もいらっしゃいます。ご家族皆様で観戦すればよろしいでしょう?」


拗ねた父様を諭す口調のセバスに向かって、父様はニヤリと笑うと余計な一言を口にした。


「別にセシリアも呼んでもいいんだぞ? お前もまだ新婚だもんなぁ」


このあと、ぼくたちは素早く観覧席から脱出しました。

だってほら、父様の悲鳴が聞こえてくるよ。


もう、父様ったらセバスを揶揄っちゃダメだよ。

ぼくたちは、クスクスと笑いながら出場選手たちがいる控室のあるフロアへと足を進めた。














「どこに行くの?」


階段を下りるのに転ばないよう、紫紺の尻尾がくるりんとぼくの体に巻き付いています。

ぼくの右手は白銀のふさふさ尻尾をギュッと握っているんだ。

痛くないかな?


「今日、試合をしたのは貴族出の奴らだろう? 絡まれないか?」


「へいき。ウィルさまのきし、ごあいさちゅ」


今日の試合は王宮で騎士として働いている若いお兄さんたちがメインでした。

試合の結果によっては配属が変わったり、近衛隊に入れたりするんだって、お友達のウィル様が教えてくれたんだ。

ウィル様付きの騎士さんたちは髪の毛を黒いリボンで結んでいるから、すぐにわかるんだよ。


トコトコと階段をいっぱい下りたら、ザワザワと人の話し声が賑やかなフロアまで来ることができました。


「んゆ?」


なんだか、空気が悪い。


「……それって汗臭いんじゃないの?」


「いや、酒とか煙草とかじゃねぇか?」


ぼくが顔を顰めたら、紫紺と白銀がクンクンと辺りを嗅ぎまくるけど、匂いを感じなかったみたいで首を捻っていた。


「ピーイピピイッ」

<お前らうるさいぞ! 俺様はお昼寝中なんだぞ!>


白銀の頭の上でのんびりと寝ていた真紅がお怒りモード発動して目覚めちゃった。


「しんく、おはよ」


「ピーッ」


ふわさっと右翼を上げてお返事してくれる真紅。

おっとと、小鳥と和んでいる場合じゃなかった。

ぼくはキョロキョロと周りを見回す。


「あっ!」


サッとぼくが指さす方向へ顔を向ける白銀と紫紺だけど……そうだ、二人に()()は見えないんだ。


「あのね、くろいモヤモヤ、あるの。しゃぼんだま、みたいなの。こう……ふわふわって」


ぼくは両手で小さい丸を作って二人に見せる。


「そ……それって……」


「しょ……瘴気のことよね?」


ぼくはコクンと大きく頷きます。

精霊さんしか浄化ができない、只今チロが絶賛特訓中の浄化しか解決策のない、瘴気がふわふわっとしているのが見えちっゃた。


「あっちか?」


「あそこなのね。白銀、レンを頼むわ。アタシはウィルの騎士を連れてくる」


「お……おうっ。レン、黒いモヤモヤはどこだ? 案内しろ」


「あいっ!」


紫紺は体勢を低くしてバッビョーンと飛び出していき、ぼくと白銀は黒いモヤモヤが浮いている場所へと慎重に向かった。


もぞもぞ。

ぼくは左手で肩から斜めに下げたバッグを抑える。


もぞもぞ。

ん、もう。


「どうちたの?」


バッグの中に手を突っ込んで掴んで外に出したのは、神獣エンシェントドラゴンを模った土人形。


「だってなんだか楽しそうなことになりそうだから」


テヘヘと笑って現れたのは琥珀の分身。


「レン、なにしている……って、お前またこっちに意識飛ばしてきたのか?」


「やあ、白銀と真紅。ボクも混ぜてよ」


人形だから表情は変わらないはずなのに、なぜかニコニコ顔の琥珀が見えるようだ。


「ほら、あの子たちが怪しいんだろう?」


琥珀の小さな前足が示す場所には、大柄な騎士たちの周りに兄様ぐらいの子どもたちが集まっていた。


「んゆ?」


あれれ? 騎士さんたちからモヤモヤが出ているんじゃなくて……その周りにいる子どもたちから黒いモヤモヤが出ている?


黒くて、でもシャボン玉みたいに脆くて薄い膜のふわふわっとした瘴気が。


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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