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剣と恋 3

ミランダ・ホワイトホース侯爵令嬢は、御年十三歳。


優秀と評判の高い現宰相様がこの令嬢のお祖父様だが、父親は侯爵家の跡継ぎとしては不適格と判じられて、ホワイトホース家のお荷物とか居候とか周りに揶揄されている。


このことから、ミランダ嬢は将来平民となる立場だが、もしかしたら宰相様である侯爵様が孫を溺愛していて、彼女の伴侶に侯爵家を継がせるのでは? との噂もある。


「噂だけどね。だから、知らない周りの人は彼女の両親はともかく、彼女を持て囃している。彼女もその環境に甘えて少々淑女教育が身についてないのかもしれないね」


「んゆ?」


執務室を出たぼくと兄様は、王都屋敷の自室へと戻ってきた。

リリとメグがいつものようにテキパキとぼくたちの着替えを手伝ってくれる。

でも、お顔が厳しいのはなぜだろう?


どうやら、兄様へ婚約を申し出たホワイトホース家のミランダちゃんの評判がすこぶる悪いらしい。

言葉にはできないけど、態度で「私たちはヒュー様の婚約には反対です」と示しているのだ。


トンッと軽い音を立てて白銀と紫紺がベッドへと飛び乗った。


「でも、ヒューの気持ちはどうなの? そろそろ気になる子ができてもいい年頃よ?」


紫紺がニンマリと意味深に笑う。


「やめとけ、やめとけ。女なんて面倒なだけだ。もう少し自由でいろ。……イテッ」


白銀がふさふさと尻尾を振って兄様へ助言するけど……紫紺に後ろ頭をゲシッと叩かれていた。


「アハハ! 僕だってまだ婚約なんてするつもりはないよ。とにかく、今は最難関ダンジョンへ行くためにも剣術大会で優勝しないと」


「あい。にいたま、ゆうしょう、するの」


クフフフと両手を口にあてて笑うと、兄様が困惑した顔でぼくを撫でる。


「そうだよね、絶対に優勝しないと。アリスターがブロンズクラスで参加だから、優勝できる可能性があるのは僕だけなんだ。アリスターも同じ年頃の参加者には負けないだろうけど……ブロンズクラスには大人も参加するからね」


「んゆ? アリスター、ゆうしょう、ないの?」


アリスターは優勝できないのか……残念だな。


「優勝できないって決まったわけじゃない。でも、難しいだろうね。ブロンズクラスで本選に参加できるだけでもすごいんだよ」


「ふわわわわっ」


そうなんだ。

アリスターは予選は応援に来なくてもいいって言っていた。

でも、兄様に「必ず、本選にいく」って約束していたから、きっとアリスターは本選に進んで勝ち進むと思う。

ムンッ!


「ぼく、がんばって、おうえん、するの。えいえいおー!」


ぼくが右手を勢いよく上げると、白銀と紫紺もぴょんぴょんと飛び跳ねていた。


「そうだね。アリスターを応援しようね。レン、忘れないでぼくのことも応援してね」


パチンとウィンクする兄様に、ぼくはもちろんニッコリ笑って応えたよ。




















ズザザザザッと大きな前足に払われた体を空中で体勢を立て直し、なんとか無事に着地する。


「おーい、リン。生きているか?」


大暴れするケルベロスのせいで土埃で視界が遮られていて何も見えない。


「勝手に殺すな! 生きているよっ! アイスランス!」


リンの声の方向から氷の槍が幾つも飛んできて、ケルベロスの体へ突き刺さる……とよかったが、すべて厚い魔法障壁に阻まれた。


「くそーっ!」


だから、こいつは魔法耐性も持っている厄介なケルベロスもどきなんだって。

通常のケルベロスの大きさを凌駕する体躯に、複数の魔法属性、本来は持っていない魔法障壁と自動再生能力……Sクラスの魔獣よりも強い。


「ザカリー! こいつの魔法障壁をどうにかできないのか?」


「む、無理です。自動展開の魔法障壁ですから、こいつの魔力が尽きない限りこちらから解除はできない。破壊するしかないよ!」


ザカリーの白い神官服が土で汚れて真っ黒になってしまったが、口調まで荒々しいものになっていく。


「……ミック」


「ハアハア。なんだ?」


俺と同様、前衛のミックは体力が削られ、得意の敏捷さが失われつつある。


「これはもう、時間をかけてはいけない戦いだと思う」


「?」


これ以上、俺たちの体力と魔力が削がれないうちに倒さないと、逃げる力もなくなってしまう。

だから、俺はセーブしていた力を開放すべきときだと判断した。


「ちと、風魔法を思う存分使おうと思う」


「……。え? げええええええぇぇぇっっっ!」


ミックの絶叫に何事かと、パーティーメンバーが走り寄ってくるが、こういうときに一塊になるのは悪手だぞ?

ケルベロスの三つの頭がこちらを向き、六つの眼が俺たちを捉えた。


「ヤバッ。シールド」


走ってくるリンとザカリーの背中に魔力防御を張ると、ケルベロスの口から発せられた火球が次々とぶつかって爆ぜた。


「うわっ。助かったよ、アル」


「はーっ、はーっ」


「リン、ザカリー。アルが風魔法を使うって。それも全力で」


ミックの言葉にリンとザカリーは絶句するけれど、もうそれしかないだろう?


「……それは……」


「リン、止めるな。俺はいい加減、宿に帰って風呂に入ってメシを食って酒を飲んで、ベッドで寝たいんだよっ」


どれだけの間、ダンジョンに籠っていると思ってんだ!


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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