剣と恋 2
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兄様がぼくを王都屋敷に置いてけぼりにして、剣術大会の申し込みに行ってしまったのをぶーぶーと頬を膨らませて待っていたら、兄様と父様が同じタイミングで帰ってきました。
「おかえり、なちゃーい」
ハッ! つい嬉しくて満面笑顔で走り寄ってしまった。
「諦めなさい。レンはいつでもニコニコしていたほうが、かわいいわ」
紫紺、そうかな?
「レンはいい子で待っていたから、うーんとギルやヒューに甘えるといいぞ」
白銀が鼻でぼくのお尻をグイグイと押す。
そうかな? いい子で待っていたからちょっと我儘を言ってもいいかな?
「とうたま、にいたま、おかえり……、どうちたの?」
それぞれ別の馬車で帰ってきた二人は同じタイミングで馬車を下りてきた。
ものすごく膨れっ面をして。
「「ただいま」」
んゆ? ぼくの顔を見ても厳しい表情はそのままだよ?
「とうたま?」
「はーっ。ヒュー、このまま執務室まで一緒に来い。話がある」
「わかりました」
父様と兄様がスタスタとぼくを置いて屋敷へと歩いていくから、ぼくも遅れまいとトコトコと早歩きです。
「う~っ」
でも父様たちの早さにはついていけなくて、悔しくて目がウルウルとしてきた。
「レン様、失礼します」
後ろからひょいとぼくを、ひょいひょいと白銀と紫紺、おまけに真紅を抱き上げてセバスがスタスタと歩いてくれる。
「セバス!」
「申し訳ありません。少々、旦那様は機嫌が悪いみたいで」
「ううん、いいの。セバスもおかえり」
「ただいま……でございます」
セバスと二人でニコーッと笑い合ったけど……父様と兄様の周りにはズモモモと怪しいトラブルの気配がしています。
バンッと父様が執務室の重厚な机に叩きつけたのは一通の白い封筒。
「父様、これは?」
兄様は父様と執務机を挟んで対面に立っていて、ぼくはセバスにソファーに優しく座らせてもらいました。
カチャカチャとお茶も用意してくれるみたいです。
「いいか、落ち着いて聞け」
父様が一段と低い声を出して、ゴクリと兄様の喉が鳴った気がします。
ぼくも、いつもと違う父様の雰囲気に緊張してきました。
ギュッと白銀と紫紺を抱っこしておこう。
「あら」
「うげぇ。ちょっとキツイぞ」
白銀と紫紺もじーっと父様たちを見つめている。
「これはな……今日、陛下から渡された、婚約の申し出だ。釣書きを送るのをすっ飛ばして婚約の申し出を、王家に直接出しやがった」
「婚約? 僕のですか?」
兄様へ婚約の申し出を王家に出した……んゆ? 婚約のお願いなら父様にするんじゃないの?
ぼくの眉がヘンテコな角度になっているのを見たセバスが小声で教えてくれた。
「通常は家と家同士、または本家筋にお伺いを立てます。ヒュー様のお相手なら、旦那様か辺境伯のハーバード様へ申し出ますね。そこを王家に仲介を頼むということは、相手が断りにくいように、又は王命としての婚約を狙っているときです」
「おーめー?」
「国王陛下からの命令ですので、ブリリアント王国民は決して断ることができません」
「ひえっ!」
じゃ、じゃあ兄様はその婚約を申し出てきた人と、王命で結婚しなきゃダメなの?
「ああ、大丈夫だ、レン。心配するな。あのバカ野郎が王命だと言ってきてもブルーベル家はその縁談を断れる。ブリリアント王国がブルーベル家を排除しようと思わないなら王家はこちらの味方だ」
ニヤリと悪そうな笑みを口元に浮かべる父様がカッコイイです!
「ところで、そんな無謀な申し出をしてきた貴族はどこの誰です?」
兄様はイライラした声色で父様に相手を尋ねる。
「……例の白銀たちを欲しがった令嬢だ。ホワイトホース家のご令嬢だよ」
「え?」
「「「ええーっ!」」」
「ピイッ!」
<なにごとだ!>
兄様は戸惑いの、ぼくたちは驚きの、そして真紅は目覚めの一声を上げた。
「どうやら、その令嬢がヒューに一目惚れしたらしく、どうしても何があっても絶対に婚約したいらしい」
「お断りします」
兄様が即答です。
ぼくも、あの子が兄様と結婚してぼくの義姉様になるのは、ちょっとイヤかも。
「ギル。アナタ、その家とその本家と抗議文を送ったんでしょう?」
紫紺がぴょんとぼくの腕から離れて、トコトコと父様のほうへ移動する。
「ああ。ちょうど行き違ったみたいだ。相手も婚約の打診の返事かと思ったら抗議文で驚いているだろうよ」
父様は、忌々し気に言い放つとセバスが用意したお茶を一気に喉へ流し込んだ。
「では、お断りを。もし王命で無理やり婚約させるなら……そうですね、僕はブルーベル家を出奔します」
「おい、ヒュー!」
ぴょんとぼくの腕から白銀までもが飛び出して、タタターッと兄様へ駆け寄り、そのままの勢いで背中を駆け上っていく。
「もちろん、そのときはレンたちも連れて行くし、母様やリカも同行したいなら僕は止めません。ああ、アリスターも連れて行きます」
「おまっ……。だったら俺も連れて行け―っ!」
父様が魂の叫びを上げたところで、バシンッとセバスが頭を叩きました。
「落ち着きなさい。婚約など受けなければいいのです。天下のブルーベル家がたかがホワイトバード家の分家に唯々諾々としてどうします」
「ああ……そうだったな」
父様ったら、ご乱心です。