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不吉な予感 5

兄様の登場でぼくはホッと胸を撫で下ろした。


「アリスター。状況の報告」


兄様はいつもとは違う、キリリとした厳しい声でアリスターに命じると、アリスターはその場に片膝を付いてハッキリと告げる。


「ハッ。レン様に対してそちらの方が白銀様と紫紺様を譲るように強請られたとか。無理やりに連れて行こうとそちらの護衛の者が手を出したとき、真紅様が抵抗されました。その際、真紅様を掴んで地面に強く叩きつけられました。真紅様は負傷しているかと」


「白銀と紫紺を? 真紅が怪我を?」


兄様は少し離れたところで円陣を組んでいる白銀たちへチラリと視線を投げたあと、ギロリと真紅に突かれた男の人を睨む。


「ホワイトホース侯爵家では、他家のモノを無理やり奪うことが正当化されているのか? しかも小動物に怪我までさせて?」


「そ……それは」


男の人は真紅に突かれた手の甲をもう一方の手で押さえつつ、幼い主人の顔色を窺う。

あの子……あれ?


「んゆ?」


なんだかさっきまでとは、様子が違うような?

じーっと兄様を見ている気がする。

男の人も主人の反応がなくて困っているみたい。


「にいたま。このこ、アリスター、ケモノって」


ぼくは告げ口します!

白銀たちをぼくから盗ろうとしたのも許せないけど、大事なアリスターを侮辱したのも許せない!


「なに?」


ヒュルルルルと兄様の周りに冷たい風が吹き、キラキラと氷の粒が空から降ってきた。


「ひっ!」


女の子の周りにいたメイドさんや護衛の人たちが腕を摩り空を怖々と見上げる。


「……正式にブルーベル伯爵家から、そして辺境伯騎士団の騎士への侮辱を辺境伯閣下から、ホワイトホース侯爵家に抗議を申し上げる」


フンッと鼻で笑い、兄様はくるりと女の子たちに背を向け歩きだす。


「アリスター、帰るぞ」


「はい、ヒューバート様」


アリスターはぼくを抱っこしたままスクッと立ち上がると、兄様の後ろを歩く。

兄様とアリスターがいつもと違う態度なのが気になるけど、今は怪我をしたかもしれない真紅が心配です。


「しんく……」


ぼくの目の錯覚でなければ、白銀と紫紺が仲間を心配しているはずなのに、前足でゴロゴロと真紅の小さな体を転がしているように見える。


「んゆ?」


ダメダメだよ。

白銀と紫紺の暴挙を止めようとしたぼくの項にチリリとした痛い視線を感じる。

ひょことアリスターの肩から顔を出してみると、あの女の子が瞬きもせずにじーっと兄様を見ているようだった。

え? 怖いっ。


















ガタンゴトンと揺れる馬車の中で、ぼくの膝の上には真紅がボロボロの姿でべしゃりとしている。


「いたいの、いたいの、とんでけ~」


痛いのがなくなる呪文を口にしながら、ナデナデと頭から翼の先、ちょんとした足まで全体を撫でてあげます。


「放って置け、レン。神獣だからそんなかすり傷はすぐに治る」


白銀がフンッとつまらなさそうに鼻息を零すと、紫紺まで苛立たしげに尻尾をビッタンと床に叩きつける。


「情けないわねぇ。あんな奴、手の肉ぐらい千切ってやればいいのに」


こ、怖いし痛いよ、紫紺。


「ピイピイッ」

<俺様だって神気さえ戻っていれば>


真紅は体の痛みよりも心の痛手が重傷です。


「しかし、厄介な相手だな……ホワイトホース侯爵家って、前に王都に来るときに利用した転移陣の領地、ホワイトバート公爵家の分家なんだよね」


以前、王都に来たときは、まだ紫紺の転移魔法が完璧ではなかったので、ブリリアント王国にいくつかある転移魔法陣を利用しました。

その転移魔法陣が、ブルーベル辺境伯の領地から一番近いのが、王族の主治医でもあるホワイトバート公爵様の領地だったんだ。


でもね、兄様の怪我が治せなかったホワイトバート公爵様が、兄様の足が治ったことで少し評判が悪くなったことがあって、ホワイトバート公爵家の人たちはブルーベル辺境伯の人たちのことをあまり好きじゃないみたい。

転移するときも意地悪されたし……。


父様やナディアお祖母様の話では、公爵様自身とその弟様は立派な人で、ブルーベル辺境伯に対しても思うところはないらしい。

でも、主人を盲愛している使用人や分家の人たちは、公爵家に傷を付けたと逆恨みしている。


その、ホワイトバート公爵家の分家のホワイトホース侯爵家のご令嬢とのトラブルとは、父様に頭の痛い問題を作ってしまったかも……。

ちょっぴり、しょんぼりするぼくに兄様が優しい笑顔で慰めくれる。


「大丈夫だよ。悪いのはあちらだし。そもそも白銀たちは神獣様と聖獣様だよ?あちらが陛下に直訴したってレンから奪うことなんてできないよ」


「にいたま……」


「そうだぞ。だいたいレンの傍じゃなかったら、下界(ここ)にいる意味ないしな」


「そうよ。アタシたちは自由だから、あの生意気な子どもと一緒にいることなんて選ばないわ。神様の命令だって聞きはしないもの」


白銀と紫紺が並んでお座りして、胸をえっへんと反らす。


「しろがね。しこん」


ぼくは二人をぎゅっうと抱きしめた。

もちろん、ぷいっと顔を横に向けているかわいい神獣フェニックス様も、ぎゅっと抱きしめたよ?




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