不吉な予感 2
ダイアナさんに氷雪山脈地帯で見つけた精霊楽器の報告をして、紫紺の収納魔法から楽器を出して見せてあげたら、絶句していた。
そして、ダイアナさんから真面目な顔でお約束させられた。
「いい、レン? 次に精霊楽器を見つけても触っちゃダメよ。たぶん最後の精霊楽器は奴が持っていると思うけど、万が一があるから、注意しておくわ」
「う……うん」
ガックンガックンと両手を肩に置いて揺さぶるから、ぼくの頭が前後にガクガクしちゃう。
「ダ、ダイアナ。放してあげて。レンの首が取れちゃうよ」
あわあわしたウィル様が助けてくれました。
ありがと。
うえええっ、ヒドイ目にあったと帰りの馬車で兄様に甘えておきましょう。
「よしよし。レン大変だったね」
兄様の膝の上に倒れこんでぼくの頭を優しく撫でてくれる兄様は優しくて最高です。
「でも、ダイアナが言うとおり、精霊楽器には触っちゃダメだよ」
「あい」
でも最後の精霊楽器は誰かが持っているんでしょ?
「アイツの口ぶりだと、探している光の上級精霊が持っているんじゃないかしら?」
「ダイアナが持っていたのは、あの女が粘着質なタイプだからだろ? 水も火も土も誰も楽器持ってなかったじゃねえか」
紫紺の予想に白銀が疑問を投げかけました。
「んゆ?」
そういえば、今までの精霊楽器ってどこで見つけたっけ?
「にいたま、がっき、どこ? どこにあった?」
「ん? 見つけた楽器のことかな? そうだな、最初の笛は道化師の男が持っていた」
ぼくがオカリナに変えちゃった笛ね。
「そのあとアースホープ領の果樹園で鈴を見つけて、琥珀のところに行くときに遺跡の中で見つけたのは小さな太鼓だったけ?」
もう一つはダイアナさんが持っていた琴です。
「果樹園で見つけたって、あれは世界樹の側にあったのよ」
「……世界樹、遺跡、そして氷雪山脈地帯では祠に祀られていた」
兄様と紫紺がムムムと難しい顔で考えこんじゃいました。
「あのね、あのね。どこかだいじなところ。だいじにしまってる」
ぼくが想像するのに、昔むかーしに精霊楽器を奏でた人たちはその楽器を大切にしたんじゃないかな?
だから、水や火の精霊王様は楽器を取り上げることなく、その人たちに託したとか。
でもね、長いながーい時間が経って、大事にしまってあった場所が朽ちて、楽器を奏でていた人もいなくなって、そうして楽器はみんなが知らないところへ隠れてしまったのでは?
「んっと、せかいじゅ。いしぇき。ほこら。ささげるもの?」
「え? 捧げる? ああ、もしかして神様に捧げるものってことかい?」
「あい!」
ぼくは兄様に笑って頷きました。
アランさんが大好きな白銀に捧げるために祀っていた精霊楽器みたいに、誰かが神様に捧げるために神様に近い場所に置いたんだよ。
「だとしたら、道化師の男はどこから精霊楽器を盗みだしたのか……」
「それよりヒュー。もし光の上級精霊が精霊楽器を持ってなかったら、最後の精霊楽器はレンの言うとおりどこかの何かに祀られている可能性があるわ」
ダイアナさんは闇の精霊と契約した人から役目を終えた精霊楽器を預かっていたんだね。
無理やり、取り上げたんじゃないよね?
「……そんなに穏やかな話じゃないぞ。あいつは自分のモンを人にくれてやるのが嫌だっただけだ」
白銀がフンフンと鼻をぼくのお腹にぶつけて、ダイアナさんの悪口を言ってくる。
「神様に祀るとしたら教会だけど、楽器が祀られている教会を調べるのも大変だよ? しかもブリリアント王国だけじゃなくて他の国も調べるなんて」
兄様が途方に暮れた顔をしてるけど、ぼくはそれどころじゃない。
いっけない! 忘れてた。
「にいたま、にいたま、たいへん、たいへん」
バシバシと兄様の太ももを叩いて、ぼくは主張する。
「ど、どうしたの、レン?」
「ぼく、きょうかいにいくの、わすれてたの!」
両手を両頬に当ててぶにっと押しつぶして叫ぶぼくに、白銀と紫紺はスウーッと顔を背けた。
「んゆ?」
「気づいちまったか……忘れてていいのに」
ちえっと舌打ちすると、紫紺が俺の肩を前足でバシバシと叩く。
「レンはどうして教会に行きたがるのよっ」
耳元でガルガルルと唸らないでほしい。
「そりゃ、あの方にあいたいんだろうよ」
「会いたい? あの方に? その気持ちがわからないわ」
俺だってわからないよ。
でも、レンはあの方をとっても偉い神様だと勘違いしているからな……ポンコツなのに。
「ピイピイピイッ」
<レンはただ、俺たちの色ガラスが見たいんだろ>
教会には俺たち神獣聖獣が描かれた色ガラスの部屋がある。
レンは神に祈る祈祷室にあるそれを楽しみにしていた。
そりゃ、俺たちも自分の色ガラスがあって、それを見たレンが喜ぶのを見るのが嬉しいが。
「確か王都にはあの方の神気が残る物があったよな?」
「以前来たときには会えたんだから、あるんでしょ」
「それ……隠しちゃダメかな?」
あの方はこちらに干渉することを控えている。
だから、あちらからレンに会いたいと思っても会うことはできないらしい。
唯一、レンと繋がるのがあの方の神気が残る神具がある教会の神像の前だけだ。
「……賛成したいけど、やめなさい。あの方が泣いて鬱陶しいから」
「ピイピーイピーイ」
<レンに知られたらお前嫌われるぞ>
「……はああぁぁっ。我慢するか」
俺は息を吐きつくすと、交差した前足に顎を乗せて昼寝の体勢になった。