不吉な予感 1
ぼくは、王都のお友達であるウィルフレッド第三王子様に、兄様にきたお見合いのお茶会の話をしてあげました。
今日は、王宮にお呼ばれしたので兄様と一緒にお城に来たんだよ。
白銀たちはもちろん、アリスターも一緒です。
昨日の今日と連日でお城には行きたくないと父様は、母様に頼まれたお買い物に行きました。
そのお買い物だって、最初はセバスに頼むつもりだったのに、そんなにお城に行きたくないのかな?
「……それは大変だったね」
ウィル様が紅茶をひと口飲んだあと、しみじみと兄様に同情しました。
なんでだろう?
「ウィルも婚約者を決めるように周りに勧められて困っているのよ。家族は気にしなくていいって言うけど、大臣とか偉そうな爺とかにこやかな顔をして自分の娘や孫を勧めてくるの」
ウィル様の隣に座ったダイアナさん、闇の上級精霊はウィル様を心配している風だが、完全に面白がっている。
「ようやく王族としての人の前に立つのに慣れてきたのに、婚約なんて考えられないよ。ジャレッド兄様だってまだなんだよ?」
がっくりと肩を落としたウィル様が出した名前は、第二王子のジャレッド様だ。
先祖返りでエルフ族の耳の特徴を持って生まれたウィル様をなんとか王族として認めさせようと、エルフ族の王が治めるアイビー国へ留学していた弟思いの王子様なんだよ。
「僕も、いまはまだ婚約は考えられません。それに……どうやらブルーベル家は、政略結婚してもすぐに破綻する一族らしいです」
「どういうこと?」
ダイアナさんが興味津々で兄様の顔を覗き込みます。
この話を昨日父様たちから聞いたときは、紫紺がものすごく鼻息荒く話を聞いていました。
二人とも興味があることが似ているのかな?
「代々、ブルーベル家の直系は生涯の伴侶を自力で見つけ出してきたみたいです。あ、でも僕の父のように運命の相手が隣の領地の幼馴染ということもありますが」
そう、父様は母様のことを幼いころから知っていて、そのころから父様は母様に一途です。
現辺境伯のハーバード様も、恋愛関係なんて興味なさそうな冷静な方ですが、レイラ様とあるパーティーで出会ってからは押せ押せの猛プッシュで結婚したとか。
ブルーパドルの街にいるお祖父様もお祖母様が魔獣と戦う姿を見て恋に落ちた。
何代か前に、王命で政略結婚したときは二人の不仲にブルーベル辺境伯の領地がガタガタになり、ハーヴェイの森の魔獣のスタンピードが重なって大打撃だったこともあったと歴史書に書いてあり、この一件でブルーベル辺境伯家は王命での結婚を拒否できる権利を持つことになった。
「ふうん。じゃあ、ヒューはまだ自分の運命とは出会ってないのね?」
「そういうことになりますね。それ以外の出会いは凄く恵まれているので、結婚相手との出会いが遅くても構いませんが」
兄様は涼しい顔でダイアナさんの質問に答えると、ぼくや白銀、紫紺、アリスターへと視線を送る。
「えへへへ」
ぼくも、ぼくも兄様と出会えたのは凄く幸運だったと思います!
アリスターもちょっと照れてるけど嬉しそうに口の端を上げていた。
「ところで、王宮で行われるガーデンパーティーには参加するの?」
ウィル様がこてんと首を傾げて尋ねてきた。
「がーでんのぱーちー?」
「ガーデンパーティーよ。お庭をキレイに飾って、美味しいスイーツと軽食をたくさん用意して、お友達とお喋りする会よ」
ダイアナさんが教えてくれたガーデンパーティーは楽しそうだけど、兄様の顔が憎々しげに歪んでいきます。
「お・こ・と・わ・り・します」
兄様が一言一言区切るように強めにお断りしました!
「に、にいたま?」
兄様はガーデンパーティーに何か嫌な思い出でもありますか?
「違うわよ。ガーデンパーティーと名前を変えても年頃の貴族子女たちのお見合いの場所なんでしょ」
「なんで参加しないのか? うまいモノがいっぱい食えるのに」
紫紺の言葉にぼくの背中がゾワワとしたけど、白銀の意見には賛成します。
「一人で参加するより友達が一緒ならって思っただけだから気にしないで。それよりも、ガーデンパーティーに参加するのに貴族の子たちが王都に集まってきているから、気を付けてね」
ウィル様、やさしい。
兄様が嫌な思いをするなら参加したくないけど、ウィル様のためには参加したい気もする。
うむうむと腕を組んでぼくが唸っていると、ダイアナさんがとってもいい笑顔で大事なことを教えてくれた。
「おチビちゃん。あなたはまだ参加できないわよ。もう少し大きくなってからね」
パチンとウィンク付きで言われて、ぼくの頬っぺたはぷくぅと膨れるのでした。
ちぇっ。
ウィル様とはまたお会いする約束をして、別れました。
ウィル様も剣術大会を観に行かれるけど、王族用の特別室でご覧になられるから、当日はお会いできないみたい。
残念!
あと、兄様がヒヨコクラスで参加することをお伝えしたら、ダイアナさんと一緒に体をくの字に折り曲げてプルプル震えていた。
あれれ? 気分でも悪くなりましたか?
兄様も顔が少し赤いですよ? お熱が出ちゃったのかな?
「レン。いいから、ヒューはそっとしておいてやれ」
兄様のおデコにぼくのおデコをごっつんこしてお熱を測ろうとしたら、アリスターにひょいと体を持ち上げられてしまった。
さて、馬車に乗って王都屋敷まで帰りましょうかとなったそのとき、今までスピースピーと寝ていた真紅が起きた。
そして一言。
「ピーイピピッ?」
<お前ら、精霊楽器を見つけた報告したのか?>
あ、忘れてた。
ダイアナさーん!