王都にて 4
んゆ?
ぼくはのんびりと王都の平民街の大通り……の端っこを歩きながら、あることに気が付いた。
通常、ぼくたちで街を歩きたいと言ったら過保護な父様がごっそりと護衛を連れて行くようにと眉を吊り上げる。
だけど、今日は土地勘のほぼない王都だというのに、兄様とアリスターだけだ。
これは、前回氷雪山脈地帯にぼくたちだけで赴き、無事故で無事帰還したことから父様たちからの信頼がアップしたおかげだろう。
ちなみに信頼度が上がったのは兄様とアリスターで、ぼくと白銀たちは含まれない。
どうして?
そして、こういう場合、いつもぼくたちと行動を共にしがちなのが、冒険者として有名なあるパーティーだ。
「にいたま、にいたま」
ぼくは兄様と繋いでいる手をクイクイッと引っ張って、兄様へ呼びかける。
「ん? なんだい? なにか食べたいものでもあった」
「んゆ?」
そ、それは、あっちのちっちゃいドーナツも気になるし、あっちのハート型のパンも……あ、あっちには生クリームたっぷりのクレープがある。
キョロキョロと屋台に興味を移したぼくに、アリスターがコツンとぼくのおでこを小突く。
「レン? なにかヒューに聞きたいことがあったんだろう?」
はっ! そうだった。
「にいたま、あのね、あのね。アルさまたち、どこ?」
そう、父様の弟のアルバート様はセバスの弟リンと獣人のミックさん、神官のザカリーさんと冒険者パーティーを組んでいて、たまにぼくたちの護衛もしてくれるんだよ。
なのに、ここのところ全然姿を見かけないんだけど?
「ああ、アルバート叔父様ね」
兄様がちょっと呆れた顔でアルバート様の名前を呟く。
「レン。アルバート様たちは今、ダンジョンに挑戦されている。本当だったらもう戻ってきてもいいんだが……前辺境伯夫人もブルーパドルの街へ帰られたし」
アリスターもちょっと困った顔をしている。
「あれでしょ? アルバートったらロバートやナディアに鍛えられたくなくって逃げたのよ。なのに、いつまでたってもダンジョンから戻ってこないから、ギルもハーバードもかなり怒っているみたいよ」
「あいつら、帰るとギルやセバスたちに鍛えられるから、わかってて帰ってこないんじゃないか?」
紫紺と白銀は面白そうにアルバート様の話をしているけど、真紅はその横で串肉を何本も手に持って肉を頬張っている。
「ダンジョン。にいたま、アルさまは、どこの、ダンジョン?」
「そういえば……どこだろう?」
「まさか、最難関ダンジョンだったりしてな」
「まさか。だったら帰ってこないアルバート叔父様を父様たちは心配するはずだよ」
兄様とアリスターの会話を聞きながら、紫紺は結んだ髪の先を弄びながらポツリと呟いた。
「もしかして……招かれたのかもね」
今日はここまでと大通りを中央広場で折り返して貴族街への門まで戻ってきました。
ぼくたちの姿を見た馭者さんがホーッと胸を撫でおろしているのが見えちゃった。
おじさん、大丈夫です。
何も問題は起こしていません。
白銀が人相がちょっと悪いおじさんと武器が当たったとかで言い合いになり、殴り合いの喧嘩をしたり、キラキラと輝くガラス玉のアクセサリーを気に入った紫紺が、ふくよかな体形のおばさんとアクセサリーの取り合いで大騒ぎしたりとか。
真紅が迷子に三回なって、その度に屋台での無銭飲食でペコペコとアリスターが頭を下げて謝罪したりとかぐらいです。
ぼくと兄様、アリスターとディディは何事もなく無事に帰ってきたよ?
「ヒュー。白銀様たちにも留守番してもらったほうがいいんじゃないか?」
「……そうかもね」
白銀たちが一緒じゃないとつまらないよ?
「レン。レンは王都でどこか行きたいところはあるかな?」
兄様が笑顔でぼくに聞いてくるから、う~んと考えて……あ、忘れてた。
「にいたま。うぃるさまのところは?」
せっかく王都まで来たのだから、お城に住んでいるお友達のウィル殿下に会いに行かないと。
「わざわざ会いに行かなくても大会が始まればすぐ会えるんだけどな」
「おいおい。団長のところに王城からの招待状も届いていたし、行かなくても招待されると思うぞ」
アリスターがぼくの頭をなでなで。
そうかな? ウィル殿下に会いに行かなくても会えるかな?
「レン。気にしなくてもいいわよ。用があったらダイアナが飛んでくるでしょ。放っておきなさい」
首や手首にジャラジャラとアクセサリーを巻き付けた紫紺はうっとりとそれらを眺めている。
「……ちっ。あの野郎。俺も剣術大会に参加するか? やっぱり名前を売らないと小者がうるさいな」
白銀が腕を組んで難しい顔をしているけど、剣術大会に参加するのかな?
「や、やめてくださいよ。俺とクラスが被るじゃないですか!」
「ああん? アリスター、お前はブロンズだろう? 俺だったら強い冒険者だからゴールドだ」
バンッと胸を張るけど、兄様がフルフルと頭を横に振る。
「実績がない白銀は今年はゴールドは無理だね。ブロンズクラスだよ。ゴールドで参加したいなら、それこそ最難関ダンジョン踏破でもしないと、冒険者のランクが飛び級で上がることはないよ。今からじゃ無理」
兄様の言葉に白銀はガックリと肩を落とした。
馬車で屋敷に帰る中で兄様はプンと頬を膨らまして文句を言っていたのが聞こえた。
「僕だってブロンズクラスで出たいよ。ヒヨコクラスだなんて……」
まだ、納得してなかったんだね、兄様。