王都にて 1
ぼくと兄様、白銀と紫紺と真紅に父様とセバス、捕獲済の翡翠と中身が空の分身体の琥珀。
護衛として、アリスターと騎士団のアドルフ率いる小隊をまとめてババーンと紫紺の転移魔法でやってきましたブリリアント王国の王都です!
いきなり大所帯が街に現れてビックリしないように、ブルーベル辺境伯の王都屋敷のお庭に転移しました。
事前にお手紙で知らしておいたので、ここ、王都屋敷を仕切るフィルを先頭に使用人たちがお出迎えしてくれます。
「お帰りなさいませ、ギルバート様、ヒューバート様、レン様」
セバスの叔父であるフィルは、ペコリとキレイな礼をしてぼくたちに優しい眼差しを向ける。
……でも、甥のセバスを見る目はキラリと鋭いかもしれない。
「ああ。転移魔法で来たからな疲れてもないが、一休みしたい、こいつらも部屋に案内してやってくれ」
父様はフィルに軽く手を振ると、スタスタと並んでいる使用人たちの前を堂々と歩き、屋敷の中へと入っていく。
ぼくと兄様は手を繋いでトコトコ歩いて、その後ろを白銀と紫紺が付いてきた。
「ティーノはここで」
「……はい」
なんで、セバスの家族って身内に厳しいのかな?
ぼくは呑気に考えていたけど、このあとしばらくセバスの顔を見ることはなかった。
どうやら、修行をしていたらしい。
んー、大変だなぁ。
「なんで、ボクまで付き合わないといけないんだーっ!」
この日以降、王都屋敷の夜には、翡翠のそんな泣き声が聞こえてきたような? 気のせい?
でも、このときのぼくは、久しぶりの王都にワクワクしていた。
「剣術大会当日は母様もフレデリカを連れて観戦にくるからね」
兄様がどことなく黄昏た空気を背負って教えてくれました。
「あい。……にいたま、がんばってね」
ヒヨコクラスなら兄様は絶対に優勝できます!
「頑張る必要もないレベルだと思うけど……。そんな試合を家族に見られるほうが苦痛だ」
グッと片手を握って兄様が苦しそうな声を出すから、ぼくはビックリしました。
そ、そんなに嫌なんだろうか?
「放っておけ、レン。勝てたら最難関ダンジョンに挑戦してもいいんだろう? だったら我慢するしかないだろうが」
白銀が他人事のようにあっさりと言います。
「そうね。ここまで油断していて、本当にヒヨコちゃんに負けたら、赤っ恥だけどね」
紫紺がニシシと意地悪そうに笑いました。
「わかってるよ、白銀と紫紺。ちゃんと剣術の稽古はするし、優勝して最難関ダンジョンに挑戦する許しを父様から貰うよ」
兄様が顔に「不満」と書いてある表情で言い切ると、頭をブルンと振って気持ちを切り替えます。
「剣術大会までは日にちがあるから、明日は兄様と一緒に王都見物に行こう!」
「あい!」
ぼくは嬉しくてぴょんとジャンプして答えました。
王都見物……前回はナディアお祖母様と一緒だったけど、今回は兄様だけならいっぱい買い物したりしないよね?
「護衛にはアリスターだけでいいだろう。白銀と紫紺もいるしね」
パチンと兄様がウィンクすると白銀はえっへんと胸を張り、紫紺は嬉しそうにピーンと髭を立てます。
「ピイ?」
<おい、ヒュー。俺様は?>
白銀の頭の上で小鳥姿の真紅が首を傾げていた。
実は、王都に行くメンバーの人選にはとても苦労したらしい。
なんといっても紫紺の転移魔法で一瞬で移動できるのだ。
長い旅路を思って逡巡していた者も、負担がなく行けるならばと手を上げた。
同行する使用人はセバスが選抜し、騎士たちはアドルフたち主要四人がゲームをして勝った隊長率いる小隊が随行することになった。
父様は母様とリカちゃんにも当然、声をかけたけど母様はにこやかに断った。
「ヒューとアリスターの試合は観戦するわ。日帰りで」
やっぱり剣術大会が開催される王都は人が多く、あちこちで諍いも起きるので母様としては滞在したくない理由らしい。
「それだけじゃないのよ。剣術大会に参加する選手は大注目だから、一緒にいるとトラブルに巻き込まれやすいの。レンちゃんもお母様と一緒に試合の日だけ移動したらどうかしら?」
「んゆ? ぼく、にいたまといっちょ!」
トラブルに巻き込まれたって兄様が一緒なら大丈夫だもん。
白銀と真紅はちょっと心配だけど、紫紺がいるし……琥珀もずっと分身体の中にいるわけじゃないし……。
女の人とトラブルを起こしそうな翡翠はセバスがしっかりと首根っこを押さえているから大丈夫?
「レン、問題はな……孫大好きな父上と母上だ」
「い、いやですよ! 僕が剣術大会に参加するって言わないでください! ヒヨコクラスに出るなんて恥ずかしいです」
兄様が顔を真っ赤にして父様にお願いしていたけど……もう、セバスが定期連絡として伝えてしまった。
「うう……、ひどい」
しばらく、兄様は落ち込んで立ち直れなかったけど、その兄様に追い打ちをかけたのは、従兄でブルーベル辺境伯嫡男のユージーン様だった。
「なんだ、ヒュー。楽しいことになっているじゃないか? ヒヨコに交って剣を振るとか?」
ユージーン様はあーははははっとお腹を抱えて笑います。
ムッとした兄様は、たまーに聞く低ーい声で、ボソッと呟きました。
「ソフィアも王都に連れて行こうかな。向こうにはフィルがいるから、立派な執事教育を施してくれるだろう、それはもう一生執事として全うしたいと決意するような……」
「ま、待て! ヒュー、悪かった。それだけは、それだけはやめてくれーっ」
「んゆ?」
なんで、ハーバード様の執事でセバスのお兄さんティアゴの娘さん、ユージーン様の執事見習い中のソフィアさんが執事の勉強に励むとユージーン様が困るんだろう?
ぼくが首を捻りまくっていると、紫紺がふうっと息を悩まし気に吐いた。
「そりゃ、プロポーズができないからよ」
ぼくは兄様とユージーン様が仲良く口喧嘩している姿を見ながら、王都への希望に胸を膨らませている。
とにかく、王都でいっぱい楽しんできまーす!