最難関ダンジョン 4
最難関ダンジョンにチャレンジするのに、ぼくの実力はどれぐらいですか? と父様に尋ねたらしょっぱい顔した父様が首を横に振りました。
「レン。お前にはまだまだまだ早い。本当にあのダンジョンは嘘偽りなく最難関ダンジョンの名前に相応しいところだ。だからこそ、ちゃんと実力がないと生きて帰れない」
「わおう」
ぼくは口をあんぐりと開けました。
そんなに怖いダンジョンなんだ……。
じゃあ、やっぱりぼくはダメだよね? チラッ。
ボクにはまだ早いよね? チラッ。
「ん? なんでレンはこっちをチラチラ見ているんだ?」
「バカ狼。レンはアタシたちにその最難関ダンジョンに連れて行ってほしいって思ってるのよ」
口のまわりにお菓子のクズをいっぱいつけた白銀が紫紺にパチンと叩かれています。
だってね、どんなに難しいダンジョンでも、強い魔獣が出ても、神獣聖獣だったらへっちゃらだと思うの。
「とうたま、ダメ?」
ぐわっと父様の顔が顰められます。
「レン様。確かに白銀様や紫紺様ならば最難関ダンジョンなど簡単でしょう。しかし、ダンジョンには罠があります」
「わな?」
ぼくはコテンと首を傾げてセバスの話を聞きます。
「そうです。罠は矢が飛んできたり落とし穴だったりするときもありますが、高難度ダンジョンには転移罠がある確率が高く、その罠に嵌るとダンジョン内のどこか別の場所に転移してしまうのです。しかも……仲間と離れて一人だけで」
セバスの声が段々と低くなって、怖い顔で説明してくれるから、ぼくは怖くなって「びゃあ」と叫んで兄様に飛びつきました。
「……セバス」
「ヒュー様。あのダンジョンは一人一人のレベルがダンジョンに見合っていないと本当に危険なんです」
スッと背筋を伸ばしたセバスが言い切ると、父様がウンウンと頷きました。
「そうだぞ。俺とセバスのときも何度も危ない目に合ったんだ」
「「……」」
「バカ、ギルッ!」
バシッとセバスに足を蹴られた父様はぴょんと飛び上がって、足を手で押さえて床をゴロゴロ。
「父様とセバスがダンジョン攻略者?」
「……ついでに父上とマイルズもだ」
「ブルーベル辺境伯家……恐ろしい」
アリスターがディディを抱っこして小声で呟いた。
「じゃあ、ヒューとアリスターが留守番で、ギルとセバスが付いてくりゃいいだろう?」
「そうね。アタシと白銀でレンを守っているから、アンタたちがダンジョンの魔獣を倒せばいいじゃない」
白銀と紫紺がいいアイデアとばかりに床で転がる父様を前足で突く。
「……そりゃ、行けるなら行きたいけど……」
「ギル。仕事が溜まる」
あー、父様はお仕事があるものね。
「残念だが、そういうことだ。ちなみにそこら辺の冒険者じゃ無理だからな。今回は大人しくして、白銀と紫紺で探しに行ってもらいなさい」
ムクリと床から起き上がって父様が提案するけど、白銀と紫紺はつまらなさそうだし、兄様は不満そう。
「ヒュー様。いずれ貴方様も挑戦するときがくるとは思いますが、まだ実力不足です」
セバスにピシャリと言われて兄様は俯いてしまったのに、アリスターはちょっとホッとしている?
「あー、そういえばあのバカが挑戦しているダンジョンって、その最難関ダンジョンじゃなかったけか?」
ガシガシと頭を掻いて父様が落としたその言葉は小さくて、ぼく以外には聞こえなかったみたい。
んゆ? 誰がそのダンジョンに挑戦しているんだろう?
風の精霊さん、その精霊さんと契約できそうな人を探しに最難関ダンジョンへ行く野望は消えてしまいました。
気を取り直して、父様もソファーに座りなおして、お話し再開です。
モグモグとぼくと白銀たちはお菓子タイム。
難しいお話は、わからないから黙っていないと迷惑でしょ?
「ヒュー。お前も自分の実力がわからないから、最難関ダンジョンに挑戦したいなどと言い出すんだ。ちょうどいい。今度、王宮で開かれる剣術大会に出てこい」
「……剣術大会ですか?」
父様の話によると、ブリリアント王国では四年に一度大規模な剣術大会が王宮にて開かれる。
市民にとっては大人気のお祭りみたいなものらしい。
この剣術大会には腕に覚えのある人は参加できるため、一般市民や冒険者、衛兵や騎士、貴族まで誰でも参加できる。
優勝するとたくさんの金貨と豪華な賞品、ご褒美がもらえるんだって。
父様はその剣術大会が開かれるので兄様とアリスターに参加してはどうだ? って勧めている。
「他の騎士たちは参加しないのですか?」
「あんなお遊びに出てどうすんだよ。イタッ」
父様がちょっと悪い顔で話している途中でセバスにパコーンと後ろ頭を叩かれてしまった。
「とうたま?」
「うん。大丈夫だ。大丈夫。ちょっと本音が漏れ出た」
父様の後ろで笑顔のセバスが般若を背負って立っています。
「父様……僕も興味がないです。欲しいものもないですし」
スンッとした表情の兄様がスパッと断ると、兄様の後ろに立っていたアリスターがワタワタと慌て出した。
「おい、ヒュー。剣術大会だぞ? お前剣術好きだろう?」
「弱い奴と試合してもしょうがないし。時間の無駄だろう?」
兄様が不機嫌そうに腕を組んでフンッと鼻を鳴らしました。
「ヒュー? 本当に弱い奴ばっかりだと思うか? 俺はお前は優勝することはできないと思うぞ?」
ニヤニヤと笑う父様がビックリすることを言い出しました!
兄様は絶対に優勝します!