最難関ダンジョン 2
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いつも、ありがとうございます。
兄様とアリスターの調べものに交ぜてもらって、ぼくと白銀たちも地図を眺めます。
「ここは?」
「そこは、あれだ。ほら、桜花がいたところだ」
「ふむふむ」
白銀と一緒に地図を見てお勉強もできちゃうの。
「……桜花がいたのはその隣のアイビー国だろう? レンに嘘を教えるなよ」
クッキーを齧る真紅が白銀に軽蔑の眼差しを向けます。
むむむ、ここじゃなくてあっちが桜花いたところ?
「ああ、レン。わざわざ桜花を呼ばなくてもいいから、その鱗から手を放そうね。桜花がいるアイビー国はこっちだから」
兄様が慌てて指示した場所は白銀と真紅が教えてくれた場所の反対だった。
むう。
「おい、ヒュー。風の精霊が集まってそうな場所、ヤバいところばかりだぞ」
「そりゃそうよ。風が吹くところを好むのよ? だったら高い山や深い谷、人が足を踏み入れられない場所が多くなるでしょ」
アリスターが耳をペションと伏せて情けない顔をしているのに、さらに追撃とばかりに紫紺がピシャリと言い放つ。
「う~ん。僕たちでは厳しいかな?」
「いや、難しいけど、それよりも」
アリスターがこちらをチラリと見ました。
「なあに?」
「いや、なんでもない。なんでもない」
ブルブルルルと激しく頭と尻尾を振るアリスター、怪しいな?
「アリスターはレンを連れて行くのは危ないからどうしようかなって悩んでいるのよ」
紫紺があっさりとアリスターの心情をバラしてしまった。
そして、それを聞いた僕はびっくり!
「え? ぼくもいく。ぼく、みつけりゅ。かぜのせーれーさん、けいやくしゅるひと」
だって、風の精霊と契約できる人がいないと精霊楽器が使えないでしょ?
あと、精霊楽器だって見つけないとダメでしょ?
はて?
「んゆ? がっき、あといくちゅ?」
「そうね、まずはアースホープ領の春花祭で見つけた笛でしょ」
オカリナになってしまった。
「あとは、アースホープ領の果樹園で拾った変な鈴だろう?」
細い棒に三角錐型に鈴が付いてたのに、ぼくが持ったら丸い円輪に鈴が付いた姿になってしまったの。
「琥珀と出会った山で見つけたのは、かわいい太鼓になったよね? レン」
違うのです兄様。
あれは遺跡の中で拾った笛が、いつのまにかでんでん太鼓に変わってしまったのです。
「ダイアナが持っていたのがあったじゃねぇか」
白銀が前足をモニモニ動かしているのはピアニカの鍵盤を弾いてるつもりなのかな?
あれもね……お琴だったのにぼくが触ったらピアニカに変わっちゃった。
「あとは俺様が見つけた、雪山のヘンテコなヤツ!」
真紅が見つけたわけじゃないし、白銀に祀られたものだったし、琵琶だったのにぼくが触ってウクレレにしちゃったし……。
あれ? ぼくが触ると楽器がちょっと変になっちゃうかな?
「いまさらよ」
ポンポンとぼくの肩を前足で叩いて、紫紺が慰めてくれました。
「ダイアナが精霊楽器は六つあるって。残りは一つ。風の精霊の契約者が見つかっても精霊楽器が見つからなかったら、遺跡とか古い神殿とか探さないとダメかな?」
兄様が、遺跡で見つけたでんでん太鼓や氷雪山脈の祠で貰ったウクレレのことを思い出し、難しい顔で眉をググッと寄せています。
さあて、風の精霊さんがいるところはどこかな?
騎士団の棟へ移動して、父様がお仕事している団長執務室の扉をトントンと叩きます。
得意満面なぼくの後ろには、ちょっと項垂れている兄様とアリスターが付き添ってくれています。
ガチャリと扉が開くとセバスがぼくを見て、ほんの少し驚いたお顔をしました。
「こんにちは」
「はい、こんにちはレン様。……ヒューバート様とアリスターまで?」
やや首を傾げながらもセバスは扉を開けてぼくたちを部屋の中に入れてくれました。
「レン! ヒューも! なんだ、なんだ? 父様と遊びたくなったか?」
ぼくはブルブルと頭を横に振ります。
遊びたいからって父様のお仕事の邪魔はしませんよ。
大事なご用があったから、来たのです。
ぼくは父様にも見えるようにババーンと一枚の紙を両手で持って広げました。
「とうたま、これ!」
「なんだ? はっ! もしかして父様の絵でも描いてくれたのかな?」
ウキウキとした足取りでぼくの前まで来た父様は、紙を見た途端、膝から崩れ落ちてしまった。
「とうたま!」
なんか崩れ落ちたあと、ガクガクブルブルしているよ?
たいへん!
「はあーっ。ギル、邪魔だ。さっさっと立て」
コツンと靴のつま先で父様の体を蹴るセバスに、ため息を吐く兄様。
「父様。現実逃避していないで話を聞いてください」
「……いやだぁ。俺は許さないぞ~。絶対ダメだからなぁ」
床に伏せたまま頭を横に振り続ける父様に、ぼくはズズイと持っている紙を近づけて大きな声で言いました。
「とうたま。ちゅぎはここ! ここにかぜのせーれーさん、しゃがしにいくの! ダンジョンよ」
瑠璃とダイアナが一押しの場所は、高ランク冒険者でも踏破は難しい最難関ダンジョンなの!
ぴちょんと後襟足に水が垂れた。
「うっひょう!」
思わず声が漏れちっゃたぜ。
「ばか、アル。何かいるかわからない階層なんだぞ。もっと慎重に……っひょう!」
どうやら隣を歩くリンの首元にも天井からの水滴が垂れ落ちてきたようだ。
「お前ら、緊張感がなさすぎだぞ」
「すまんすまん」
俺たちパーティーは、最難関ダンジョンの最下層、ボス部屋にこれからアタックする。
スーハー。
「よし、いくぞ!」
この扉を開ければ、ボスモンスターに勝つまで開くことはできない。





