失敗の日記帳
ある晴れた日。
ぼくは、大好きな友達に呼ばれてお庭にきています。
ぼくの前には、人化した真紅と土人形に入った琥珀が腰に手を当てて立っている。
ちょっとお顔が厳しいような?
んゆ?
ぼくは困って後ろを向くと、いつもぼくの横にぴったりと寄り添っていてくれる白銀と紫紺が離れた場所でこちらを見守っていた。
しかも、ぼくの視線を感じているはずなのに、二人ともさりげなく視線が合わないように顔を背けている?
なんだろう?
兄様やアリスター、そして父様にも内緒でここに来いって真紅が頼むから来たけど?
あと、なんでだかセバスには絶対に秘密って言われた。
「レン!」
「なあに?」
むんっと真紅が胸を張って、大きな声でぼくの名前を呼んだ。
「気の抜けた返事をするなよっ。俺様はお前に文句があるんだっ!」
「そうだ! そうだ!」
真紅の言葉にちっこい琥珀がぴょんぴょんと跳ねて同意している。
……琥珀ってそんなに滑らかに体が動いたっけ?
「もんく?」
ぼく、何か悪いことしちゃったかな?
こてんと首を傾げると、真紅がムキーッと顔を真っ赤にして怒鳴り始める。
「レン! お前、琥珀のこの体、このスペシャルなボディを、自分が作ったって言い回っているだろう!」
「……こはく、ぼくがつくったよ?」
反対側にこてんと首を傾げてそう主張すると、真紅は右足左足で交互に地団駄を踏み、琥珀はグルグルと真紅の周りを走りだした。
……なあに? どうしたの?
ぼくは二人の奇行に困って再び後ろを向くけど、白銀と紫紺はグルンと顔を後ろに向けてこっちを向いてくれない。
「あ・の・なっ、琥珀のこの体は俺様が作った! 琥珀と協力して俺様の羽とか入れて作ったんだ! お前は土を捏ねてもいないだろうーがっ!」
「んゆ?」
そうだっけ?
ドラゴンさんの里でぼくがコネコネしたような? あれれ? コネコネしたっけ?
ぼくは琥珀を作ったときを思い出そうと両手でエアーこねこねしてみたけど、どうも記憶がない。
「あれれ?」
ぼくが作った琥珀の土人形……じゃなかった?
「俺様が作ってお前に渡したんだ。琥珀が俺様たちと一緒に行くってうるさいから、俺様がカッコイイボディを作ってやったんだ」
「ボクがボクを作ったんだよ? この体をグレードアップしたのはあの方だけど、元々はボクと真紅で作ったんだ!」
真紅と琥珀がズズイとぼくの顔に顔を寄せて言い募るから、ぼくもなんとなく思い出してきたぞ。
「そう……。こはく、おおきくてむり。ちいしゃいこはく……もらったような?」
流石に山みたいに大きなドラゴンの琥珀をブループールの街へ連れて来ることはできなかったし、琥珀はあの場所から動いちゃダメだったから、そのままお別れするつもりだったんだよね。
ものすごく琥珀が嫌がっていたけど。
そこへ……。
「あ、しんくがえらしょうにもってきた」
そうだそうだ。
小さい琥珀の土人形は真紅がドヤ顔でぼくにプレゼントしてくれたんだ。
ありゃりゃ、ぼくってばみんなに間違ったことを言っていたみたい。
ペコリと二人に頭を下げて謝ります。
「ごめんちゃい」
後で、みんなに訂正しておかないと……えっと兄様とアリスターと父様と母様とリカちゃん……はまだ言葉がわからないか……。
「セバスにも、ちゃんとしんくがつくった、いう」
ぼくはギュッと両手を握ってお約束すると、なぜか真紅の顔がサアーッと青白くなっていく。
んゆ?
「……いや、いやいやいやいや、やっぱりいい。お前が作ったことにしてもいい。もういい。何も言うな! 俺様は寛大だから許してやる。だからあの陰険執事に何も言うな!」
「えーっ? 真紅が自分が作ったのにって文句を言ってたんじゃないか。別にボクはどっちでもいいのに」
えーっ?
どっちなの? ぼくはちゃんと琥珀の土人形は真紅が作ったってみんなに伝えるよ。
「セバスにいえば、おやしき、みんなちる。ただしいこと、つたわる」
うんうんとぼくが頷くと、真紅はブンブンと勢いよく頭を横に振った。
「いーやーだー! いいか、レン! 絶対、絶対に、あの執事には何も言うな! 本当のこと言ったらお前とは口をきかん!」
「えーっ! しょれは……やだ」
真紅とお話できないのは寂しいもの。
想像しただけで目がウルウルとしてきちゃう。
「レン。真紅が譲ってくれるんだから、もういいじゃないか」
ポンと右肩に白銀の前足が置かれる。
「そうよ。それに琥珀の体は既に土人形じゃなくて分身体になっているし。そうしたのはあの方だし。もういいじゃない、本当のことなんて」
紫紺が左肩に頬を擦りつけて慰めてくれた。
「でも、ぼく……わりゅいこ」
人が作ったものを自分が作ったって自慢してたんだよ?
「「レンは悪くない!」」
白銀と紫紺が口を揃えて言いました。
「とにかく、俺様はもう気にしない。だから執事には絶対に言うなよっ」
真紅はそう捨て台詞を吐くとダーッと走っていってしまった。
「やっぱり、真紅はおもしろいね」
琥珀がニコニコ顔で笑っているから、ぼくのこと許してくれたのかな?
「こはく、ごめんね」
「レン。ボクはいま、とっても楽しいんだ。だから、もういいのさ」
琥珀はパチンとウィンクすると、ぴょんぴょんと白銀の頭の上まで移動してパタリと動かなくなった。
「ふぅっ。やっと本体に戻ったか」
白銀が呆れた声でそう言いながらも、琥珀の体が落ちないようにゆっくりと歩きだす。
「レン。そろそろお茶の時間よ。屋敷に戻りましょう」
「あい!」
屋敷に戻ったぼくたちは兄様や母様たちと一緒に楽しいお茶の時間を過ごしました。
「んゆ? しんくがいない」
お菓子大好きな真紅の姿が見えなかったから、お菓子を取っておいてあとで渡してあげようっと。
「真紅様。どうして私の姿が見えた瞬間逃げたのですか?」
「ただの人風情が神獣の本気ダッシュに追いついてんじゃねぇよ!」
すみません!
読者様の指摘で気づきました!
琥珀の土人形(分身体)を作ったのは真紅&琥珀です。
レンが作ったようなセリフが多々ありますが、レンの勘違いです!
いや、作者の凡ミスです。毎回毎回、設定覚えてなくてすみません!
教えてくださった読者様、本当にありがとうございました。
作者の代わりに謝ってくれて、レンありがとう。
新章開始まで、しばらくお待ちください。