氷雪の守り神 ~アラン~
ビュルルルルルル……。
今日も強く吹く風が積もった雪を舞い上げ、視界を真っ白に染めていく。
住み慣れた洞穴の横には、もういない仲間たちが作ってくれた狼の氷像が鋭くどこかを睨み雄々しく立っている。
厳しい環境だが、逞しい獣人の狩人たちは今日も狩りにと出かけていることだろう。
特段、どこかの種族に肩入れするわけではないが、目の前で惨たらしい最期は見たくないので、弱い彼らに守護の祈りでも捧げてやろう。
こうして、死して後、仲間の願いで舞い戻ってきた魂は、氷像の中に灯りゆっくりと神格化していった。
人狼族の長、アラン。
人でありながら狼にその姿が変えられる希少種族の若きリーダーは、守ってきた里を熊の魔獣に襲われ瀕死の状態で助けを求め雪の森の中を彷徨った。
元々、人狼族は好戦的で強い種族だったが、弱点も多いとアランは感じていた。
感情的、直情的なため、周りと連携して攻撃することに向いておらず、そもそも日常生活は人の姿で過ごし、敵に会うと狼の姿で攻撃するため、いざとなったときに動きに隙ができてしまう。
慣れた人の姿で武器を持ち戦えばいいかといえば、それもそれで問題があった。
人狼族の武器は鋭い爪と牙であり、剣や槍を持って戦うことは不得手だった。
だから、強い突然変異の熊の魔獣数頭に、誇り高き人狼族が逃げ惑うことになった。
……だれか……だれか……。
意識が朦朧としながらも不思議なことに、こちらに何かがあると足が勝手に動いていく。
冷たい雪の中に狼の足が嵌り、その度に倒れては起き上がり、自慢の毛皮もびっしょりと濡れてしまった。
そして、出会うのだ。
唯一の、人狼族の神に。
神獣フェンリル様。
孤高の神であり、我が一族の守り神。
神々しくて眩しい、我らの守り神……神獣フェンリル様だったのだが。
アランは、先ほどまで一緒にいた騒がしい一行を思い出し、クスクスと楽しそうに笑った。
あの優しくて意地っ張りなフェンリル様、今は新しく白銀様と名乗っておられるあのお方は、ようやく元に戻られたみたいだと、アランは安堵する。
野心に燃える息子の手に自分がうっかり落ち、自分の死が白銀様を悲しませたせいで、あれよあれよとここ氷雪山脈地帯を含めた広範囲で争いが激化していった。
どれだけ優しい白銀様の心を傷つけたことかと、アランはその当時のことを思い出すと胸が痛むのだ。
寂しがり屋で繊細なところもある白銀様を一人、悍ましい中に置いてアランとその仲間はひっそりと次々に命を消していった。
守れなかった……そのことが大好きなあのお方の在り様を変えてしまう。
あの世とこの世の狭間で垣間見えたその状況に、どれだけ涙を流したことか……。
せめて、この世界で白銀様の側に仕え続けられるようにと、老いた友たちが作った狼の氷像。
でも再会してみれば、白銀様のそばには温かい光が溢れていた。
新しい契約者、友達と言い張る小さな主、レン。
神獣聖獣として神界で争っていたはずの、神獣フェニックス様。
同じく、自分より先に創られたことが気に食わないと言っていた、神獣エンシェントドラゴン様……の何か。
口うるさいと遠ざけていたはずの、聖獣レオノワール様。
そして、弱くて嫌いだと疎んじていた人の子や獣人の子に囲まれて、とても幸せそうに笑っていましたね。
その笑顔が、昔ともに酒を酌み交わしたあのころと変わらないことに、泣きたくなりました。
アランは眼を閉じて胸に手を当て、白銀たちの姿を思い浮かべた。
雪が舞う白い世界で暫し幸せに浸ると、パチリと目を開けフッとその姿が雪が融けるように消えていく。
ガオオオォォォォォン
白銀様、貴方が再びここを訪れるまで、この地を守っていましょう。
ここは、我ら人狼族と神獣フェンリル様との約束の地なのだから。
ガオオオォォォン
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