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神様の日記帳 ~最強と最高~

なぜこんなにちんまい、珍妙な姿で楽しそうにしているのが我らの最強なのか、聖獣いや神獣聖獣の中でも最高の出来と賛辞された聖獣リヴァイアサン、瑠璃は理解できずに首を捻った。


目の前には、生まれて初めて訪れた海の中の王国、その王宮に好奇心いっぱいの瞳をキラキラさせている琥珀、その分身である土人形の中に意識だけ移している神獣エンシェントドラゴンがいた。


かわいいレンが生活する屋敷を整えている、人族としては上等の部類に入る執事のセバスに頼まれて、最近自我というか感情が芽生え始めた仲間の神獣エンシェントドラゴンこと琥珀に常識や良識を教えるため、自分のテリトリーへと連れてきたが……。


「瑠璃! あれ、あれはなに?」


「……あれは滝じゃ。人魚のままで移動するときは水が流れているほうが便利だからの」


人化して二本足ならば階段を使うが、足がヒレのままなら水に流れて移動するのが人魚族だ。


「ふうん」


騒いで尋ねたわりには、儂が答えると興味なさそうに返事をするのも気に食わないのう。


「ところでどんなことを教えてくれるの?」


クルリとこちらを向いて、真剣な眼差しで儂の顔を見上げる琥珀に、二、三度瞬きをしてみる。


「ふむ。見間違いではないな。どうした? お主が積極的になるなんて?」


儂らが知っている神獣エンシェントドラゴンは、いつも空をボーッと見ていて何事にも興味がない奴だった。

その強さに白銀と真紅が突っかかっていっても、少しも心が動かされることもなかった。

……儂らにはたいへん迷惑なことではあったが。


「そう? レンたちと一緒にいると楽しいからかな?」


「そうじゃな」


レンの周りは温かく優しい風が吹いている。

その風は、あの争いで心を閉ざした我ら神獣聖獣たちの心を癒し、暗く静かな闇へと堕ちつつあったブルーベル家の者たちも救ったのであろう。


レンが歩き、喋り、笑う。


それだけで、なぜかみんなが幸せを感じ笑顔になる。

楽しくて、嬉しくて、周りへもっともっと優しくしたいと願うようになる。

それは本来、儂らがこの世界に振り撒くはずだった、何かなのだろう。


「しかし、レンたちと一緒にいるならば、人の生活を学ばんといかん。特にあのセバスという人物は……クセ者じゃぞ?」


「うっ。あの翡翠を従えていた人族だよね? ……人だよね?」


「うむ。()()方がやらかしていなければ、ただの人のはずじゃ」


二人はうむうむと頷きあってから、人の生活とやらを見学するため、プリシラの祖父母であるベリーズ公爵家屋敷へと向かった。

















「はあーっくしょんっ!」


ぶぴぴぴぴっと鼻水を盛大にまき散らしてくしゃみをすると、神使である狐は嫌そうに主人である僕を睨み、狸たちは一目散に逃げていった。

ひどい。


「どうしました? 風邪でも召されましたか?」


グシグシとやや乱暴に手ぬぐいで顔を拭かれると、狐がお茶を淹れなおしてくれる。


「ううん。どうしたんだろう? 最近くしゃみが多くて。……花粉かな?」


やだやだ、あっちの世界では花粉アレルギーという恐ろしい病が猛威を奮うときがしばしばある。


「こちらの世界には、そのような花粉も症状もございません」


スパッと狐に一刀両断される。

そ、そうでした。

僕が創ったぼくの箱庭(せかい)だもんね。

そーっと狐から顔を背けてお茶を啜り飲んでいると、コツンと後頭部に何かが当たったぞ?


「もー、なにさ……って、手紙?」


紙飛行機がポトリと落ちていて、それをガサガサと広げると僕宛ての手紙だった。


「なになに?」


差出人は神獣エンシェントドラゴンと聖獣リヴァイアサン……琥珀と瑠璃ね。

この組み合わせはなんだ?


「ふむふむ。え? なにこれ」


手紙の内容は、風の精霊と契約している者のリストと居場所、光の上級精霊が現れそうな場所のリストを送れ?


「なんで、琥珀と瑠璃が精霊のことなんて気にするの?」


しかも、自由気ままでフラフラしている風の精霊と、あの光の上級精霊のことなんて……触らぬ神に祟りなしじゃないか。

あ、僕が神様だった。

腕を組んでしばらく考えてみたが、ダメだ、何も思いつかない。


「もう、なんだってこんな面倒なことを……って、最後に何か書いてあるぞ」


紙の一番下に、すごくすごく小さな文字で書いてあるぞ?


「……送らなかったら……守護地を放棄する……」


手紙を持っている手が恐怖でプルプルと震えてくる。

まって、まってまって! 神獣エンシェントドラゴンが動けば大地が、聖獣リヴァイアサンが動けば海が……崩れる。


「そんなの、箱庭(せかい)が壊れちゃうじゃないかーっ!」


びええええっと涙が両目から溢れ出し、僕はその場で体を伏して号泣した。

そんな、そんな、こんなに手間暇かけて創りあげてきた箱庭(ここ)が崩壊するなんて……いーやーだーっ!

ギャン泣きする僕の肩にそっと手を置くのは……いつもは厳しい狐の神使。


「ぇぐっ、うええぇっ」


もう言葉にもならない僕の顔を慈愛に溢れた眼差しで見つめ、ゆっくりと狐の口が開かれる。


「泣いてるヒマがあるなら、調べなさい。早くしないとあっちの仕事も滞ります」


ガーン!


「ううっ。誰か僕に優しくしてー!」


うん、とりあえず泣き叫んだあとは黙々とリストを作って瑠璃に送っておいたよ。

それで、あっちの世界に帰ってからもお仕事頑張りました。


クスン、僕は神様なんだけどなぁ。

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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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