神様の日記帳 ~創造神の誤算~
刮目せよ!
いやいやいや、え? なに? なんで?
口からポトリとマカロンが落ちちゃったよ。
「ええーっ! なんで土地神なんて湧いてるのさ?」
今日もレンくんたちは元気かなぁ? と呑気に八咫烏が持ってきた記憶水晶の映像を映し出して鑑賞していたら……。
知らない間に、僕の眷属がいた。
「僕、あんな子知らない……」
食い入るように見ていた水鏡に僕の神使たちがワラワラと寄ってきた。
「あら?」
「あらら?」
狐の子はちょっと目を眇めて、狸の子は好奇心で目をキラキラさせて、水鏡を覗いている。
「あ、この子。昔、白銀が契約した人狼族の長だ。へー、一族が作った像を依り代にしたから魂がこっちに来なかったのか……」
長を思う強い気持ちで作った像は、レンくんは前の世界の知識で銅像だと思ったらしいけど、ただの土を魔法で捏ねて作った像だ。
レンが作った琥珀の土人形と同じである。
そこには、保存魔法もかけられていて、降り積もる雪が凍り、いい感じの氷像となって狼獣人の狩人たちの信仰の対象となっていた。
「だから、土地神へ進化しちゃったのか。困ったな……この箱庭に僕以外の神様を創るつもりなかったのに」
白銀たち神獣聖獣はあくまでも神使と同等であり、神ではない。
「もう、遅いです。定着してまったので無理です。本尊はあの氷像とみせかけて双子山全体に及びます」
狐の神使の言葉に僕は項垂れる。
そ、そうだよねぇ、だいたい神の本尊とかって山とか湖とかの自然、鏡や剣などの神具だもん。
ま、向こうは八百万の神様だから、なんでも神様になるんだけど。
「いいんです? 創造神様から縁を結ばなくても? あのままじゃ野良ですよ?」
狸が太い尻尾を愉快そうにフリフリ振る。
うん、現実逃避にその尻尾をもふもふもさせてくれないかな?
「しょうがないですね。なにか神印をお送りしましょう。適当に白銀の毛を使って首飾りでも作ればいいのでは?」
作ればって、僕が作るの?
狐と狸がコクンと揃って頷いた。
ええーっ、僕はあまり器用じゃないのにぃ。
しかし、神格のある魂を野良にしておくわけにはいかない。
特に今は、瘴気を溢れさせている神獣クラウンラビットのことがあるからね。
「じゃあ、白銀に毛をもらおうっと。あの子も契約主だった白銀の存在が身近に感じられていたら嬉しいでしょう」
なんか、僕の存在が希薄な気もするが、まあいい。
「へえ、あの狼、神様として認めるんだ?」
「しょうがないでしょ。神として力を持っちゃったんだから。僕だって不本意だよ」
プンッと頬を膨らませて答えてから、はたっと気づく。
いま、誰が言ったの?
キョロキョロと狐と狸を見ても、二人はフルフルと首を横に振る。
「へ?」
じゃあ誰さ?
つうーっと下へ視線を下ろせば、やあ! と片手を上げる琥珀の土人形がいて、しかも琥珀の意識入り。
「こ、琥珀? なにしてんの?」
君はずっとずっと、こっちが呼びかけてもずっと眠ってたくせに、なぜ呼びもしない神界にいるのさ?
「ちょっとお願いごとがあって」
よっこいしょと水鏡の淵へとよじ登る琥珀の体を、そっと狐が支えてあげる。
その優しさ、僕にもほしいんだけど……とジト目で見てたら、狐に睨まれた。
「お、お願いごと?」
「うん。やっぱりこの体、ちょっと弱いんだ。馴染みはいいんだけど、何かあったときに力が使えなくて」
そりゃ、ただの土だもん。
他の神獣の力が混じったから、そんな不思議生物になっただけだし、神獣エンシェントドラゴンとしての力なんて使えるわけないでしょ。
「だから、この体をもっと強くして!」
「……はい?」
琥珀、君は何がしたいの?
そんな土人形の体を強くしてどうしたいの?
レンくんの近くには神獣ナンバー2の白銀がいるし、聖獣の中でも頼りになる紫紺もいるし、おまけに真紅もいるんだよ?
翡翠? あれはナシ。
セバスさんに扱かれて、もう少しまともな聖獣に成長してくれ。
しかも、レンくんにはいざとなったら瑠璃や桜花を呼び出すことができる。
神獣エンシェントドラゴンの助力はいらないと思うよ?
「……ということで、必要ないでしょ?」
「必要だから強くしてほしいわけじゃなくて、僕が強くしてほしいの!」
土人形で表情がないはずなのに、ニコーッと圧を感じる笑顔に見える。
「うぐっ」
な、なんだよ。
僕は創造神だぞ! えらいんだぞ!
負けるもんかと琥珀を見る目に力を籠めれば、ふわりと琥珀の体が浮いた。
「えー、頼みごと、叶えてくれないんだ。そう……そうなんだ……」
グルグルグルと琥珀を中心に、何かが覇気みたいな気配が渦を巻きだす。
え? なにこれ?
「はっ! これはまずいです。神界が一部崩壊してしまうかもしれません!」
狐が叫ぶ。
「アカーン! 神さん、ほら早く、望みを叶えてやんな!」
ポコポコと太い尻尾で僕の頭を叩きだす狸。
え? え? え?
「「はいと言いなさーいっ」」
狐と狸の二人から両耳に叫ばれた僕はキーンとした耳を押さえて琥珀の望みを叶える約束をした。
僕が一番えらいのに、なんで琥珀に土下座しなきゃいけないのさ。
「わかりました。その御身に少々手を加えさせていただきます」
「うん。よろしく頼むよ」
うわーん、僕が創造神なのにーっ!