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祠と氷像 9

昔、白銀が護っていた地の新たな守り神となっていた人狼族のアランさんとの別れも済み、紫紺の転移魔法で村まで戻ろうとしたそのとき! ぼくは大事なことを思い出しました。


「んゆ? リスさんいいの?」


森で狩人の集落を探し歩いていたときに出会った、リス獣人の行商人さんです。

無事に一番強い狼獣人の狩人の集落まで案内してもらいましたが、そのままお別れでいいのかな?


「そうだね。狩人たちへの報告も必要かな?」


「え? ヒュー。狩人たちが祀る祭壇の楽器を取っちまったのに、わざわざ報告に戻ったら俺たち捕まらないか?」


「……わからないんじゃないかな?」


兄様がかわいらしくコテンと首を傾げて、白銀の背中に括りつけられた小さな木製の楽器を見つめる。

琵琶と思われる精霊楽器は、ぼくの手に触れた途端、見事にその姿を変えてしまった。


そう、ぼくの手でも弾けそうな小さなギター、ウクレレに!

でも、兄様たちに「ウクレレ」と説明してもわかってもらえなかったから、この世界にはウクレレはないらしい。


吟遊詩人さんにもお勧めの楽器なんだけどな。

お手本にぼくがウクレレをかき鳴らそうとしたら、兄様たちにものすごい形相で止められた。


「危ないわよ! また、楽器の音色に乗せて浄化の力が漏れ出ちゃうでしょ!」


そうでした。

まだ子どものぼくは浄化の力を使っちゃいけないんでした。


「あいつらの集落に行くなら、また俺たちは人化しなきゃダメか」


しょんぼりした口調で白銀が呟くと、果物をシャリシャリ食べていた真紅も嫌な顔をする。

白銀と紫紺はぼくたちの護衛の冒険者となっているから人化する必要があるけど、真紅は子ども姿だから反対に獣型の小鳥姿になってもらわないとね。

ほらほら、お菓子や果物食べすぎだよ。


「ピーイ」

<けっ、つまらねぇ>


真紅……君、小鳥姿が本来の姿でしょ?


「ピイピイッ」

<違うわっ! もっと大きいわっ>


怒られちゃった。
















そのあと、兄様たちが話し合って狩人の集落には立ち寄らないことに決めた。


ぼくはみんながワイワイと賑やかに話している間、アランさんの氷像を見つめていた。

すごい……かっこいい。

四肢を踏ん張って雄々しく立ち、顔をやや上に向けて堂々とした姿。


かっこいい。

本当はちゃんと銅で作った像だけど、氷雪山脈の気候では雪が降り積もりそれが凍って氷像になってしまうらしい。

でも、それがまたかっこいい。


「かっこいい」


うっとりと見つめていると、頭の中にアランさんの声が聞こえてきた。


「ハハハ。ありがとうよ、坊主。だけどあまり褒めると白銀様が拗ねてしまうぞ。坊主の一番かっこいいは白銀様に捧げてくれ」


楽しそうに笑いながら、そう頼まれたけど、ぼくはちょっと困ってしまった。

兄様も父様も、マイじいも、みんなかっこいい。

ふむ、でも白銀もかっこいい。


「あい」


ぼくはコクリと頷いた。


「……坊主。いつまでも白銀様と一緒にいてくれ。あの方は存外寂しがり屋でな。誰かといなくては自分を保てない方だ。いつでも甘えて頼りにするがいい。遠慮などしてはならん。あの方は坊主に甘えられ頼りにされることを望んでいるのだ」


「……んゆ? あまえていいの?」


いや、初めて白銀たちと会ってから甘えてばっかり迷惑かけてばっかりだけど、ぼくも大人になるなら白銀たちに頼ってばかりじゃダメだと思うのだけど?


「いいや。いつまでも白銀様に甘えてくれ。それが嬉しいのだ。坊主が大人になってもな。面倒だがよろしく頼む」


ワハハハと笑って頼まれちゃった、白銀のこと。

そりゃ、ぼくもずっと白銀たちと一緒にいたいし、甘えていたい。

……いいのかな?


「あい、わかった」


ぼくは強く頷いてアランさんの氷像を仰ぎ見る。

陽の光が反射して眩しくて目を細めた。


「坊主、また遊びにこい」


「あい、またくるね。ばいばい」


手を振ってお別れだ。


「レン?」


「にいたま」


バフンと兄様に抱き着き、頭をうりうりと兄様のお腹に擦りつけた。


「さあ。行こうか。狩人の集落にはアランさんがお告げで祭壇のことや僕たちのことを伝えてくれるそうだよ」


「……おつげ?」


そ、それはまた、狩人の集落は大騒ぎになるのでは?

でも、同じ狼の守り神のお告げだから、ぼくたちの責任問題にはならないよね?

精霊楽器がどうしても必要だから、祭壇から持ち出しちゃダメと止められても持って帰るけども。


「こっそり、かえる」


うん、こっそりと速やかに撤収しよう。


「そうだね。早く帰って父様たちに報告したいよ」


珍しく兄様も疲れた顔で笑った。

二人でくふふふと笑い合っていると、アリスターがブンブンと大きく手を振ってぼくたちを呼ぶ。


「おーい! 紫紺様の転移魔法で村まで戻るぞ、早くこーい!」


「はいはい。行こう、レン」


はい、と差し出された兄様の手にポンと自分の手を重ねて。


「あい」


二人で歩きだした。












「じゃあな、アラン。俺にはまだやらなきゃいけないことがある。でも、たまには酒でも飲もうぜ。そのときに他の神獣聖獣たちを紹介してやるよ」


フリフリと尻尾を振ってボワンと人化する。


もう、振り向かない。

俺の大切な人たちが待っているから。


「ええ。楽しみに待っていますよ。白銀様、貴方はずっとずっと人狼族の守り神様です」


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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