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祠と氷像 6

無事に兄様たちと合流できたので、ぼくは迷子ではなくなりました。

兄様もアリスターも紫紺も、みんなみんなぼくを心配してくれたみたい。


迷子になって、ごめんなさい。

でも、真っ直ぐ走ってたんだよ? 本当だよ?


『はしって? あるいてじゃなくて?』


チル、うるさい。

ぼくが途中で紫紺にも気配がわからなくなってしまったのはどうしてかな?

ぼくたちは黒くて大きなわんちゃんの案内で祭壇がある洞窟? この洞穴まで来ることができたんだよ。


「黒いわんちゃんねぇ?」


紫紺が疑わしい目でぼくをジロジロと見ます。


「黒いって……この辺りの魔獣は体毛は白いはず」


兄様もう~んと腕を組んで考え込んでしまった。


「そもそも、こんな険しい地でただの犬なんているのか? 狼と間違えたんだろう?」


コツンとぼくの頭を小突いてくるのはアリスター。

むむむ? わんちゃんだと思ったけど狼さんだったかも……。


「しょういえば、りりしいかお、だったかも?」


ぼくも兄様を真似て腕を組んで首を傾げてみせます。


「あのね、アンタたち。問題はそこじゃないでしょ。その黒いわんちゃんはアタシの魔法感知を潜り抜け、レンと楽しくお喋りしてたのよ? ただの魔獣のワケないでしょ」


あーっ! みたいなリアクションをお揃いで取った兄様とアリスターは、ギンッと厳しく表情を変えて剣の柄に手をかけた。


「今さら警戒してもムダよ。たぶんレンを案内してここまで連れてきたのって、あの白銀の昔馴染みでしょ」


クイクイッと紫紺の尻尾が指し示すところには、白銀と突然ここに現れたお兄さんが穏やかに会話をしていた。

……白銀の足元に踏まれてペシャンコになっている真紅がジタバタしているけど。

むむむ?


「しこん」


「なあに?」


「あのひと、ちがう。ぼくといっちょ、わんちゃんだもん」


これぐらい大きかったのと両手をめーいっぱい広げて力説すれば、紫紺は耳をぺしょりと倒してお座りしてしまった。


「そ、そうね。じゃあ、直接聞いてみましょう」


「あい」


そうだよね。

本人に聞いてみればいいんだよね。


あなたは黒くて大きな喋るわんちゃんでしたかって。

……そんなこと聞くのって変な子じゃない?














「ん? そうだ。坊主をここまで連れてきたのは獣型の俺だ」


むんっと胸を張って自慢げに言われたけど、お兄さんはわんちゃんじゃないよね?


「俺は人狼族なのでな狼になることもできるんだ」


ますます胸を大きく張っているけど、白銀たちは人に変化することができるんだよね?

じゃあ、このお兄さんも人に変化しているわんちゃん……じゃなくて狼さんなの?

グルグルと疑問が頭を回ってフラフラしたぼくの体を兄様がひょいと抱っこしてくれた。


「レン大丈夫かい? 彼はたぶん……太古の昔に白銀、神獣フェンリルが庇護していた人狼族なんだよ。人だけど狼に姿を変えることができるんだ」


へー、そんなことができるんだぁ。

ぼくはキラキラとした目でお兄さんを見つめた。


「ふむ、どうして坊主がこの洞穴に施された結界を越えられたのかと疑問だったが、フェンリル様の庇護者でしたか?」


「うぇっ? いやいや、うん、その、なんだ……えっと……」


白銀はお兄さんに話しかけられて、めちゃくちゃ動揺してキョロキョロと目だけでなく頭まで上下左右に動かした。


「なにしてんのよ」


「いや、でもな……」


紫紺にツッこまれて、今度はもじもじしだしたぞ?


「あー、鬱陶しい! あのね、アタシもコイツもついでにコレも、神獣聖獣まとめてその子ども、レンと契約してんのよっ」


ビシッと紫紺がぼくを指し示すから、ちょっと照れちゃう。

うきゅっと兄様の胸に顔を押し付けてうりうりしちゃう。


「その子どもと契約……? それはフェンリル様、少しばかり無体な。下手をしたらこの子どもの命に関わりますぞ?」


「うっ、いや、そのな、契約できると思わなかったんんだよ。レンが俺らに名前を付けてくれるとか言うから、できるならどうぞって、軽い気持ちでな……」


白銀は叱られた子どもみたいに首を竦めて小さな声で言い訳を話し始める。


「名前……。あ、まさか坊主が言っていた、あの名前か?」


ぼくはコクリと頷いた。

そう、ぼくが教えてあげたでしょう?


「しろがね、しこん、しんく、るり、おうか、ひすいにこはく」


白銀たちを一人ずつ指差して、最後の琥珀は動かなくなってしまった土人形を高く掲げて紹介したよ。


「まさか、フェンリル様の他にも?」


お兄さんは恐々と紫紺へ視線を向けた。


「ええ、アタシは聖獣レオノワールでコイツの足に踏まれているのが神獣フェニックスよ」


「ピーイッ」

<いい加減放せーっ>


そして、紫紺は一人ずつ神獣聖獣の名前をお兄さんに紹介してくれた。


「まさか! 神獣エンシェントドラゴン様まで!」


琥珀? 琥珀はここだよー、ここ!

ひょいひょいとぼくが土人形を動かすと、お兄さんは複雑そうな顔で人形を見ていた。


そして、ゴクリと喉を鳴らしたあと、白銀を見つめそっと呟く。


「し、しろがね、様?」


「おう、そうだ! 神獣フェンリルは契約者から名前をもらい白銀となった、お前もこれから白銀と呼ぶがいい」


ぼくが付けた名前を誇らしげに告げる白銀が、とってもかっこよかったよ。

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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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