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祠と氷像 5

暗い洞穴の中、ダダダッと駆けてくる足音。

キラキラと銀色に輝いて見える白の……あれは……。


ぼくは知らない男の人の後ろからぴょこんと顔を出していたんだけど、とっても会いたかった人たちの登場にわーいと駆けだす。

その前に男の人がバッと走り出し、ズザザッと片膝をついた。

んゆ? この男の人は誰に頭を下げているのかな?


「レーン! ってお前はやっぱり、アランか?」


「はっ。お懐かしゅうございます」


キキーッと急ブレーキで止まった白銀は、片膝をついた男の人の周りをグルグルと回る。


「ちょっと、レンを攫った奴と知り合いなの?」


白銀の後ろには紫紺や兄様、ディディを抱っこしたアリスターが駆けてくる。


「レーン!」


「レン、お前大丈夫か?」


「ギャウギャギャウ」


みんな、迷子になったぼくを心配してくれていたんだね、ありがとう。

でもまずは、謝らないと。


「あい。ぼくへーき。まいごでごめんなちゃい」


ペコリと頭を下げると、ぼくの手の中にいたチルがポトリと地面に落ちちゃった。


『なにやってんの? グズね』


兄様の肩の辺りからもう一人の水妖精チロの声が聞こえた。


『うー、いたたた。ひどいめにあった』


落ちたチルはムクリと起き上がって、お尻を手で摩るとフラフラと飛び上がる。

ぼくは駆け寄ってきた兄様にむぎゅむぎゅと抱きしめられました。


「よかったレン。怪我してない? 痛いところはない? 寒さは大丈夫かな?」


眉を八の字にしてぼくの体のあちこちを触って確かめている兄様に、ぼくはニッコリと笑って見せた。


「だいじょーぶ。ちょっとはなみじゅとなみだがこおっただけ」


洞穴に入るまでは寒くてあちこち凍ったのを思い出した。


「えっ! たいへんだーっ! レン、レン? ああ、熱が出てしまうかも。どおしよう」


ぼくを抱っこした兄様が乱心してしまった。

ええ? どうしよう? ぼく、元気だよ。


「落ちつけヒュー。レンをよく見てみろ、元気だろ? 頬っぺたぺかぺかでニッコリご機嫌じゃないか」


アリスターは兄様の肩を掴んで変な動きを止めると、僕の頭を撫でてひょいと口の中に飴を放り込んだ。

むぐぐっ、おいしいぞ!

ニコニコと飴を口の中で転がすぼくの姿に安心した兄様は、深く息を吐いて脱力したようにへらりと笑った。


「本当に……よかった、レン」


ぐりぐりとぼくの頬に頬ずりする兄様に、ぼくはもう一度小さな声で「ごめんなさい」と謝った。


「たいへんだったんだぞ。紫紺様の魔法検知でも見つけられないところにレンが行ってしまったって。とにかくレンが歩いていった方向へ真っ直ぐに進んでいたら、白銀様が戻ってきてレンと逸れたって言うからさ」


アリスターはディディがぼくの顔を見て安心できるように高く抱き上げ、離れていたときの話をする。


「んゆ? ぼく、まっすぐはしってたよ」


白銀の足が早くて置いていかれちゃったし、後ろを振り向いたら兄様たちの姿が見えなかったんだよ?

別にぼくとチルが消えてしまったわけではない、

そしてぼくは走ってたもん。

歩いてないもん。


「あら? アタシがレンの姿が見えなくなって魔法検知の範囲を広げたけど見つけられなかったのよ? レンってばどこかへ迷ってしまったのよ、たぶん」


紫紺が白銀と知らない男の人を気にしつつも、こちらの会話に交ざってきた。

どこかへ迷った……ううん、迷子になったけど、ぼくは真っ直ぐ走ってたはずだよ?


「あ! くろいわんちゃん、いっちょだった」


そうだ、そうだ。

一人ぼっちで迷子になって怖かったときに大きなわんちゃんと知り合って、この洞穴まで案内してもらったんだよ。

チルが自分も側にいただろうって主張してくるけど、聞こえません!


「大きなわんちゃん?」


兄様がこてんと首を傾げる。


「うん! おおきくて、くろくて、おはなしできるわんちゃん!」


ふんすっと胸を張って大きな声で言ってみました。














「アラン……」


「フェンリル様……」


「ピーイ」

<こいつ、なんだ?>


…………。


「おい、真紅。俺たちの感動の再会を間の抜けた鳴き声で邪魔すんなっ」


俺は頭の上に鎮座するバカ鳥を振るい落とし、その丸い体を前足でむぎゅっと踏みつけた。

ピーピーと泣いているが、知らん!


「あ、あのフェンリル様。そのぅ……」


アランが困った顔で俺の足元の毛玉を見ているが、無視だ、無視だ。


「コホン。それよりもアラン。お前、なんでここにいる? お前はもう昔に……」


死んだはずだ。

俺がバカだったせいで、お前は権力を欲した人狼族たちに、自分の息子に騙されて、その命を失ってしまった。


「ええ。もう私は死んでいます。死んでいたのですが、未練でしょうか? 気が付いたら貴方様が守っていたこの地に、この洞窟に戻ってきたのです」


ぐるりと見回して、奥が土で埋もれてもう洞窟とは呼べない洞穴を懐かし気に語る。


「ここには、貴方様が施した結界がまだ生きていましたので、とても心地よかったのです」


ニッコリと昔と変わらない微笑みを俺に向けるアラン。


「……アラン、お前、ちょっと若返ってないか?」


俺が知っているアランは年老いて爺狼だったんだけどな?

アランは俺の指摘に目を丸くしたあと、ハハハと声を出して笑った。

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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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