笛の音を追って 3
誤字脱字報告ありがとうございます!
いつも、ありがとうございます。
神獣は、唯一神であるあの方が、最初に創り出した生き物である。
力加減がまだ分からなかった為、膨大な力を持つ獣として生を受けた俺たちは、お互いが一番強いと譲らず仲が悪かった。
そのためあの方は、再び自ら生き物を生み出す。
それが聖獣たち。
・・・が、奴らは先に創られた我々の出来が悪いので、新たに自分たちが生を受けたと、神獣を馬鹿にした。
そこからは、世界の地形も変わるほどの大喧嘩だ。
なぜ、あの方がその戦いを止めなかったのか……。
どうやら違う世界でお勤め中で不在だったとか。
お勤めを終えて、この世界「カラーズ」に戻られて、
「どうやったら、ひと月の間にこんなに滅茶苦茶になるの……」
と絶望されていたらしい。
申し訳ない。
その後、それぞれに守護する地を決められ、我々は相対することが激減した。
まぁ、それも終わりを告げ、さらに没交渉になっていくんだが……。
紫紺の奴め~。
昔からいろいろと細かくうるさい奴だと思ってはいたが……、あれこれと俺に命令しやがってぇぇぇ。
しかし、あいつと喧嘩するとレンが悲しむからな……、うん…、しょうがない。
ここは、俺が大人になって譲ってやろう。
『あんたが、しんじゅう、らしくないのが、わるいんだと、おもうぞ?』
小童妖精の独り言など、高尚な俺には聞こえんのだ!
さて、紫紺に言われたとおりに、屋敷の連中を叩き起こすことにしたが、最初はギルではなくセバスにしろとのこと。
すやすや寝ているな。
ん?こいつが寝ている姿を見るのは、初めてかもしれん。
『どうやって、おこすの?』
「ん?紫紺がいうには魔力をぶつければいいらしい。しかし、俺の魔力なぁ……、死なないか?こいつ?」
俺は首を傾げる。
一応、神獣の魔力だぞ。
微力でも、こいつの魔方攻撃耐性が低かったら、死んじゃうぞ?
しかし、時間はない。
俺は、レンの所に早く行きたい。
「やる、か」
キラーンと爪を輝かし、ひょいと手首のスナップをきかせ、獲物を狩るように動かす。
パチパチと小さな稲光が光り、セバスの両足首にバリーン!と命中した。
レンが心臓より遠いところに当てろって言ってたが、これでいいのか?ちと、物足りないな。
足に衝撃を受けたセバスは飛び起きて、ベッドの横に置いてある剣を取り、素早く抜き放ち俺に向かい飛び掛かってきた。
「おいおいおい!」
「おや?白銀様?」
パチクリと瞬きをしたあと、すーっと剣を納め片膝を付く。
いや、お前…殺気がえげつなかったぞ?
こいつは……ただの執事じゃないのか?
下手な騎士よりできるな……。
「……私はどうしたのでしょう?」
どうやら、俺たちが部屋に入り攻撃を受けるまで、眠りが覚めなかった自分に違和感を感じているようだった。
俺は、紫紺に教えられたように説明する。
なんでか、俺の説明だと意味わからんと言われたからだ。
「……それは。とりあえず、旦那様を起こしましょう」
セバスはササッと着替え、剣を腰に佩いて、主人たちの居室にノックもしないで入っていった。
そして聞こえるドッタンバッタン!
あいつ……もしかして物理の力でギルを起こそうとしているのか?
「おい、魔力を当てないと目は覚まさないぞ?」
俺のアドバイスを聞いた途端、部屋中に響く雷音。
「なにすんだっ!てめぇ、セバス!」
あ、起きたな、ギルの奴。
そこから、セバスがギルに今俺たちに起きていることの状況を説明をして、寝ているアンジェはそのままに、アースホープ領主を優しく起こしたあと、騎士たちをセバスが広範囲雷魔法を放ち、全員を軽く感電させて無理矢理に起こしていた。
とても恐ろしい光景だったとだけ伝えておこう。
あいつ……薄く笑いながら魔法をぶっ放すんだよ……。
ガキ妖精なんて俺の毛の中で震えてるんだぞ!
そして、領主と領兵たちは屋敷と眠りに包まれたアーススターの街に置き、俺たちとギル、セバス、ブルーベルから連れて来た騎士たちは、領門まで騎馬で移動してきた。
「ここも、眠っているな」
ギルが苦虫を噛み潰した顔で言い捨てる。
「ここからは、紫紺の気配を追わないとレンの場所が分からないぞ。チビ妖精が知らせに来るまで、ここで待つか?」
あいつらとは、アジトが分かったら知らせるって約束だ。
「この門は俺たちが来た門とは別。この先には別の領地があり、その先は海に出る。他の領地に逃げ込まれても面倒だが……海で他国に行かれたら厄介だな」
「しかし、気配を辿って進んで、もし紫紺様とレン様が別行動をされていたら……間に合わない可能性もありますよ」
セバスの言う通りだ。
ふむ、俺様は待つのは苦手なんだが…と思った瞬間、
「ぶっ!」
チビ妖精が俺の顔に突っ込んできやがった!
連れられて行った子供たちの列に混じり追い越しながら見てみると、みんな夢遊病のように虚ろな目をして黙って歩いてる。
列の中程にひとり背の高い子がいた。
夜闇にも映える真っ赤な髪に三角耳、尻尾、あれは……アリスター!
転びそうな子供を助けてたり、よろけそうな子を支えたりして、列を誘導しているみたいだ。
ぼくは、タタタとアリスターへ走り寄っていく。
兄様が小声で「レン!」と呼び止めるけど、ごめんね、兄様。
アリスターはぼくの足音に気づいたのか、耳をこちらにひょいと向けてから振り向いた。
「おまえ……レンか?」
「アリスター!」
ぼくは、立ち止まったアリスターの足にぴょんと抱き着く。
「なんで!夜には街を出ろって言ったのに!なんで!……今からでもいい、逃げろ。来た道を戻れ!」
アリスターはその場にしゃがんで、ぼくと目を合わせると肩を掴んでガクガクと揺さぶる。
「僕の弟に触るな!」
兄様が剣を抜いて、ぼくとアリスターの間に突き出してみせる。
「レンの兄?」
「そうだ。お前たちは何をしている?この子供たちはどうするつもりだ?」
ぼくたちが足を止めても、子供たちは何かに誘われるように足をゆるゆると動かし、前に進んでいく。
「バカか、お前!兄ならなんで弟を危ない目にあわすんだ!早く、レンを連れて逃げろ!」
アリスターは目の前の剣が目に入らないのか、立ち上がると兄様の胸倉を掴んで締め上げる。
兄様は剣を握っていない手でアリスターの腕を軽く振り払った。
「レンは僕が守る!悪党に言われなくてもな!」
いやいや、兄様……まだ、アリスターが悪党とは決まってないよ?
なんでそんなに喧嘩腰なの?
ふたりの態度にオロオロしてたら、別の方向から大勢の気配が。
「おい、アリスター!てめぇ、何をやってる?」
ぞろぞろと人相の良くないおじさんたちが沸いて出てきました。
手には剣や槍、斧とかの武器を持って、お酒を飲んでいたのか赤ら顔で立ってます。
そして、その集団の奥に、大きな木を背に、道化の格好をした細身の男の人と、ぼくより少し大きい女の子が立っている。
道化師の手には笛?
そして、女の子は真っ赤な髪に三角耳と、お尻には小さな尻尾がありました。