祠と氷像 4
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
ちょっと、お正月休みダラダラしてしまい、小説を書き進められませんでした。
が、頑張りまーす。
ムスッとした顔でぼくとぼくの手の中のチルを睨む知らない男の人。
あ、狩人さんかな?
頭にはピコピコの三角耳、お尻にはもっふりとした尻尾があるもの。
あれれ? でもここの狩人さんたちはお耳も尻尾も真っ白のはず。
この男の人の耳も尻尾もどちらかというと黒い?
こてんと首を傾げてじーっと男の人を見つめていると、男の人の怒った表情が困ったような顔へと変化した。
「おい、坊主。わかっているのか? ここの祭壇の神具には触れてはいかん」
「んゆ?」
今度は反対側へ首を倒して、じーっと男の人を見る。
この男の人……なんか、ぼくの知っている人?
「妖精の悪戯だとしてもいかん。フェンリル様は優しいが怒ると怖いのだぞ!」
「……しろがね、こわくない」
そもそも、ぼくは白銀から怒られたことはないもん。
白銀が紫紺や他の人たちに怒られているのは、よく遭遇するけどね。
「誰だ、しろがねって」
ぎゅむと男の人の眉間にシワができた。
あれれ? 神獣フェンリルは知っているのに白銀は知らないの?
はっ! もしかして白銀の昔の昔のものすごーく昔の知り合いなのかな?
だったら神獣フェンリルの名前が白銀だって知らないもん。
「あのね、あのね。ふぇんりるはしろがね。おなまえ、しろがねってゆーの」
得意げに胸を張って教えてあげたら、男の人の眉間のシワがぐぐーっと深くなっていく。
んゆ?
「坊主。神獣フェンリル様は気高い方だ。勝手に名前など付けて呼んではならぬ。我らが勝手に名付けていいお方ではない」
ポンッと両手をぼくの肩に乗せて、じっくりと言い聞かせるように言葉を紡ぐけど、勝手に名付けてないよ?
「ぼく、しろがねにいい? ってきいたもん」
そうしたら白銀は、付けられるなら付けてみろって許してくれたんだよ。
でも、名前を付けたらちょっとビックリしてたけどね。
「ほかにもいるの。しこん。るり、しんく、おうか、ひすい、こはく」
むふーっと自慢げに教えてあげると、男の人は困惑した顔でぼくの頭に手を乗せた。
「うむ。小さいころは仕方ない。坊主も神獣フェンリル様の偉大さがわかるのはもう少し大きくなってからだな」
ぷくーっと頬を膨らませました。
ひどい! ぼく大きいもん! そんなに小さくないもん!
誰かにこの気持ちを訴えたいのに、チルはぼくの手の中でカチコーンとなったままだから、ぼくは最大限に頬を膨らませました。
「それよりも坊主。どうやってここまで来れたのだ? まだ神獣フェンリル様の結界は破られていないはずなのに……」
ふむっと腕を組んでマジマジとぼくのことを観察しだした男の人は、ぼくの手の中のチルが見えているみたいでひょいと羽を摘まんでチルを持ち上げたけど、興味がないのかそっとぼくの手の中に戻してくれた。
ここに結界なんてあったの?
もし、結界があったとしても白銀が作った結界なら、ぼくはノーパスで出入りできると思う。
だって、お友達だもん!
でもこの男の人に「白銀と友達だから」と説明したら、笑われる気がする。
さっきから、ぼくの言うこと全然信じてくれてないもん!
ぶーだよ、ぶー!
「むっ! 誰だっ!」
男の人は大きな声を出してグルルルッと唸ると、ぼくの体を自分の背中の後ろへと押し込んだ。
「ど、どうちたの?」
男の人のズボンにひしっとしがみ付いて男の人が睨みつけている方向へ顔を覗かせる。
「結界が解かれた。神獣フェンリル様の施した結界が……」
んゆ?
それって、白銀がここまで辿り着いたんじゃないかな?
「おーい! レーン」
「ちょっと、気が抜けるわね。そんな間延びした声で呼びかけないでちょーだい」
へいへい。
うるさいな、紫紺。
お前、機嫌が悪すぎないか?
まあ、レンのことが心配でたまらないのと寒さに弱いお前が氷雪山脈なんて場所にいるからだろうな。
俺は元々この地を護るために創られたから寒さなんてへっちゃらだが。
チロリと視線を飛ばした先には小鳥姿の真紅……さすがに神獣フェニックス様は寒さにはやられないか?
ま、コイツはその気になったら火を灯せばいいしな。
ヒューは防寒対策バッチシの装いだが、顔色が悪いのはレンと離れているからだろう。
アリスターもヒューと同じ装いに加えて火の精霊のディディを抱えているから寒さは大丈夫だろう。
この洞穴の奥にレンがいる。
そして、紫紺が感知した気配では得体のしれない男もいるらしいが……俺、知っているかもしれない。
この気配。
忘れるわけがない。
ただ、なんでいるんだ?
お前はもう……。
「おーい、レーン」
「ちょっと! 白銀、気が抜けるでしょー」
いやだって、呼びかけておかないとさ、いきなりのご対面は俺の心臓に悪いと思うんだ。
アラン……なんでお前がレンと一緒にいるんだよ?