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祠と氷像 3

洞穴の奥へと進んだぼくとチルは、ほけっととぼけた顔で見上げている。


そこには狩人の狼獣人さんが言っていた「祭壇」があった。

ぼくの感覚としては、祠です。

木の台座はずいぶん古いのか、あちこち朽ちてるし、周りの岩壁も染み出た水で苔むしている。


狩人たちは祭壇としていたけど、ちゃんとお手入れしていたのかな?

ぼくは、その場にしゃがんでブチブチと祭壇の周りの草を抜いていく。


「かみさま、きれいにしゅる」


神社とかお寺とか、ぼくは行ったことがないけど、たしか神様のいるところはキレイにしておかないとダメなんだよ。

ブチブチと夢中で草をむしっていると、チルが上で何かを発見した。


『れーん。なんか、おっきいのがあるぞ』


「んゆ?」


でも、台座が高いから、ぼくがぴょこんぴょこんジャンプしても、全然見えないよ。

しょうがない。

ぼくはダーッと洞穴へ入ってきたほうへ走って、遠くから台座の上のモノを確認しようとした。


「あれは……」


ギター?

うう~ん、それよりも形がずんぐりしているような?

あれって、あれって、昔の人が演奏していた、えっと、なんていったっけ?


『れん。あれ、どうする?』


「たぶん、にいたまがさがしてる、せーれーがっき」


ベンベンと弾く……そうそう、琵琶とかいう楽器だよ。

あれを探して氷雪山脈まできたんだから、ぜひとも持ち帰らなければ!


「んゆ? でも、どどかなーい」


ぴょこんぴょこん。

悔しいことに、ぼくの身長では楽器を手にすることもできない。


兄様が見つけてくれるまで大人しく待っていようかな?

ぼくが精霊楽器を見つけたって報告したら、兄様は驚いて、そしてたくさん褒めてくれるかな?


大好きな兄様たちに褒められる自分の姿を妄想して、テレテレと一人で照れていると、チルの危険な言葉が耳に飛び込んできた。


『れん。ここから、おとしてやるから、おまえ、つかめ』


「えーっ!」


ダメダメ!

ぼくが上から落ちてくる楽器を華麗にキャッチできるわけないでしょ!

落として壊れたらどうするのーっ!


「チル、ダメ!」


『うぎぎぎきっ』


あ、ダメだ。

チルってば、上から落とすことに集中して、ぼくの声なんて聞いてないよ。


チルを止めようと、さらに頑張ってぴょこんぴょこんと飛ぶが、悲しいかなほんのちょっとしか飛べてない。

どうしよう、どうしようと焦るぼくの頭上を、にょっきりと太い男の人の腕が翳された。


「お前たち、何をしている? 祭壇から神具を盗もうなんて悪い奴らだ。これが神獣フェンリル様への貢物と知っての狼藉かっ!」


ビリビリと響く大きな声で叱られたチルはカチコーンと固まってポトリと下に落ちてきた。

ぼくも最初はビクンと体が硬直してしまったけど、この男の人「神獣フェンリルへの貢物」って言ったかな?


じゃあ、この楽器は白銀のものなの?



















ア……アラン?


レンがいると思われる洞穴の近くにある氷像は……俺が下界に降りて初めて契約した、懐かしい人狼族の形をしていた。


ただの狼だろう? と知らない奴は笑うかもしれないが、この像はアランだ。

人狼族の長にして、一族の危機に神獣フェンリルである俺に助けを求めに一人でこの地を訪れたアラン。


誰か、年老いた人狼族か幼い人狼族か……俺が山の住処で保護していた奴らが、アランを偲んで造ったのだろうか?

それとも、長いときを経て絶滅した人狼族を忘れないように造られたのか……。


アラン……。


「何、フェンリルの像を見てボーっとしてるのよ? イヤねぇ、ナルシストなの? そんな奴は翡翠だけでお腹いっぱいよアタシ?」


聖獣レオノワールである紫紺が、俺の足を地味にぎゅむと踏みつけて嫌味を言ってきた。


「ち、違うわ」


別に狼の像カッケーと思ってたわけじゃねぇわ!


「結界を解除しないと洞穴に入れないのよ? どうにかしないと」


紫紺にしては珍しく余裕がないようだった。

俺と真紅に繊細な魔法操作は期待できないもんな。

お前が手に負えないとなると、俺たちはお手上げのはずだ。


でも……この結界は大丈夫だ。

ここが、そうなら……ここの結界を張ったのは、きっと大昔の俺なんだろう。

人狼族を守るために張った結界の一つだろう。

戦うには衰えてきた人狼族とまだ戦えない幼い人狼族を守るために、守護神だった俺が張った結界。


俺はブツブツと呟く紫紺をその場に残し、洞穴の入り口へと歩く。

アランとの約束を守り人狼族を守っていたのに、お前がやられたと聞いてここを飛び出した俺。

結界があるから大丈夫だと言い聞かして走り抜けた雪道。


バカだよな……。

侵入者は入ってこれないけど、中にいる人狼族は出入り自由だった。

結界から出た人狼族を守る力は、遠く離れてしまった俺にはなかった。

すべて失ってから、自分の愚かさに嘆いてみても、何も戻りはしない。


「アラン……俺の代わりにここを守っていてくれたのか?」


そっと洞穴の結界に触れ目を閉じ、俺の神気を浸透させていく。


「【解】」


パキンと硬質な音を立てて結界の膜が弾け飛んだ。


「行くぞ」


今は、俺の大切な命、レンを守ることが優先だ。

アラン、お前の恨み言はあとでゆっくりと聞くことにするよ。


「結界が壊れた。行こう、アリスター」


「おう。ヒュー剣を抜いておけ」


「白銀、奥にレンがいるわ。それと、男が一人!」


紫紺の言葉に俺は四肢に力を込めて駆け出した。

レン、待ってろよ!








年内最後の更新となります。

今年も皆さまにご愛読していただきありがとうございました。

書籍化、コミカライズと激動の1年でした!

来年もどうぞよろしくお願いいたします。

よいお年をお迎えください。

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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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