祠と氷像 2
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九死に一生、雪が吹雪く森の中で見つけた洞穴へチルと一緒に入ろうとしたら、薄い膜のような反発を感じた……気がした?
「んゆ?」
なんだろう、いまの?
こてんと首を傾げているぼくへ、チルはクイクイと髪の毛を引っ張って奥へと誘う。
『れん。そこはさむい。もっとおく、おくへ、いこうぜ』
ビュルルルルという吹雪の音はまだ続いているし、背中に感じる冷たい空気が痛いぐらいだったぼくは、チルを両手に包んだままで洞穴の奥へと進んでいった。
不思議なことに洞穴の中には風も雪も吹き込んでこない。
暗いはずの穴の中は、なんだかぼんやりと明るい気がする。
「んゆ?」
ここ、大丈夫かな?
キョロキョロと前後左右を見回して、一緒にいるのがチルだけなのが心細くて、ついギュッと胸のペンダントを握る。
「あっ!」
もういいんじゃないかな?
瑠璃とか桜花とか琥珀とかに「助けて」ってお願いしても、いいんじゃないかな?
「るり、おうか、こはく、よぶ」
『おう、いいぜ。つよいやつ、たすけてもらおう』
チルの同意も得られたので、早速みんなを呼んで助けてもらおう。
瑠璃と桜花だったら、兄様や白銀のところまで転移魔法で移動できるもんね!
よしっ! おいでませ。
「るーりー。おーうーかー。ついでに、こーはーく」
高々と二人のキレイな鱗と琥珀を真似て作った土人形を上げて、大きな声で呼んでみました!
シーン。
「んゆ?」
『もういっかい、よんでみろよ』
「う、うん」
そして再び大声で呼んでみます。
「るーりー? おーうーかー? こーはーく?」
シーン。
あれれ? 瑠璃も桜花も忙しいのかな?
レンがいるのはここよ! と猛全と走ってきたら双子山の麓まで来てしまったみたい。
この吹雪が邪魔だけど、近くにレンがいるはずよ。
「ヒュー、アリスター。レンを探すわよ」
「ああ」
「はい。あっと、ディディ大人しくしてろよ」
役立たずの火の中級精霊ディディは雪が冷たいのか、顔をアリスターの服の中に突っ込んでいる。
「ど、どこだ? レン? 全然気配が感じられないぞ?」
白銀がフンフンと積もった雪の匂いを嗅いではキョロキョロと見回し、ブンブンとそこら辺の雪を尻尾で振り払っては覗き込んで幼い主人であるレンの姿を探している。
アタシもあちこちに風を飛ばして邪魔な雪を吹き飛ばしているけど、レンの姿が見つけられずにイライラしてきたわ。
「チロ。チルがどこにいるかわからないかい?」
ヒューが寒さで鼻の頭を赤くして、自分の肩に居座る水妖精に尋ねる。
『……あのばか。あっちにいる。でも、なんかじゃま』
生意気な水妖精チロが示したのは大きな岩が不自然に置かれた場所……いいえ、あれは岩ではないわね?
「まさか、幻影なの?」
「ええ? ちっともわからないぞ?」
白銀がギュッと目を凝らして見ようとしているけど、魔力を込めなさい、魔力を!
「洞穴?」
白銀と顔を見合わせ頷き合うと、ダッと駆け出す。
「ここ、結界が張られているわ」
カシカシッと幻影の岩を爪で引っ掻くと、岩の感触はしないが何かに遮られる。
「ああん? そんなもんは力技で……あれ?」
白銀が何かの魔法を放とうとしてピタリと動きを止めた。
「どうしたのよ?」
「……誰かに見られていた気が……」
後ろを振り返り、左右を交互に見た白銀はしきりに首を捻るが、気を取り直してバリバリと雷魔法を結界へとおみまいする。
「「…………」」
ヒューたちも無言だし、アタシも無言になる。
……あの力だけが取り柄の白銀の雷魔法を受けても結界が壊れない?
「ピイピイピー」
<しょうがないなー。ここは俺様がとっておきの火魔法を>
「あ」
「バカ。やめなさい!」
アタシたちが止めるのも聞かず、真紅はその小さな体に見合わない火炎を噴き出した。
……こんなところで無駄に神気を使わないでちょうだい!
真紅の起こした火炎は渦を巻いて結界に真正面からぶち当たり、迷惑なことに四方へと散らばってしまった。
「あっちー!」
「ぴいぴー」
火の粉を被った白銀と、自慢の尾羽に火が付いた真紅が大慌てで爆走し始め、パニックになった白銀はドゴンと山に勢いよくぶつかった。
「大丈夫かな、白銀」
「放っておきなさい」
雪が融けるだけの惨事でよかったわよ。
ぶすぶすと燃える残り火には、不服そうに頬を膨らました水妖精のチロが水をかけている。
「ばか。お前は大人しくしてろ」
自分も! と思ったのか、激しく動き出したディディを抑え込むアリスターも放っておきましょう。
「結界は無傷ね」
忌々しいわ。
「ねえ、白銀。この結界は何か魔道具で作られているのかもしれないわ。怪しいものを探してくれない?」
あちこちの場所を雪をかき分けて探すけど、アタシは寒さに弱いからイヤなのよ。
…………。
あら? 返事がないわね?
「白銀?」
白銀はポカンと口を開けて上を眺めていた。
そこに何かあるのかと、アタシも上を見てみた。
「なにこれ? 白銀の氷像?」
洞穴の入り口を守る番犬のように、雄々しく立ち顔を上に向け、まるで遠吠えが聞こえてくるような狼の像が立っていた。
結局、瑠璃も桜花も琥珀もぼくの声には答えてくれませんでした。
むうっ。
兄様も白銀たちも、まだぼくを見つけてくれないし……。
チルと二人で途方に暮れちゃうぞ。
「おなか……すいちゃ」
クウッとお腹が鳴っているのを、ナデナデと摩って宥めながら、洞穴の奥へ奥へと探検していきます。
なぜって?
だって、じっと止まっていたら怖いんだもん。
何か目的を持って動いていたら、気が紛れるでしょう?
『おー、れん。あっちに、なにかあるぞ』
チルがそう叫ぶとぼくの手からブイ~ンと飛んでいってしまう。
「あ、まっちぇ」
急に離れていかないでよ。
ちょっと怖いんだからーっ。
ぼくはチルを追いかけて、洞穴の奥へ奥へと進んでいった。