祠と氷像 1
黒いワンちゃんもどきじゃなかった、謎の黒い狼の背に乗ってやってきました雪と氷で覆われた双子山!
同じお椀を逆さまにしたような形の山が二つ仲良く並んでいるの。
その麓に何やら狩人たちが「祭壇」と言っていたところがあるはずですが?
「んゆ?」
真っ白だし、ビュルルルルって吹雪いているし、よく見えないな?
「おおかみしゃん、おおかみしゃん。しゃいだんって……んゆ?」
口をあんぐり開けてお山を観察していたら、気が付くと狼さんが消えてます。
「チル? おおかみしゃん、どこ?」
『……』
ぼくの髪の中に避難しているチルが無視する。
えっと、えっと、ぼく、とっても困っているんだけど?
「チル?」
そもそも、ここに白銀はいないのかな?
誰もいなかったら、本格的にぼくはヤバヤバなのですが?
「……しろがね?」
期待を込めて、ちょっと大きな声で白銀の名前を呼んでみました。
「……しろがね?」
一人ぼっちが寂しくて、さっきより小声になったけど、もう一回呼んでみたよ。
「ううっ……し、しろがねぇ」
このまま一人でここにいたら、本当に本当にぼくは凍えて死んじゃうのでは? と考えて怖くて怖くて声が震えちゃいます。
「う、うえ~ん、しろがねぇ。しろがねーっ。にいたまーっ」
うわわわあん。
怖いよー。
ひっくひっくと大粒の涙を零しながら泣いていると、ザッザッと雪が踏み潰される音がした。
「ん、んゆ?」
ひいいっ、零した涙の跡がピキピキと凍り始めました!
ぼ、ぼく、このまま凍って氷像のようになってしまうんじゃ……。
白銀、紫紺、兄様、た、助けてーっ。
ピコーンと紫紺の尻尾が真っ直ぐに立った。
「いた!」
どうやら、紫紺の魔力感知範囲内にレンの反応があったらしい。
「どっちだ?」
「それが、双子山の辺りにいるみたい。他の気配はないわ。レンも今まで何も反応がなかったのに、急に現れたのよ」
不可解そうな顔をしている紫紺も俺も走るスピードを落とさず、そのまま目の前に見える双子山へと目指す。
「何かに隠されていたのか?」
「うう~ん、その何かの気配もないのよねぇ? 妖精精霊の類でもないし、幽霊かしら?」
「げえっ。お前、それやめろ! レンが聞いたら泣くぞ」
タッタッと積もった雪に足を取られることなく走っていたが、物騒なワードに足が縺れそうになった。
「……ふーん」
な、なんだよ。
ゆ、幽霊なんて怖くないぞ……って、この世界に幽霊なんていないだろう?
死んだ魂はすべてあの方の元へと戻され、またこの世界へと生まれるのだから。
「そうね。でもあの方のすることだから」
うぐっ。
確かに、あの方のすることだからな……失敗もあるだろう。
俺は早くレンに会いたい気持ちと、もし幽霊に導かれていたら嫌だなぁと複雑な気持ちで走り続けた。
紫紺の頭には吹雪に吹っ飛ばされそうな真紅が必死にしがみついているし、ヒューとアリスターも懸命に付いてきている。
……アリスターが抱っこしているディディは、やっぱり太り過ぎだと思うぞ?
レンのいる双子山までもう少し。
待っていろよ、レン!
グスグスと鼻を鳴らして泣いていたらビックリ!
鼻水も鼻毛も凍り始めました。
「あわわわ。ぼく、こおっちゃう」
ど、どうしようとウロウロ歩き回り、キョロキョロと一面真っ白の世界を見回します。
キラリ。
「んゆ?」
何か、あっちで光ったよ?
ぼくはフラフラとその光に誘われるように歩き出しました。
『はっ! おれ、ねてた』
「チル!」
よかった! ぼくの髪の中にチルはいました!
そっと手でチルを握って顔の前まで持ってくると、チルはブルブルと震えて自分の腕で自分の体を抱きしめていた。
『うーっ、しぬところだった。さむすぎ。さむすぎ。こごえちゃう』
チルが、ズルーッと鼻水を垂らしたらカキーンと凍って氷柱みたいになった。
おっと、面白がっている場合じゃないや。
ぼくとチルが凍らない場所へ移動して、白銀たちが助けにきてくれるのを待たないと。
『レン。あっちに、あな、あるぞ』
「んゆ?」
あっちはさっきキラリと光ったところだね。
「あっちいく」
んしょ、んしょ、と頑張って歩いていくと、ぽっかりと開いた洞穴がありました。
さっきも兄様たちと洞穴で休憩したよね?
「ここでまちゅ。にいたまたちまちゅ」
ありゃりゃ、寒くて口も回らなくなってきたぞ。
ぼくは両手でチルを包んで、その洞穴へと足を踏み入れた。