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狼獣人の矜持 5

真っ白い吹雪の中、ワンちゃんもどきは軽快に走って進みます。

ぼくも振り落とされないように、首元のもふっとした毛をしっかりと掴んでます。


「坊主。なかなか背に乗るのが上手じゃないか」


「あい。いつも、しろがね、のってりゅもん」


ワンちゃんもどきが走りながらぼくに話かけてきて、ぼくもそれに答えられるのは、風が当たらないようにワンちゃんもどきの風魔法で、空気の層を作っているからだって。

だから、寒さはそのままだけど、顔に冷たい雪や風が当たることがないのです。

快適、快適。


「ふむ。しろがねとやらは、ワシと同じ狼か?」


「おおかみ。ううん……えっと、しろがねはしろがね」


ワンちゃんもどきは狼さんでした。

そして、白銀はいつも「俺は狼じゃねぇ」と叫んでいるから狼ではないです。

でも、神獣フェンリルって教えちゃダメな気がするから、白銀は白銀で押し切ろう。


「ふふふ。そうか。いつまでもそのしろがねと仲良くな、坊主」


「……あい」


白銀とはずっとお友達だけど、狼さんはどうしてそんなことをぼくに言うのだろう?


「おおかみしゃん、おなまえは?」


「はて? 長いこと彷徨っていたからな、名前など忘れてしまったわい」


ガハハハッと大笑いをして、ダッと走るスピードを上げた。

あれ? ぼくってば変なこと聞いちゃった?


チルは大人しくぼくの髪の中にいて、琥珀は依り代から離れたのかおしゃべりしなくなっていた。

グングンと双子山が大きく見えるということは、ぼくたちが双子山に近づいているってこと。


ぼくを置いていった白銀はちゃんといるかな?

逸れてしまったぼくのことを兄様たちは心配しているかな?


「……しろがねがわりゅい」


兄様に怒られるときは白銀も一緒に怒られてもらおうと決めて、ぼくは真っすぐに双子山を見つめた。














ハッハッと走って双子山を目指す。

その間も神獣としての能力を最大限に発揮し、レンの気配を探す。


「ちょっと! アンタの神気がダダ漏れしていて、アタシの魔力探知の邪魔をするから引っ込めなさい! ったく、面倒なことばかりしやがって」


ゲシッゲシッとやや強めに尻を叩かれる俺は、神獣フェンリルなんだけどな。

はいはい、無駄な神気は出しませんよ。


「ピイピイピイピイ」

<俺様が思うに、レンは誰かに攫われたのではないのか>


ムムムと小鳥のくせに難しいことをそれっぽく言っているのは神獣フェニックスだ。


「そうだな。急にレンの気配が消えるのもおかしいし。これだけ走ってもレンに追いつかないのもおかしい」


「ええ。アタシの感知範囲から消えたのよ。あのブルーフレイムの街でアンタにレンが誘拐されたときみたいにね!」


走りながら聖獣レオノワール、紫紺はギンッと赤髪狼獣人アリスターに抱っこされている火の中級精霊ディディを睨む。

……どうでもいいけど、お前太ってないか? ますます丸々としたフォルムになってるけど?


「ギャ、ギャギャギャオ」


「すいません。こいつが今回は自分じゃないって。あと、精霊が作る精霊の道でもないそうです」


ペコリと頭を下げ、ぺしょんと耳を倒したアリスターが通訳すると、その隣を走るヒューが一段と走るスピードを上げた。


「精霊の仕業じゃないなら、レンの危険度が増す。早く探さないと」


焦る気持ちはわかる。


先ほど、ヒューと契約しているこまっしゃくれた水妖精のチロに調べてもらったが、ここら辺一帯、異常なほど妖精精霊の数が少ないらしい。

そして、水妖精のチロは同じ水系だが氷の妖精精霊とは仲がよくないとか。


いやいや、お前。

他の妖精たちにヒューを見せて取り合いになりたくないから、近づきたくないだけだろ?

この状況を見ても、己の欲望に忠実な妖精ってどうなんだよ!


よし、決めた。

次、水の精霊王に会うときに文句言ってやる。


そう決めて、紫紺に同意を求めたら、すっげえ冷たい目で見られた。

なんで?


「だってここら辺一帯に妖精精霊が少ないのって、昔、アンタがここら辺を守護してたからでしょ? アンタが嫌われてんのよ」


ガーン!


「じゃあ、精霊たちに頼んでレンを探してもらうことも難しいね」


ヒューの気落ちした声に俺も申し訳なさに尻尾が垂れるぜ。

昔の俺……ちょっと暴れすぎたもんなぁ。


「ピイピー」

<壊滅状態だろ?>


うるさい。

俺はブルルッと体を震わして背中に乗っていた赤い小鳥を振るい落とす。


「ピーッ」

<わーっ!>


ふんっ、ちょっとは冷たい雪に埋もれて反省しろ。

雪の中に落ちた真紅はビービーと泣き、紫紺が闇魔法の触手をニョロンと出して救い出していた。


「とにかく双子山の祭壇まで行ってみよう。もしものときは瑠璃たちにも助けてもらわないと」


寒さではない何かで顔色を悪くさせたヒューが、目の前に聳える双子山を指差す。


「あれ? レンの奴、危なかったら瑠璃に助けを求めればいいんじゃ……」


レンの胸元には聖獣リヴァイアサン、瑠璃の鱗と、聖獣ホーリーサーペントの鱗が飾られている。

その鱗に向かって呼びかければ通信ができるし、転移魔法で即座に助けに来ることもできる。

あれ? じゃあレンは無事なのか?


「今は無事でも、どうなるかわからないでしょ? それに、感じるのよ。何かがいるって。アタシたちとは違う、何かがね」


紫紺は厳しい目つきで双子山を睨むと、四肢に力を入れ走るスピードを上げた。

それが奴の不安を表しているようで、俺の胸にも言いようのない不安を連れてきた。


待ってろよ、レン。

必ず、俺がお前を守ってやる。


メリークリスマス!

今日は、マグコミ様にてコミカライズ第2話が更新されています!

どうぞ、クリスマスプレゼントと思ってお楽しみください。

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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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