狼獣人の矜持 4
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雪が吹雪く森の中で迷子になったぼくの側には、水妖精のチルと神獣エンシェントドラゴンの依り代の土人形がいてくれるけど……。
「ごめんねぇ。ボクが力を使うとこの土塊は壊れるし、その辺り一帯に被害が出るからね、ムリ」
琥珀はぼくのSOSに応えることができません。
ちっこいチルは吹雪の中は飛べないし。
『ちっこいのは、レンもだ!』
ちっこくないもん! もうすぐ背がグングン伸びるお年頃だもん!
「ぶうっ。あ、そうだ! るりかおうか、よぶ」
いいことを思いついたとばかりに、胸の辺りにゴソゴソと手を突っ込んで隠していたペンダントを高々と掲げた。
このペンダントトップは、聖獣リヴァイアサンの瑠璃の鱗と同じく聖獣ホーリーサーペントの桜花の鱗なのだ。
この鱗に向かって呼びかけると瑠璃たちに通じるし、助けにもきてくれるんだよ。
「待った―!」
琥珀の土人形……もう琥珀でいいや、琥珀がジタバタと暴れてポスンと雪の中へ落ちた。
わわわ、大変!
「だいじょーぶ?」
焦って雪の中へ手を突っ込んで琥珀の小さな体を救出します。
「ぺっぺっ。失敗失敗。ありがと、レン。でも瑠璃と桜花を呼び出すのはちょっと待ってほしい」
「んゆ?」
なんで?
あと、琥珀ってこんなカンジの神獣だったけ?
なんか、もっとポヤヤンな、ボーっとしたイメージだったんだけど。
「ああ、最近はドラゴンたちとも交流を持っているから、成長したのかもね」
「そうなの?」
琥珀はニッコリと笑顔で、やや自慢げに胸を張っている。
ずっと昔にシエル様に創られて、長い時間が過ぎたはずなのに、今ようやく成長し始めたのかな?
でも、琥珀に言うと拗ねられる気がするから、ぼくはお口をチャックです。
「それでね、あの二人を呼べばレンは助かると思うけど、ここら辺は……壊滅的だね。何もなくなっちゃうよ」
「んゆ?」
どうして?
「瑠璃は海を守護するぐらいだから水魔法が得意だ。ここからレンを助けようとしたら、まず雪と氷を消しちゃうよね」
この森から雪と氷を消しちっゃたら、ただの森では?
あ、狩人さんたちはみんな真っ白の体毛なのに、今度はその色が目立っちゃう。
「桜花はとにかく大きいから、レンに呼ばれたらそのまま慌てて転移してくるよ。あの大きな体で現れたら揺れるよね?」
揺れる……。
ぼくは双子山と呼ばれる高い山を見上げた。
もしかして雪崩?
「あわわわ。ダメなの。あぶないの」
ぼくは助かるけど、周りの人に迷惑だし、下手したらぼく以外の人が危険なのでは?
ガックリと落ち込んでしまう……じゃあ、どうすればいいの?
「ぼく……どうしよう」
着ているお洋服には、紫紺が防寒の魔法をこれでもかとかけてくれたから寒くはないけど、外気に晒されている顔はちょっと冷たくて痛いぐらいだ。
お腹も減ってくる、水……雪を食べればいい? いやいや、冷たすぎてお腹を壊しちゃうかも……。
『ちぇっ。おまえもやくたたずだな』
ダメだよ、チル。
本当のことでも口に出したらダメだよ。
ほら、琥珀も落ち込んじゃったよ。
ビュルルルと吹雪いていた風が、なんだかゴオオオォッと強い音に変わった気がする。
ぼくは首を縮めて両手で耳を押さえた。
「どうした、坊主?」
「んゆ? だあれ? ……わあっ、ワンちゃん」
声が聞こえたほうへ顔を向けると大きな黒いワンちゃんが雪の中に堂々と立っています。
「む、ワシはワンちゃんではないぞ。それより、人の子よ、ここにいると寒くて死ぬぞ」
「うっ」
やっぱりここでジッとしていると死んじゃうんだ……くすん。
「まいごなの」
ぼくはワンちゃん……? 黒いワンちゃんもどきに正直に答えた。
「そうか迷子か。困ったのう。一緒にきた者たちはどうした?」
「う~んと、あっちにはしっていって、にいたまはたぶんあっち」
ぼくは立って身振り手振りで白銀たちとの位置関係を説明したけど、ワンちゃんもどきは理解できなかったみたいで顔をぐわっと顰めた。
「ふむ。では、坊主たちはどこへ行こうとしていたのか?」
「あっちのおやま。えっとえっと、さいだん? ありゅところ」
「なんでそんな何もないところへ? まあ、いい。ではそこまでワシが連れていってやろう」
どこか誇らしげに胸をはるワンちゃんもどきだけど、知らない人にはついていってはいけません。
どうしようか?
ぼくはコソコソとチルと琥珀と作戦会議です。
「どうしゅる?」
『つれていってもらえよ』
「ここにいても仕方ないし」
二人とも即答です。
ううん、ううん、いいのかな? 兄様にあとで叱られないかな?
ぼくはちょっと迷いながらも黒いワンちゃんもどきにお願いしました。
「あい。よろちくおねがいしましゅ」
でも、ワンちゃんもどきは、ぼくたちをどうやって双子山まで送り届けてくれるんだろう?
「「「しまった!」」」
白銀は全速力で駆けて気分をよくしたところで、レンたちを置いてきたことに気が付いた。
ヒューは白銀を追いかけていくレンの背中が吹雪で見えなくなって、紫紺はすぐに追いかけようとしてレンの気配が消えたことに焦る。
そして、引き返した白銀と姿の見えなくなったレンを追いかけたヒューたちが、バッタリと出くわせる。
白銀は真っすぐに走ってきた道を戻ってきたはず。
一方、ヒューたちもレンたちが走っていった方角へ真っすぐと進んできたはず。
……レンはどこへ消えた?