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狼獣人の矜持 3

ビュオオオオオーッ。

ビュルルルルルルルル。


「にいたま」


これってぼくたち歩いて進めるの?


「レン」


目の前は真っ白……いや、真っ白な壁が高速で横に移動しているみたい。

ものすごく雪が降っていて、しかも強い風が吹いていて、吹雪になっているのだ。

その吹雪の中、あの遠くに霞んで見える高い山の麓にある祭殿に行かないと、ぼくたちが探している精霊楽器を手に入れることはできない。


「いや、まだそれが精霊楽器かどうかわからないけどな」


だめだよ、アリスター。

そんなこと言ったら、今からあの山まで行くのがとっても嫌になるでしょう?


「アタシはもうイヤよ」


紫紺はねぇ、元々寒いのが苦手だもんね。

人化すると獣体のときよりは堪えられるけど、やっぱり寒いのは寒いみたい。


ディディも火の中級精霊だから水や氷には耐性がなく、自分周りに仄かに火を灯して暖を取っている。

いいなぁ。


「あっち! つめたっ! おい、ディディ。気をつけろよ。俺の服が燃えるわ」


大好きなアリスターの足へとスリスリしたら、ディディの火が燃え移ってアリスターは大慌て。

雪で火を消したのはよかったけど、濡れた服が冷たかったんだね。

紫紺が無表情で「ドライ」の魔法をかけて、服を乾かしてあげていた。

そして、白銀はというと……。


「さあ、行こうぜ!あー、 誰もいないなら獣体に戻って走りたいぜ」


この雪嵐の中で、一人ご機嫌だった。


「バカ」


「ピーイピイ」

<あいつは、昔から頭の中が空っぽだ>


神獣聖獣仲間の冷たい視線も無視して、白銀は尻尾をブンブン振ってズンズンと進みだした。


「あー、まっちぇ」


白銀一人で動いたら迷子になっちゃうよー。


「あ、レン。一人で動いたらダメだ」


「おーい、ヒュー。待ってくれ。ほら、ディディ火を引っ込めろ」


「あら、やだ。置いていかれちゃうわ」


ビュルルルルルルルル。

ビュオオオオオーッ。


吹雪の中、えっちらおっちらと白銀の背中を追いかける。

白銀の広くてかっこいい背中から目を離さずに、積もった雪に足を取られないように。

右足、左足、交互に出して。


「うんちょ、うんちょ。……あうっ!」


べちゃっと大きな雪が顔にぶつかった!


「ひゃあああ、ちべたーい」


ブルブルと頭を左右に振ったあと、手袋をした手で顔をバシバシと叩いて水滴を払う。

雪の冷たさが既に痛さに変わってジンジンとするし、鼻が……ズルルルルッ。


「っくしょん」


ズルルルルッ。

そして、鼻をかんで顔を上げたときには、白銀の背中は雪に紛れてみえなくなっていた。


「しろがね?」


しょうがないなー、じゃあ兄様たちと一緒に行こうと、クルッと振り向いたそこには、ビュルルルと唸る雪の風。

真っ白な世界。


「にいたま?」


あれれ? みんな、どこにいるの?















ぼくはその場にしゃがみこんだ。


「まいご。うごいたらダメ」


最近のぼくはよく迷子になっている気がする。

兄様たちに心配をかけてしまうのが申し訳なくて、じんわりと目に涙が浮かんできた。


『おーい、なくと、なみだがこおるぞ』


ぼくの髪の毛に隠れていた水妖精のチルがぴょんと飛び出して、頬にビタッとくっついた。

「チル!」


いつも大事なときに「情報収集だー」と遊びに行っていなくて、怖い人と対峙するときはブルブルとぼくの背中に隠れてしまう、ぼくの友達、水妖精のチルが、ぼくが困ったときに側にいるなんて!


「めずらちい」


『いいたいことは、それだけか?』


チロンと睨まれたけど、ぜんぜん怖くないよ。


「チル。とべる?」


チルが飛んでいって兄様たちか白銀をここまで連れてきてくれればいいけど、どうなの?


『むりだな。ゆきがじゃま』


だよねーっ。

ううん、期待してなかったからいいんだけど、そうなると迷子が二人に増えちゃったよ。


『れん。ここにいると、やばいぞ』


チルがぼくの髪の毛一房を握ってグイグイと引っ張るけど、迷子のときはじっとその場で待っているのがいいんだよ?


「ここで、にいたまたちをまつ」


キリッとした顔で宣言すると、チルが苦いお茶を飲んだみたいな顔をした。


『いやいや、しんじゃうぞ?』


「え?」


死んじゃうの?

そ、それは、困ったぞ。

そのとき、ぼくの腰あたりがもぞもぞとした。


「んゆ?」


もぞもぞ。

なんだろう? 何かが動いている?


「あ、これ」


この前友達になった神獣エンシェントドラゴンを模った土人形だ。


「こはく」


いま、この人形が動いたのかな?

こてんと首を傾げて目の高さまで持ち上げた人形をチルと見つめていると、今度は声がした。


「レーン。レーン」


「ありゃりゃ、こはく?」


土人形から琥珀ののんびりとした声が聞こえてきた。


「大丈夫? 寒くないかい?」


「こはく。どこからみてるの?」


琥珀は高い高い、あの雪山よりもっと高い山の上にいるはずで、こんな離れた場所にいるぼくが見えるわけないよね?


「あははは。見えるよ。だってこの人形はぼくの依り代なんだから。この人形が見て触れるものは僕だって見て触れるのさ」


「んゆ?」


それって、この土人形が小さな琥珀そのものってことなのかな?

だったら、琥珀!

ぼくたちを助けてください。


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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