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狼獣人の矜持 2

アダムさん、この森で一番強い狩人の集落の長さんだけど、長老さまじゃなくて集落の中で一番強い人、リーダーさんに案内されて、集落の建物の中で一番大きい屋敷へと入りました。


ブルーベル家のお屋敷とは違って、ここでは丸くて低いテーブルを囲んで床に座る様式みたいで、厚めの絨緞が敷かれた上に薄いクッションがいっぱい置かれていました。

あれって座布団かな?


当然、そんな座り方をしたことのない兄様たちはしばし硬直、冒険者の両親にあちこちと連れられていたアリスターだけがスタスタと進みドサッと腰を下ろした。


「……アリスター?」


「どうした? 早く座れよ」


アダムさんたちは白銀のためにゴテゴテと装飾された椅子を持ち出してきているけど、おまけのぼくたちのことは放置している。

だから、貴族の生活しかしてこなかった兄様に床の座り方を教えてくれる人はいない。


「にいたま?」


さすがに兄様に正座や横座りは似合わないから、胡坐かな?

みんなでピクニックに行って原っぱに座ったときはどうしたっけ?

完璧執事のセバスが椅子を用意していた記憶があるぞ。

ここにはセバスがいないから、やっぱり胡坐?

んー、でもな……チラッと盗み見た兄様はキラッキラの王子様のごとく眩しいイケメン。


「レン。ぼくの膝に座りなさい」


「え?」


「床に直に座るのは、ちょっとね」


そう言うと兄様はアリスターの隣にサッと腰を下ろし、長い足を器用に組んで胡坐に座る。

ちょんとぼくの体を膝に乗せて。


「ヒュー。レンが重いならアタシが抱えるわよ?」


紫紺も兄様の隣に座る。

紫紺は横座りかな? と思っていたけど、豪快に胡坐だった。

紫紺の頭の上でピヨピヨと真紅が囀る。


「ピイピイッ」

<ちっ、白銀の側じゃうるさくて眠れねぇ>


そうだね、白銀はアダムさんたちが差し出す椅子を拒否して、お酒が入ったコップやら骨付き肉やらが次々と渡されるのを首を横に振って拒んでいる。

本当は飲みたいし食べたいんだろうけど、ぼくたちには用意されてないからね。


なんでアダムさんたちは、白銀を熱烈大歓迎しているんだろう?

同じ狼獣人だと思っているから?

でも、それなら……。


「ん? なんだ、レン」


「ううん。なんでもない」


じゃあ、なんで狼獣人のアリスターはぼくたちと同じ待遇なの?


「ふふふ。レンったら、眉毛をこーんなにして悩んじゃって」


紫紺が自分の眉間をわざと顰めたあと、面白そうに笑い声を立てた。


「んゆ?」


「白銀が大人気なのが不思議なのね?」


ぼくはコクンと頷く。


「紫紺。僕たちも不思議に思っているんだ。確かにジョーは白銀がいれば狩人の集落に連れて行っても大丈夫みたいなことは言っていたけど。まさか、こんなに歓迎というか……神様にでも会ったみたいな熱狂ぶりなんだが」


神……白銀は神獣フェンリルだから神様でもあるけど、アダムさんたちは白銀が神獣だからって歓迎しているわけじゃないみたい。

兄様も冷静に見えて、狼獣人さんたちのあの大歓迎ぶりには困惑していたんだね。


「たぶん、あの狼獣人たちは昔、ここにいたと伝わる人狼族を崇拝している一族じゃないかしら?」


「じんろーぞく?」


なにそれ? なにかのゲーム?

こてんと首を傾げたぼくを優しく見つめて、紫紺は言葉をつないでいく。


「人狼族はもういないの。いなくなってしまったのよ……。そして、彼らが守護神として慕っていたのが白銀、神獣フェンリルなの」


「紫紺。じゃあここの狼獣人たちは人狼族の子孫なのかい?」


兄様が、白銀を中心に嬉しそうに騒ぐ狼獣人たちを複雑そうな表情を向ける。


「さあ? 子孫も残さず滅亡したと思っていたけど、どうかしら? たぶんあの子たちは偉大な人狼族に憧れていて、その一族が崇めていた神獣フェンリルを自分たちの守護神のように思っているんでしょうね」


んゆ?


「し、紫紺様。そうすると、ここの人たちに白銀様の正体がバレてることになりますよ?」


アリスターが強張った顔でそう囁くと、紫紺はカラカラと笑って手を軽く左右に振った。


「あらあら違うわよ。神獣フェンリルは白銀の毛。あの狼獣人たちも見事な白毛だけど、白銀ではないわ。白銀の毛の色に見惚れているのよ。それに、やっぱり狩人の中でも強さを誇るだけあるわ。白銀の強さもちゃんとわかっているみたい」


うーん、すごい人と似ている部分があるから、その人を集落に招待できて浮かれている状態なのかな?

しかも、似ている人じゃなくて本人……いやいや、本狼だしね!


助けを求めるような切ない目でこちらを見ている白銀に、ぼくたちは笑顔で手を振った。

頑張れ、白銀!













「ふむ。白銀様たちは探しものがあるのか?」


ようやく白銀フィーバーが落ち着いたアダムさんは温かいお茶を啜りながら、ぼくたちの話を聞いてくれた。


「探し物ですかい? 商品の中にあればいいですけど……」


部屋の端っこで商売を始めていたジョーさんが、ゴソゴソと自分の収納袋を漁りだす。

商品はいくつかの種類に分けて収納袋に入れ、その袋を収納魔法で運んでいたジョーさんの周りには、馬車一台分の荷物が散乱している。


「ええ。なんて説明したらいいか。魔道具……僕たちは精霊楽器と呼んでいます」


「精霊楽器?」


「はい。その昔、精霊と契約した者が奏でて悪しきものを浄化する力を増幅させた楽器です」


兄様の説明にひょいと片眉を上げたアダムさんは、顎に手を当ててしばし考えている。


ズー。


「あちち」


寒い季節、お茶がすぐに冷めないようにとろみがあるせいか、ぼくにはまだ熱いよ。

ズー。


「楽器……ではないが、精霊から賜ったものがあると聞いている」


「「「えっ!」」」


期待してなかったのに、ここでの重要情報に兄様とアリスター、紫紺はびっくりだ。


「ただ。我ら狼獣人の聖域に祀ってあるのだ。別に余所者が訪れても問題はないが、場所がな……」


ゴクリ。

ど、どうしよう、とんでもない場所にあるのかな?


「双子山の麓、偉大なる人狼族の像が守る祭殿にある」


……え?

それって、どこですか?


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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