リスの案内人 2
サクサク。
…………。
サクサク。
…………。
サクサク……ズボッ。
「んゆ?」
歩いていたらズボッと胸まで雪に埋もれたんだけど、どうして?
「ほら、やっぱりレンは自分で歩くの禁止な」
ひょいとアリスターに雪の中から体を引っこ抜かれて、「ほい」と兄様へ渡される。
その間、ぼくは突然の出来事にびっくり眼でフリーズしていました。
「レン、危ないから抱っこして行こうね」
「…………あい」
うむ、不満だけどみんなの迷惑になるならしょうがないです。
サクサク。
…………。
サクサク。
…………。
白銀と紫紺は雪の上を歩いていても足音がしないし、兄様とアリスターも慣れないはずの雪道の上をなんなく歩いている。
ピーピーと白銀の頭の上で寝ている小鳥姿の真紅の寝息がうるさいぐらいだ。
ディディは火の精霊らしく雪が苦手なのか、アリスターの背中にへばり付いて移動している。
そして、感じる誰かの視線。
…………。
ちなみにリス獣人のジョーさんも上手に雪道を歩いているし、ふさふさの大きな尻尾が揺れるのを見ていると、もふもふしたくて胸がざわざわします。
「……にいたま?」
「気にしないよ、レン。気にしない」
しーって人差し指を口元に持ってくる兄様のキレイな笑顔に、ぼくは無言でコックリと頷いた。
兄様、片腕でぼくを軽々と抱っこするなんて、知らない間に力持ちになっていたんですね。
チラッと兄様の肩ごしに後ろを見る。
…………。
うーん、やっぱり誰かに見られている気がするんだけどなぁ。
白銀や紫紺も気にしてないし、いいのかな?
「さあさあ、行きましょう。この先は強い魔獣が出ますから気を付けてください。そして、そこの冒険者さんは忘れずに俺も守ってくださいね!」
ジョーさんが期待の眼差しで白銀と紫紺を見つめるけど、二人とも適当に返事をして流していた。
んゆ? 大丈夫かな? 強い魔獣が襲ってくるんでしょう?
「あのな、レン。強い魔獣だからこそ俺たちがいるのに襲ってくるなんてバカなことはしないんだよ」
白銀がちょっと自慢するように言ってきたけど、そうなの?
「まあ、神獣様と聖獣様だからな」
ボソッとジョーさんに聞こえないぐらいの小声でアリスターが呟いた。
そして、本当に何もなく森の奥にある狼獣人の集落へと辿り着きました!
本当に魔獣が襲ってこなかった!
遠いところでこちらを伺う魔獣がいたし、初めて近くで見る魔獣の姿にぼくは半泣きでプルプル震えてしまったけど、白銀がガウッて吠えて紫紺がギロッと睨んだら、魔獣は一目散に逃げて行った。
その魔獣は、熊っぽいフォルムで足が八本あったけど……大きさが前の世界のトラックぐらいあったと思う。
逃げていく振動で木に積もった雪がバサバサと落ちてきて、その音でグースカ寝ていた真紅が飛び起きて白銀の頭の上からポトリと落ちていた。
そんなことを繰り返し、やや日が落ち始めたころ、狼獣人の集落へと繋がる道まで来ることができました。
この道は魔道具で封鎖されているから、集落の人に開けてもらわないと通れないんだって。
「んゆ? よびりん、ありゅの?」
道の向こうに集落の屋根とか見えるけど、どうやって集落の人を呼びだすの?
ジョーさんはぼくの頭を撫でながら、カラカラと快活に笑った。
「呼び鈴なんてないさ。いつもは勝手に開くんだよ」
「…………」
アリスターと兄様が顔を見合わせてため息を吐いてる。
それって、いつもジョーさんを隠れて守ってくれている護衛の人が開けてくれるのでは?
「ちっ。いつまでも寒い雪の中にレンを置いておくわけにはいかねぇ」
白銀がむんずと自分の頭の上の真紅を掴むとポイッと紫紺に向かって投げた。
「ピーィッ」
<なにすんだ! バカ犬>
白銀は真紅のことを無視してダッと駆け出すと、何本かの木の幹にステップを踏むように軽々と足を掛け蹴りあがり、一本の太い木の上まで会っという間に登っていった。
「ひよおおおっ」
手を額のところに翳して、ぼくは白銀が登った木の天辺を仰ぎ見る。
「すごいな」
「うん。白銀の身のこなしは見習いたいな」
アリスターと兄様も褒めているし、ディディは興奮してギャッギャッと騒いでいる。
うーん、ディディは白銀の真似はできないと思うよ、そのぽっちゃり体型はね……。
「ギャッ!」
ぼくの心の声が聞こえたのかディディがギロリとぼくを睨む。
あははは。
紫紺と真紅は白銀の素晴らしい運動神経には興味がないのか、つまらなさそうにしている。
しばらくして、ガサガサと木の葉が揺れて音を立てると、雪とともにドサドササッと何かが落ちてきた。
その後、スタッと木の上から着地百点満点で華麗に降りて来る白銀。
「おい、早く道を開けろ」
ドゴッと落ちた何かを蹴る白銀と、蹴られた何かはググッと体を丸める。
「んゆ?」
「あー、何しているんですか! その方は狩人の方ですよ! 味方です味方! ひいーっ、大丈夫ですか?」
ジョーさんが慌ててその何かに駆け寄っていく。
何かは今までぼくたちを見守ってきた? 狼獣人の狩人さんだったみたい。
なんで、白銀は同じ狼なのに蹴っちゃうかな?
「しろがね、めー、よ」
「……レン、俺はただの狼じゃないんだ。こいつは仲間じゃないから」
白銀が耳と尻尾をしょんぼりさせて、ぼくに弁解してたけどダメです。
「みんな、なかよくなの」