リスの案内人 1
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氷雪山脈地帯に広がる雪の森。
ほぼ一年中、雪に覆われていると言っても過言ではない森には、厳しい環境でいくつかの狩人の集落が存在している。
その狩人のほとんどが獣人族であり、白い体毛を持つ希少種である。
「まっしろ?」
ぼくがこてんと首を傾げると、ジョーさんは温かいジンジャーティーが入ったカップを両手に持ちふうーっと息を吐いた。
「ええ。もちろん違う色の獣人の子どもも生まれるそうですが、やはり一面、真白い景色では目立つということで、幼いときに里子に出されるようです」
森での生活は厳しい。
特に、ここ氷雪山脈では魔獣の強さが桁違いだ。
その魔獣を狩り、振る雪とともに過ごすには、白い毛以外は目立ちすぎる。
この森で目立つということは、魔獣に狙われやすく、命の危険がそれだけ高くなる。
ぼくが悲しくて、うりゅりゅとした顔をしていたからか、兄様が優しく頭を撫でてくれて、冒険者の両親に育てられたアリスターは、戦いの中でする子育ての難しさを教えてくれる。
「別に親に愛情がないから子どもを育てないわけじゃない。我が子がかわいいから、自分の手から離れた安全な場所で生きてほしいって望むんだ」
白い森の中で茶色や黒の毛色は目立ち、獰猛な魔獣に目をつけられ襲われても、幼体では逃げることすら叶わない。
だから、安全な場所で育ち生きていってほしい。
「そんな過酷な環境で育った狩人たちは、みなものすごく強いのですが、特に森の奥に住む狼獣人の集落は狩人たちのリーダー的存在です」
ジョーさんもまずはその狼さんの集落で商売をしてから、他の集落を回るそう。
「そもそも、この危険な森を弱弱獣人の俺が一人で行き来できるわけがありません。でも俺は狩人にとっても貴重な行商人ですからね。実は狼獣人の護衛が付きます」
ズズーッとお茶を啜るジョーさん。
ここからもう少し奥に入ると狩人の誰かが見守ってくれるのを感じることができるそう。
そして、一番強い狩人の集落で狼獣人さんが一人付き添って、他の集落を回り、森の出口まで護衛してくれるらしい。
「ほかのかりゅうど」
「ええ。一番強いのは狼獣人ですが、他にも熊獣人や狐獣人。鳥獣人の集落もあります」
ほえええ、ぼくもいろんな集落を回ってみたいなぁ。
「「ダメ」」
即座に兄様とアリスターから拒否られました。
「ぶー」
両頬をリスの頬袋のようにパンパンに膨らまして拗ねたら、ジョーさんが大笑いしてたよ。
プンプン、失礼だなぁ。
その尻尾のもふもふをブラッシングさせてくれたら、許してあげてもいいよ?
ジョーさんのクルンとしたもふもふ尻尾をブラッシングしようとして白銀に止められました。
だって、雪で濡れてビショビショだったのを焚火で乾かしたから、ボサボサのゴワゴワなんだよ?
ブラッシングしたらもっとすごいもふもふになると思う。
「だから、ブラチ」
白銀と紫紺専用のブラシは持ち歩いているから、貸して。
「「いや」」
ガーン!
二人に拒否られることなんて今まで一度もなかったのにぃ。
「レン。白銀だって紫紺だって、レンのブラッシングをとっても楽しみにしているんだよ。なのにレンが知らない人のブラッシングに自分のブラシを使ったら悲しくなるだろう?」
兄様に丁寧に説明されてぼくも理解した。
「しろがね、しこん。ごめんなちゃい」
ペコリと頭を深く下げると、白銀と紫紺が左右からギュッと抱きしめてくれました。
いけない、いけない。
仲の良い友達でも、我儘言わないように気をつけないと。
では、リスのお兄さんのブラッシングは諦めよう。
「いいのか? 適当なブラシで梳かしてやればいいじゃないか」
アリスターが不思議そうに声をかけてきたけど、ぼくは頭を横に振って答えます。
「いいの。しろがねとしこん。まいにちブラッチングしゅる」
真紅もいるし、翡翠もセバスに頼めばブラッシングさせてくれるだろう。
あとは……。
「ん?」
「ううん」
いつか、アリスターの真っ赤な尻尾もブラッシングさせてもらおうっと。
ジョーさんも空腹が落ち着いて濡れた服も紫紺の魔法で乾かしてあげて、念のためにとぼくも飲んだポーションを飲んでもらいます。
さあ、出発です!
ジョーさんは兄様たちの頼みに少し困っていたけど、白銀の姿をマジマジと見た後、行商の同行に了承してくれました。
なんでだろう?
狼獣人の集落だから、白銀のこと仲間だと思ったのかな?
サクサクと降り積もった雪の上を歩いて森へと入っていくと、前を歩くジョーさんが振り向いてコクリと大きく頷いた。
さっき話していた狼獣人の狩人さんが見守りに入る場所に近づいたんだ。
キュッと兄様の手を握ると、兄様はぼくへにっこりと笑ってみせた。
「大丈夫だよ。たぶん白銀がいれば狼獣人たちはぼくらに手を出してこないと思うよ」
「んゆ?」
でも、白銀が面倒をみていた狼さんたちは、みんないなくなってしまったんでしょう?
なのに、白銀がいれば大丈夫って、兄様は信じているの?
「そうね。アタシもこのバカがいれば大丈夫な気がしているわ」
紫紺まで兄様の意見に同意する。
「なんだ、なんだ。俺はここに住む狼獣人なぞ知らんぞ? こちらに攻撃してきたら全力でやり返すけどな」
パチンと拳を手のひらにぶつけて不適に笑う白銀に、ジョーさんは「ひえええっ」と恐れおののいていた。
サクサクと進むぼくたち。
んゆ?
なんだか後ろ頭に人の視線をチクチク感じるかも?
「ほら、レン。危ないから前を見て歩きなさい」
「そうだぞ。何も怖いことはないからな!」
紫紺と白銀がそっとぼくの背中を押し出す。
うう~ん? 誰かが見ているような気がするんだけどなぁ?
「みなさん、急ぎましょう。日が暮れるまでには集落に着かなければ」
サクサク。
真っ白な狼さん、会えるのが楽しみだなぁ。