雪と氷の世界へ出発! 7
んゆ?
パチパチと何かが爆ぜる小さな音が聞こえてきて、ぼくがゆっくり瞼を上げるとそこは目に痛いほど白い雪景色ではなく、ゴツゴツとした岩肌の暗い場所だった。
んゆ? ここはどこ?
「ああ、よかった。レン、気がついたのね?」
暗くてよく見えなかったけど、ぼくの近くに紫紺が寄り添っていてくれたみたいだ。
「しこん。おはよ」
むくっと上半身を起こして、こしこしと瞼を擦る。
キョロキョロと左右を見回していると、紫紺がぼくの頭にポテンと手を乗せた。
「ここは洞窟よ。レンが倒れたから休めるところを探して見つけたの」
紫紺にここがどこか教えてもらって改めてその洞窟の中を見回すと、洞窟というより洞穴みたいで行き止まりの奥がすぐそこに見えた。
洞穴の入口からは見慣れてきた雪景色が覗き、右側にはアリスターとディディが小さな焚火の前に座っている。
パチパチという爆ぜた音は焚火の音だったのかな?
「にいたま? しろがね?」
狭い洞穴の中には、大好きな兄様と人化してかっこいい白銀の姿がなかった。
ついでに真紅もいないのかな?
「二人は外で狩った兎を解体しているわよ。レンに温かいスープを飲ましてあげたいって」
紫紺が微笑むのに、ぼくもニッコリと笑って答えようとして、先にお腹が「ぐう」と鳴って返事をしてしまった。
「あう」
「あら、お腹が減ったのね。じゃあアタシも手伝ってくるから、アリスターと一緒に待っていなさい」
紫紺はひょいとぼくの体を抱き上げると、スタスタと歩きアリスターへとぼくを手渡す。
「何か少し食べさせてあげてちょうだい」
「はい。わかりました」
「ギャウ!」
それからしばらくして、紫紺と兄様がキレイに捌いた兎の肉を入れた温かいシチューができました。
白銀はあちこち兎の血で汚して紫紺に怒られていたよ。
人化しているから細かい作業は力加減がわからなくて苦手なんだって。
「レン。もう大丈夫? 熱が出てたんだよ。無理しなくてもいいからね」
兄様はご飯を食べているときから、ぼくへの過保護がヒートアップしています。
兄様とチロの水魔法が原因でぼくが熱を出したと責任を感じているらしい。
「ううん。ぼく、げんきなの」
ゾクゾクと寒かったのもアリスターとディディが熾した焚火にあたってたらポカポカしてきたし、お腹もいっばいだし、頭がぐわんぐわんするのも治ったよ。
「ヒュー。ポーションも飲ましたし、ディディの火精霊の癒し火にあたっているから、もう平気だよ」
そうなのだ。
ぼくが熱が出てぼんやりとしている間にアリスターは持参していたポーション、それも王弟であり公爵様でもあるアルヴィン様お手製の病気も快癒する特別ポーションをぼくに飲ましていた。
兄様と白銀はパニック状態で役に立たず、紫紺が洞窟を見つけたあとは外で解体作業を命じて追い出していたとか。
「だって、ギャーギャー騒ぐだけで邪魔だったんですもの」
フンッと鼻を鳴らして髪をふあさっと肩から払う紫紺は、カッコいい。
そして、念のためにディディが癒しの効果がある火を灯してくれた。
「ギャーウッ」
得意げに胸を張ったあと、チロンと小ばかにした視線を小鳥姿の真紅へと送る。
「ピーイッ」
<なんかバカにされた気がする>
うん、ディディの真紅嫌いはまだまだ続きそうです。
仕方ないのかな? なんていっても火の精霊界をめちゃくちゃにしたのが真紅なんだもの。
「しんく。いーこいーこ」
ぼくは白銀の隣にちょこんと座ってシチューのお肉と格闘していた真紅の頭を撫でてあげる。
「ピイッ」
<邪魔すんなっ>
ぺしっと羽で叩かれちゃった。
「けふっ」
満腹である。
凍えていた体も指先までポカポカに暖められたぼくは、お昼寝タイムに突入するころだけど、さっきまで眠っていたからか眠くない。
むうっ。
でも、みんなはそれぞれに忙しい?
兄様とアリスターは、アリスターが兄様にお説教をしています。
いつもと立場が逆転しているせいか、アリスターがとっても嬉しそうで、兄様は反論したくてもできなくてうぐうぐしている。
白銀と紫紺も、紫紺が白銀にガミガミとお説教をしていて、たまに鉄拳制裁が飛んできている。
ディディと真紅は喧嘩中。
たっぷりとご飯を食べた真紅が嫌味のお返しとばかりにディディに突っ込んでいったので、取っ組み合いの大喧嘩中です。
え、喧嘩を止めないのかって?
だって、まるっこいトカゲさんと小さな鳥がべしべしと叩き合っているだけなんだもの。
かわいいよ。
でも、ぼく一人だけヒマになっちゃった。
兄様と一緒にアリスターにお説教されるのも嫌だしなぁと、外に視線を向けるとピコピコと何かが視界に入ったぞ。
「んゆ?」
なんだろう?
白い世界に何かがピコピコ。
そおっとその場を抜け出して、とてとてと外へ出ていく。
こっそりと動かないと兄様に見つかったら大騒ぎになっちゃうからね。
そおっとそおっと。
真っ白に染まった世界、キラキラと木々の積もった雪が日の光に輝き、どこまでも白い雪が広がる。
そこにピコピコと動く茶色のもふもふ?
「これ、なあに?」
雪から茶色のもふもふが生えているんだけど?