雪と氷の世界へ出発! 4
誤字脱字報告ありがとうございます!
いつも、ありがとうございます。
朝、セドリックさんが用意してくれた朝食をみんなで食べて、完璧防寒スタイルで外に出るとキラキラで真っ白な世界でした。
「んゆ? まぶちい」
ギュッと両目を瞑ってしまうぐらい、目に痛い眩しさです。
「昨日は吹雪いていたのに、今日はキレイに晴れたなぁ」
アリスターののんびりとした口調に、恐る恐る片目を開けてみるけど、朝日に反射した雪がキラキラ攻撃をしてきます。
「うきゅ」
またまた目をギュッと瞑って、唇もぎゅむと閉じ全身に力を入れるぼくをひょいと紫紺が抱き上げた。
「大丈夫? そんなに眩しいかしら?」
「まぶちい」
どうして、みんなは眩しくないの?
不思議に思って気が付いた。
今回は白銀も紫紺も人化して一緒に行動している。
つまり、みんなぼくより背が高い!
「ぐむぐむむ」
ぼく、チビじゃないもん!
「なんだ? レンの眉間にシワが……。どうした、レン?」
ぼくの表情の変化に白銀が心配そうに声をかけるけど、このメンバーの中で一番背の高い白銀にぐむぐむした気持ちが激しくなる。
「しろがね、ずりゅい」
「え? はあ? な、なんだ、なんだ、レン? え、俺が悪いのか?」
ついでに責めるなら、白銀の頭の上でのんびり寝こけている真紅が一番ずるいもん!
小鳥の姿で一番高い場所にいるなんて、ずるいぞ!
「ほら、レン。機嫌を直して。あっちに犬ゾリが用意されているよ」
兄様の笑いを含んだ声に耳を澄ませてみると、確かに「ワンワン」と犬の鳴き声が聞こえるような。
「わんちゃん?」
紫紺の腕の中で頭だけをぐるりと動かすと、白い雪景色の中に紛れてよく見えないが白い犬がたくさんいるみたいだ。
「……なんで白い犬ばっかりなんだろうな?」
アリスターもこてんと首を傾げている。
「ここ一帯でしか見られない犬種らしい。雪深い地だから保護色じゃないか?」
う~ん、一年のほとんどを雪に閉ざされた場所なら、白い毛は保護色になって身を守ることができるかも。
でも、真っ白すぎて、うっかり迷い犬になったら探しにくいと思う。
「さあ、早く出発しよう」
犬は白い大きな犬が八匹いて、ソリも全員が乗れそうな大きい木造のソリが一台、その横に体がずんぐりとした男の人が白い息を吐いてぼくたちを待っていた。
「……わらってる?」
白い犬は一匹がだいたい五~六〇センチぐらいの高さで足がもふっと太い。
白い毛はふさふさとしていてたっぷりと体を覆い、三角耳がピーンと立っているんだけど、みんな口角がキュッと上がっていて、まるで笑っているみたい。
「どうも。坊ちゃんたちが森まで行きたいって商人ですかい? また、こんな時期にもの好きですな。ハハハ、坊主。この犬はこういう顔なんだ。まるで笑っているみたいだろう? 遊び好きで人見知りもしない温厚ないい奴らだ。仲良くしてくれな」
犬ゾリのおじさんは優しい顔で犬たちを紹介すると、ぼくの頭をついでとばかりに撫でていった。
おじさんは手際よく八匹の犬をソリに繋いで、ぼくたちもソリに乗るように促す。
前に兄様とアリスターが乗り、白銀と紫紺は後ろに陣取った。
ぼく?
ぼくだって一人でソリに乗りたかったけど、危ないからって兄様の抱っこになりました。
うむむ、帰りは一人で乗れるかな?
さて、わんちゃんたち、森に向かって出発! と鼻息フフーンと荒くして期待して待っても、ちっとも進まない。
おじさんもあれれ? と首を傾げてソリを下りて様子を見ている。
八匹のわんちゃんたち、尻尾がくるんと股下に入ってブルブル震えているみたいだけど、寒いのかな?
「あら~」
紫紺が呆れた声を出して、チロリと白銀を横目で見ている。
「なんだよっ」
「だって、あの子たちアンタが怖くて震えてるんじゃないの?」
ふむ、わんちゃんたちは白銀が怖いとな?
白銀はとっても強くて怖いかもしれないけど、本当はものすごく優しくて自分より弱いものは守ろうとする心のキレイな神獣様だよ。
ぼくが白銀の友達として、わんちゃんたちに白銀の誤解を解いてきたほうがいい?
「フフフ。大丈夫だよ。白銀、ちょっと犬たちに教育してきてほしいな」
「ああ、わかった。でも俺だけか? おいお前のせいじゃないのか?」
「ええーっ! いやいや、俺はただの狼獣人ですよ。しかも赤髪の。ぜったい、白銀様にビビッてるんです!」
白銀は目を半眼にしてわんちゃんたちを睨んでいる。
アリスターも狼獣人だから、わんちゃんたちにしたら上位種? かもしれないけど、やっぱり白銀に対して緊張していると思うよ。
「ピイピーッ」
<緊張じゃねぇよ。萎縮してんだ。ちなみに俺様と紫紺にもビビッてるぜ>
真紅の言葉にバッと紫紺の顔を仰ぎ見ると、スイーッと顔を逸らされた。
ん、もう! 白銀ばっかり悪い子にしたらダメだよ!
「プンプンと頬を膨らませてどうしたの?」
ぶうっと膨らました頬を、兄様の人差し指で突つかれて、ぷうっと空気が口から漏れちゃった。
ぼくと兄様が戯れている間に白銀とわんちゃんたちの話合いは無事に終わったみたいで、おじさんではなく白銀に向かって整列しているわんちゃんたち。
おもむろに顔を上にあげて、一斉に吠え出した。
「うおーぉん」
おじさん、ビックリ、ぼくもビックリ!
その後は、ほどよいスピードで雪の上をタッタカタッタカと走ってくれました。
シュルシュルルルと滑るように進むソリが楽しかったよ。
「んゆ?」
「どうしたの? 気分悪くなったのかな?」
兄様はちょっとぼくに過保護だと思います。
「ううん。だいじょーぶ」
ソリは楽しいけど、わんちゃんたちも頑張って走っているし、アリスターの鼻は真っ赤で寒そうだけど、兄様抱っこのぼくは大丈夫。
ただね、森に近づくと聞こえてくるんだ。
「ウオオオオォォン」って狼の遠吠えが……。
昨日はわからなかったけど、なんだか喜んでいるような、大切な誰かを迎えるような、そんな声に聞こえたんだよ。
でも、みんなには聞こえていないんだよね?





