雪と氷の世界へ出発! 3
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ブリリアント王国の貴族として、今回の氷雪山脈地帯への探索に参加できなかった父様たちは、せめてもの助力として冒険者ギルドを通しての協力を画策していた。
出発前日のお屋敷を訪れたのは、ブループールの街の冒険者ギルド職員さんで、ある人からのお手紙を届けにきたのだ。
その手紙の差出人は、ブルーフレイムの街の冒険者ギルドマスター、トバイアスさんです!
真紅と出会ったブルーフレイムの街の冒険者ギルドマスターといえば、その昔、父様とセバスと一緒に冒険者活動をしていた凄い人なのです。
どうやら、その昔の縁を頼ってトバイアスさんに無理難題を頼んだらしい父様は、その手紙を読んで「ほーっ」と深く息を吐き出してました。
「で、君たちが冒険者ギルドの紹介で訪ねてきた商会の物好きな坊ちゃんたちかい?」
吹雪で何も見えない、村の門すらも見えない中で、白銀の鼻を頼りに歩き進め、村にある冒険者ギルドの窓口を兼ねている家の戸をトントンと叩き、出てきた男の人にトバイアスさんの手紙を渡したら、胡乱な目付きで見られましたけど?
手紙、父様が言うには紹介状らしいのですが、冒険者ギルドの上の上のとっても上の人の許可証込みの素晴らしいものなので、断らることはないって……、本当に大丈夫?
「ええ。珍しい魔獣の素材の注文がありまして。僕たちが遣いに来ました!」
兄様のとびっきりの笑顔に、応対していた男の人も眩し気に目を細める。
うん! 兄様の笑顔は今日もめちゃくちゃ輝いてます。
ぼくと兄様の肩の上に居座るチロがバイーンと胸を誇らし気に反らします。
「ま、中に入りなさい」
男の人……ギルド職員のセドリックさんは体をずらして、ぼくたちを家の中に招き入れてくれました。
雪で濡れた外套を脱いでパンパンと水気を払ってから入らないと、びちゃびちゃになっちゃうよ?
「大丈夫よ。アタシの魔法ですぐ乾くわ」
紫紺が指をパチンと鳴らすと、ぼくたちの濡れた髪や服から水分が飛んでいったように、一瞬で乾きます。
「んゆ?」
ぼくの新しいモコモコのコートもブーツも濡れてない。
おおーっ!
「しこん。しゅごい!」
「あら、いつもお風呂上りにやっているでしょ?」
フフフとかわいく笑ってぼくの頭をナデナデする紫紺に、白銀はちょっと不服そう。
「ちっ。俺だってもう少ししたらドライの魔法ぐらいできるようになる……はずだ」
「ピイイ」
<いや、力加減覚えるまでは無理だろ?>
「ほら、早く中に入って扉を閉めないと、部屋の中が冷えてしまうよ」
兄様に家の中に押しやられて、アリスターがしっかりと扉を閉めた。
「こっちだ。寒かっただろう。温かいものを用意する」
セドリックさんはギルドとして機能している一階ではなく、二階へとぼくたちを案内する。
父様は、トバイアスさんの手紙を読んで、宿の心配はないぞって言っていたけど、どうなっているのかな?
吹雪の音だけが聞こえるはずの家の中で、ぼくは兄様の胸に縋るようにギュッと兄様の服を握る。
あれ? 今、ウオオォォォンって聞こえた。
なに? 狼の遠吠え?
でも、兄様もアリスターも気づいてないし、白銀と紫紺も反応していないようだよ?
「ぼく……だけ?」
パタリと閉ざされる扉の隙間から、ビュルルルという吹雪く音とウオォォンという獣の吠え声が重なってぼくを襲った。
村……この村に名前はないそうだ。
以前、知己を得た冒険者ギルドのギルマスの尽力があって、村の冒険者ギルド職員の世話になることができた。
よかったと胸を撫で下ろす。
まさか、転移して吹雪に襲われるとは思ってなかった。
白銀の鼻と目立つ紫紺の先導がなければ、村の目と鼻の先で遭難するところだったよ。
少し不愛想なギルド職員のセドリックは、招かれざる客である僕たちに対して甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
ギルドの建物内、ちょっと大きめな家という規模だけど、すぐに温かい飲み物で迎え入れ、温かく滋養のある食事とお風呂、清潔な寝具のある部屋を与えてくれた。
暖房の魔道具もあるが、暖炉に火も入れられていて本当に暖かった。
ほんの一瞬、吹雪の中を歩いただけでも凍えた体にお風呂は助かった。
体の芯から温まることができたし、まだ小さいレンの体調を考えてもありがたいことだ。
「レンはもう寝たか?」
「ああ。やっぱり疲れちゃったのかな? 真紅と一緒にベッドでスヤスヤ寝ているよ」
さっきまで風呂上りの白銀と紫紺のブラッシングを真剣な顔でしていたけど、ベッドに入ったらコテンと眠りの世界へ入ってしまった。
「アリスターと一緒で興奮していたのにな。フフフ、きっと朝起きて残念がるよ」
「あ? 俺と一緒の部屋だからなんだって言うんだよ。別に何もないぞ?」
「そうか。僕もアリスターと同じ部屋でちょっとウキウキしている。どうだ? 寝る前にボードゲームでもやらないか?」
部屋にあったボードゲームを指差すと、アリスターはひょいと片眉を上げた。
明日は、朝食後、森へと移動するから早く寝ろ、とでも思っているんだろう。
「寝つけそうもないから、付き合ってくれ」
苦笑して本心を明かすと、アリスターは無言でお茶を淹れ始めた。
「何か気になることでもあるのか?」
ボードゲームの盤上にお互いの駒を並べながら、アリスターが優しい声で問いかけてきた。
紫紺は興味深そうに盤上を眺め、白銀はレンが眠ったあと、窓辺から動こうとしない。
「う~ん。明日、セドリックの伝手で森への案内人は頼めたけど、森の中へは案内できないらしいからな」
狩人が魔獣の素材を売りにくれば交渉もできるのだが、ここ一帯は数日前から酷く天気が荒れていて落ち着くまでは狩人たちが村を訪れることはなさそうだ。
ならば、こちらから行くしかないが、狩人たちが住む森の中は危険な魔獣が多く棲息しており、しかも吹雪が続き雪で覆われた森などを案内してくれる酔狂な人間はいないため、土地勘のない僕たちだけで行くしかない。
「さすがに白銀様や紫紺様がいても、森の中へ入るのは躊躇うよな」
コトンとアリスターが盤上の駒を動かす。
「魔獣ぐらいはアタシたちがどうにかできるわ。問題は狩人との交渉じゃないかしら? だって精霊楽器の説明もできないし、風の精霊が好むヤツなんてアタシたちにわかるわけないでしょ?」
紫紺がちょいちょいと盤上の駒を突つき、僕の憂いている問題点を上げていく。
「そうなんだ。ダイアナが楽器の形は奏者によって変わると言っていたし。そもそも風の精霊が好むタイプってどんなのだろう? 絶対にそれらを見つけたいけど、そもそもがあやふやなんだよな」
コトンと駒を動かして、アリスターの陣営の駒を一つ取り上げた。
「あっ! ちぇっ。それでも探すんだろう? なんとなく、レンがいれば見つかる気がするしな」
取れ上げられた駒を目で追ってしょんぼりと耳を垂らしたアリスターは、僕が聞きたくないことを言い放つ。
「はあああああっ。レンに無茶はさせたくないんだけどなぁ」
僕は、ベッドで天使のように眠るかわいいレンの寝顔に、不安げな顔を向けた。
ちなみにボードゲームは僕が勝ち、興味を持った紫紺に付き合ったアリスターは連敗していた。