雪と氷の世界へ出発! 2
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いつも、ありがとうございます。
「ふうーっ。ここで着替えようか」
紫紺の転移魔法で一気に氷雪山脈地帯まで行こうとしたけど、途中の森の中で一旦休憩です。
さっきはすごかった。
父様がお目々ウルウルで兄様に縋ってクドクドと注意事項を口にしていた。
いつもならセバスの教育的指導が入るのに、今日は父様の言葉にうんうんと頷いて、ちっとも父様を止めようとしなかった。
母様が苦笑しながら父様を止めてくれたけど。
同行できないリリとメグもハンカチで目元を押さえていたし、アドルフたちは唇を悔しそうに噛みしめていた。
みんなに帰ったら褒めてもらえるように、頑張って精霊楽器と風の精霊の契約者候補と、ええっと、光の上級精霊を見つけてきます!
でも、その前にお着替え、お着替え。
「んゆ?」
「ああ。レン。腕が首のところから出てるぞ。こっちだこっち」
モコモコ毛糸のセーターを着ようと思ったのに、頭が出ないよう。
白銀がセーターの裾を引っ張って手伝ってくれるけど、頭は迷子のままだ。
「ふふふ。こっちだよ」
兄様がぼくのバタバタしていた腕を引っ込めて、ズボッと頭を出してくれた。
「ぷはっ」
「さあ、コートとマフラー。手袋もして。こっちの長いブーツを履こうね」
「もこもこ」
マフラーもモコモコだし、コートには襟と袖にフワフワの毛があって、ブーツの中敷きはやっぱりモコモコです。
んゆ? 兄様、ちょっと暑いかも?
「すぐに寒くなるよ。ここでもブループールに比べたら冷えるんだけどね。アリスター、お前も準備はいいか?」
「ああ。騎士用のコートは温度調節の魔法付与が施してあるからな」
アリスターは、冒険者みたいな恰好に皮の防具を身に着けて、羽織るコートは毛皮じゃなくて厚手の革コートだった。
赤い髪と尻尾のアリスターに、黒いコートはとっても似合っている。
そして、同じように冒険者の恰好に、ぼくと同じく襟と袖にふわふわの毛をあしらった白い革コートの兄様はとっても素敵!
「じゃじゃーん」
ぼくも両手を広げてみんなにお披露目です。
「あら、かわいいわ」
「よく似合っているぞ」
白銀と紫紺がベタ褒めしてくれるけど、ぼくも兄様みたいに「かっこいい」がいいなぁ。
「さあ、白銀と紫紺も準備して。今回は人がいる場所では人化してくれ。あー、真紅はそのままで」
氷雪山脈地帯に、まだ子供のぼくたちで移動してくるのはどう考えてもおかしいので、白銀と紫紺は人化して同行します。
えっとね、ぼくと兄様が氷雪山脈地帯で取れる珍しい魔獣の素材を買い取りにきた商人の子供で、その護衛の凄腕冒険者が白銀と紫紺なのです。
アリスターは兄様の側仕え兼護衛です。
「俺だけ、いつもと役回りは変わらないな」
苦笑するアリスターだけど、頼りになる先輩騎士たちがいない単独での任務に緊張しているのを、ぼくは知っている。
ボフンと白銀と紫紺が人化する。
白銀が白銀の毛皮の縁取りコートで、紫紺が黒い毛皮のフード付きポンチョコート姿だ。
「ふわあああっ。ふたり、とっても、しゅてき!」
二人が冒険者として活動しているときの姿は何度も見てきたけど、真冬仕様のスタイルがゴージャスでした。
ぼくに褒められて鼻高々の白銀の頭の上にべしゃっと真紅が乗せられる。
「ほら、相棒をお忘れよ」
クククッと笑って紫紺が真紅を白銀の頭の上に落とすと、ぼくたちはプッと笑いが噴き出すのを堪える。
「……っ。さ、さあ、行こうか。紫紺。頼むよ」
兄様、口の端っこがヒクヒクしてますよ?
景色が瞬時に変わって、ぼくは瞬きをパチパチとした。
まっっっ白です!
「に、にいたま? ど、どこぉ?」
さっきまで隣にいたはずの兄様が見えません。
あわわわ、こんなに早く迷子になってしまうとは!
「レン? そこを動かないで。ずいぶんとこっちは吹雪いているみたいだ」
あー、吹雪で雪が舞って視界が悪いんだ……。
兄様の声がすぐ近くから聞こえてきて、とりあえずは安心しました。
よく目を凝らしてみると、黒と赤のアリスターや黒っぽい紫紺、赤い小鳥を頭に乗せた白銀と色で人を判別することができた。
……兄様は?
ハッ! 兄様の今日の装いは白が基準で、髪の毛もキラキラの金髪だから……雪に埋もれると見えにくい!
「に、にいたま? にいたまーっ!」
「ここだよ。ここにいるよ。どうしたの、レン?」
ベソベソと泣き出したぼくに驚いた兄様が、ひょいとぼくの体を抱き上げる。
あ、本当にすぐ隣にいたんだ、兄様。
雪に紛れて消えていなくならないように、兄様の胸にぐりぐりと頭をこすりつけた。
「どうした? レンが甘えっ子になっているぞ」
アリスターのからかう声が聞こえてきけど、無視です。
「ふふふ。かわいいよね」
「ヒュー」
兄様の溺愛っぷりにアリスターが脱力した声を出す。
「おら、お前らふざけてないで移動するぞ」
「そうね。止まってたら凍死しちゃいそうよ」
白銀と紫紺が先頭になって雪で何も見えない中を歩いて行こうとする。
「いや、白銀と紫紺。僕たちは何も見えないんだ。動きたいけど動けないんだよ」
こんな真っ白で寒い場所で適当に移動したら危ないでしょ? どこか休めるところで吹雪が止むのを待ってたほうがいいのでは?
「あら、そうね。じゃあ雪はこうしてあげるわ」
紫紺が右手をヒラヒラと動かすと、ぼくたちの足元からビュルルルと風が巻き起こりあっという間に雪を吹き飛ばしてしまう。
ついでに風は、そのままぼくたちの四方を囲むようにクルクルと吹き続け雪を弾いていく。
「白銀様。でもこんなに雪が積もっては村までの道がわかりません!」
「はあ? アリスター、お前の鼻は飾りか? 匂いがするだろうがっ! ほら、行くぞ」
白銀は一人でスタスタと歩いていっちゃう。
「し、しろがね? まっちぇー」
白銀も頭に乗っている真紅以外は真っ白の恰好だから、離れると見えなくなっちゃうんだよう。
「あら。じゃあアタシも前を歩くわね。着いてきてちょうだい」
紫紺がチョンとぼくの鼻の頭を指で突いたあと、弾む足取りで白銀を追いかけていく。
「アリスター。逸れないように僕たちも行こう」
ぼくを抱っこしたまま兄様は慎重に足を運ぶ。
紫紺の風魔法で積もった雪は吹き飛ばされたが、ずいぶん前に降った雪は凍ってまだ地面に残っているから、滑らないように一歩一歩踏みしめていく。
その後ろでアリスターが、フンフンと鼻を鳴らして首を傾げていた。
「匂い? 俺は狼獣人で嗅覚も鋭いはずだけど、村の匂いなんてするかなぁ?」
ふんふん。
うーん、ぼくも全然わかんないな!