雪と氷の世界へ出発! 1
兄様と父様の冷戦が続いて数日、とうとう父様が降参しましたーっ!
セバスも複雑な思いがあってどちらにも加勢しなかったことから戦いが長引いてましたが、この度ハーバード様とお祖母様のパックアップを得て、無事に兄様が勝利しましたー!
ガックリと膝をついている父様、ごめんね。
氷雪山脈地帯に行くのは少数精鋭のメンバーです。
兄様とアリスター、白銀と紫紺と真紅、そしてぼくです!
「せ、せめてレンは置いていかないか? レン、父様と一緒に留守番していよう?」
ぼくは顔を横にフルフルと振ります。
「やー。にいたまと、いっちょ」
離れられないように兄様の足にガシッとしがみつきます。
「父様。僕だってレンを連れて行くのは心配です。でも、レンが一緒じゃないと白銀たちは付いてきてくれないし、そもそも精霊楽器が見つけられないかもしれません」
「そ、そうだったな」
父様は幽霊のようにユラリと立ち上がると、白銀と紫紺をギュッと抱きしめた。
「頼む、白銀、紫紺! ヒューとレンのこと頼んだぞ! アリスターもな。みんなを無事に帰してくれ!」
「ああ、任せておけ」
「フフフ。大丈夫よ」
「ギル。俺様は? 俺様だってレンのこと守れるぞー」
人化した真紅が父様の背中をポカポカと叩いて抗議している。
ぼくと兄様は二人、顔を見合わせて笑った。
さあ、旅の準備をしなきゃ!
ぼくの目の前にいろいろな物が並べられてます。
「リリ。おようふく、わからない」
へにょりと眉を下げてそう言えば、リリとメグがササッとテーブルの上にこんもりと乗せられていた服をテキパキと片付ける。
氷雪山脈地帯だから寒いところだと思うけど、毛皮のコートでどれがいいとかわからないよ。
「メグ。僕とレンの服はお揃いで。あと、騎士団の装備担当にアリスターの荷物を頼んでおいてくれ」
ああ、アリスターもあったかいお洋服を用意してあげなきゃね。
「にいたま、しろがねたちは?」
白銀と紫紺は自前の毛皮があるけど、真紅の羽毛は寒いところ大丈夫?
「うん、白銀と紫紺は冒険者としての活動で稼いだお金で防寒具は持っているみたいだよ」
「んゆ?」
それは人化したときの姿でしょ?
この、子犬と子猫モードのときは寒いのでは?
「レン。アタシたちは平気よ。寒さなんて感じないわ」
「そうだな……。考えたことないなぁ。暑いのは苦手だが」
「そうなの? しんくは?」
白銀と紫紺は自前の毛皮で平気なんだ、よかったね。
「あ? 俺様だってへっちゃっらだい。寒かったら白銀の背中に潜る」
キリッとした顔で最後、白銀頼りみたいなこと言ったよね?
「あとは、氷雪山脈地帯で通用するお金と各種ポーション。身分証明書代わりにギルドカード。保存食は料理長に頼んでもらえたかな?」
リリとメグが手を止めることなく兄様に返答すると、兄様は満足そうにひとつ頷いた。
「順調だね。これだったら明後日には出発できそうだ。紫紺、転移魔法は大丈夫かな?」
「ええ。その小さな冒険者ギルドがある村まで行けるわ。ただ、ヒュー。あちらでの移動はどうするの? こっちから馬でも連れていくのかしら?」
「いや。アリスターの話では、その地方で飼育されている特別な馬以外は満足に走れることもできないそうだ。寒すぎて。おすすめは犬ゾリらしいから、あちらでは貸ソリで移動するよ」
ソリ?
わんちゃんが牽くソリ?
ハッ! 前、テレビで見たことがある!
雪景色の中、数頭の犬でソリを引いて走っていた。
「ぼく、のりたい!」
ワクワクした気持ちが抑えられずに言葉を発すると、兄様がビクッと体をおののかせた。
「え? レンは犬ゾリ乗りたいの?」
「うん!」
真っ白い雪の中、ワフワフと走る犬にひかれたソリを華麗に乗りこなすぼく……むむむ、すっごくかっこいい。
うっとりと妄想していたぼくの背中にドシッと衝撃が襲う。
「わああああっ」
「ひどいぞ、レン。そんな犬っころより俺だろう? 俺だったらソリの一台や二台牽いて、縦横無尽に走りまわれるぞ!」
どうやら白銀が犬ゾリの犬に嫉妬したらしい。
「アンタ、そんなことで張り合わないでよ。でも犬ゾリねぇ」
紫紺はあんまり犬ゾリに心惹かれないようだ。
白銀と紫紺は自分で走ったほうが早いもんね。
「レン。絶対にレンは僕が守る。だけど何があるかわからないから、瑠璃と桜花の鱗はしっかり持っているんだよ」
「あい!」
瑠璃と桜花の鱗の欠片はネックレスにして、いつも首から下げているから大丈夫!
これなら兄様やアリスター、白銀たちと逸れても助けを呼べます。
「翡翠は……。留守番だな。セバスのところに居るのが誰にとっても一番いいだろう」
「「賛成ーっ!」」
翡翠は留守番か……、まあ、氷雪山脈地帯の話をしていても興味がなかったみたいだからしょうがないか。
ぼくは、机の上に置かれた琥珀を模った土人形をしっかりと握って語りかけた。
「琥珀は一緒に行こうね」
土人形の琥珀が嬉しそうに笑ったように見えた。