笛の音を追って 1
ベッドの中、兄様に抱き枕にされながら、今日1日の楽しいことを指折り数えて思い出す。
ふふふ。
レストランの食事は、お祖母様がぼくでも食べやすいように、ワンプレートに盛り付けた料理を出してくれるようにお願いしてくれていた。
お子様ランチのようなプレートが嬉しくて、頑張って自分でスプーンを持って食べたんだよ。
兄様たちはハラハラしながらぼくを見てたけど、あんまり零さないでちゃんと食べれたよ。
食べられるお花で綺麗に飾られたフルーツタルトを食べてたら、夜空にパーンと花火が咲いた。
みんなでテラスに出て、色鮮やかな花火を見てたけど、ぼくはちょっと物足りない。
テレビで見た花火大会はいろんな形の花火があったのに、ここでは丸く菊のような花火だけ。
「もっと、いろんな、おはなのかたち、ないの?」
お祖父様はぼくの言葉にびっくり!考えたことがなかったらしい。
この世界の花火は、火薬じゃなくて魔道具と魔法で作って上げているんだって。
早速、いろんな花火を作るぞ!てお祖父様は張り切っていたよ。
ご、ごめんなさい、お仕事増やしちゃった。
お屋敷に帰ってきて、急いでお風呂に入って、白銀と紫紺のブラッシングして、楽しいことを思い出しているうちに、眠っちゃったみたい、ぼく。
なに?
~♪~~♪♪~
<…………で。…………で。………おい……。こ……。>
だれ?
♪~♪~~♪~♪~♪
<…………おい…………で……。こ……、おい…………。こっち……、……で……>
笛の音。
それと、女の子の歌声?
♪~♪♪~
<…………で。おいで。こっちに、おいで>
「んゆ?」
誰かが呼んでいる声に、眠い目を擦って起き上がる。
部屋は真っ暗で、たぶんお外も暗い、真夜中。
ぼくは何も見えない暗闇の中で、左右を見回す。
でも、誰も起きていない。
まだ、聞こえるんだけど……ぼくを呼ぶ声が…。
「だぁれ?」
誰も答えない。誰も……。
「んゆ?」
ぼくはコテンと首を傾げる。
なんで?なんで、兄様も白銀と紫紺も起きないの?
いつもは、ぼくが起きるとすぐに起きてくれるのに……。
横を見るとぐっすり寝ている兄様が。
おかしいな?
ぼくは、兄様の体を揺すってみる。
「にいたま」
小声で呼びかける。
兄様の寝息は乱れることもない。
え?おかしいよね?
ぼくはもっと強い力で、兄様を揺すりながら声をかける。
「にいたま。にいたま!おきて、にいたま!」
……起きない。
ど、どうしよう……、眠ったままの兄様に怖くなってきたぼくが泣き出す前に、ベッドの上にストンと重みが降ってきた。
「どうした、レン?」
「なに?トイレ?」
「しろがね。しこん」
よかった、ふたりが起きてくれた。
ぼくは自分に聞こえる笛の音と歌声。今も頭に響く呼ぶ声。
起こしても起きない兄様のことを上手に回らない口で説明した。
「は?」
「なにそれ?そんな笛の音なんて聞こえないわよ?」
「いやいや、それより、本当にヒューの奴が起きないぞ!」
白銀が兄様の体の上で、ぴょんぴょん飛び跳ねてみせる。
ちょっと痛そうです。
紫紺はベッドの上から下りて部屋を一周してから、首を傾げて見せる。
「特に魔法が使われている様子はないわねぇ。とにかくヒューを起こしましょう」
「どうやって?」
白銀が前足を、兄様の頬にぷにっと押し付けている。
「レン。精霊の泉でヒューに魔力を流したのを覚えてる?ちょっとやってみて」
「え?」
いいけど……。
ぼくは、両手を兄様の体に当てて、目を瞑り魔力か何かは分からないけど、流すイメージをしてみる。
「おいおい、危ないんじゃないのか?」
「すぐに止めるわよ」
紫紺は自分の前足を兄様の額に当てて、自分の魔力を流す。
「……んんっ」
兄様が身じろいだ!
「レン、手を放していいわよ。ヒュー、起きなさい!」
ビシッと額に猫パンチ!
「わっ!」
兄様が飛び起きました。
「今も聞こえるの?」
兄様に聞かれてこくんと頷きました。
笛の音と歌声はずっと聞こえてるし、「こっちにおいで」と呼ぶ声も頭に響いてます。
「うーん、僕がレンが起きているのに、気づかないのも不思議だし、こんなに騒いでたのに、護衛の騎士も父様も、あのセバスも気づかないのはおかしいな」
兄様は騎士を目指しているので、なるべく普段からも気配に敏感でいるよう訓練しているそうで、隣で寝ているぼくが起きているのに気づかないはずがないと、断言してます。
疲れていたら、無理じゃないのかな?まだ兄様だって子供でしょ?
でも確かにセバスさんが起きてこないのは、おかしい。
あの人、ぼくが夜のトイレに起きても気づくんだもん。
今、白銀は屋敷を見回りに行ってるから、みんながどうしてるかすぐに分かると思うけど。
「レンの呼ばれてる方向はどっち?」
紫紺が、窓の近くまで移動してぼくに尋ねる。
兄様は、ぼくを抱っこして窓まで運んでくれた。
「うんと……あっち」
ぼくが指差した方を見て、紫紺が目を眇める。
兄様は眉を寄せて、
「おかしいな。いくら祭でも、こんな時間まで灯りを消していないのは、あり得ない」
と呟いた。
祭の日は夜遅くまで灯りは点いてるが、やっぱり油がもったいないので、時の鐘が終わると消されるらしい。
でも祭のあったアーススターの街の方は、まだ煌々と灯りが点いていて明るい。
「あっちの方向から、あんまりいい魔力じゃないのが集まってるわね」
紫紺は嫌そうに言い捨てる。
例えるなら盗賊や凶悪な魔獣が、沢山いる感じがするらしい。
「あ!」
ぼくは、昼間に会った獣人のアリスターの言葉をようやく思い出す。
「どうしたの?レン」
あのね、と兄様に話そうとしたとき、白銀が猛スピードで部屋に戻ってきた。
「おいっ!ここの奴ら全員寝ているぞ!ギルたちだけじゃない、騎士たちも門番もだ!」
騎士たちは交代で護衛しているし、門番も交代で番をしているのに、みんなその場でぐっすり寝ていたらしい。
いったい、何が起こっているんだろう?





