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地図とにらめっこ 4

昼間、兄様とアリスターで印を付けた地図を広げ、父様とセバスが難しい顔でそれを眺めている。

ぼくは母様の膝に頭を乗せてナデナデと撫でられていた。

ふふっ、くすぐったいよ。


紫紺はガックリと肩を落としている白銀の背中を前足でポンポンと叩いて慰めているし、真紅は人化してパクパクとお菓子を食べている。

真紅……ちゃんとご飯食べないからお腹が減るんだよ?

ぼくなんて、ちょっと食べすぎちゃったのに。


ちなみに翡翠は母様に突進しないように、紐でグルグル巻きにされてセバスが踏んづけている……痛そう。


「ギル。確かに氷雪山脈には何かあるかもしれない」


「……セバス。だからと言ってヒューが確認に行くことはないだろう?」


父様は兄様やぼくが氷雪山脈に行くのに反対みたいだけど、セバスは顎に手を当てて難しい顔で考え込んでしまう。


「ギル、どうしてもダメなのかしら?」


母様の柔らかい声音に父様はふうっと息を吐き出すと、冷静に氷雪山脈へ行く危険性を説明してくれた。


「まず、ブリリアント王国と交流がない。特使としてヒューたちを送りだすにも、どの部族、どの集落に先触れを出せばいいかわからないんだ」


父様がトンと人差し指で示した場所は、アリスターが「僅かに人が集う村」と教えてくれた森の近くだ。


「ここに、冒険者ギルドの窓口がある。だが、魔獣の買い取りがメインで職員も数人。ここに問い合わせても氷雪山脈地帯の有力者などいないと返答があるだけだ。この森の奥の狩人の集落のどれかがここら一帯を掌握しているかもしれないが、森の奥へ訪ねて行こうとしたら危険な魔獣と戦わなければいけない」


母様は口に両手を当てて目を見開く。


「危険な魔獣……でも、騎士団が一緒なら……」


フルフルと頭を横に振った父様が、ギュッと拳を強く握った。


「騎士団は派遣できない。ヒューたちの護衛として連れて行くことができないんだ。もし、俺たちの知らない権力者がいたとして、ブルーベル辺境伯騎士団たちをブリリアント王国からの攻撃と捉えられてしまったら、最悪、争いが起きてしまう」


そのときに、闇の精霊であるダイアナからの要請で精霊楽器を探しに来たと主張しても、国を攻める好機として無視され、周辺国を巻き込み大騒動になることは否めない。


「アイビー国や近隣の国々とは友好関係を保っているが、氷雪山脈地帯に近い国々の中には好戦的な国もあると聞く」


んゆ?

つまり、ぼくと兄様たちが氷雪山脈地帯に行くとしたら、いつも護衛をお願いしているアドルフたちに、今回は護衛を頼めないってこと?

んっと、ぼくと兄様たちだけで、こんなに遠いところに行くのかな?

まあ、紫紺の転移魔法で一瞬で着くけど……ううむ、ちょっと不安だな。


「ギル。冒険者パーティーに護衛を頼むことはできないのかしら?」


そうだよ、小さな冒険者ギルドはあるんだから、冒険者パーティーなら護衛依頼を受けてくれるかも!


「ああ……。本来ならアルバートたちに頼むんだが……。あのバカッ! ダンジョンに潜ったまま、まだ戻らないんだ!」


ガンッとテーブルを拳で叩いた父様は、「フフフ」と不気味に笑い出した。


そういえば、最近アルバート様たちの姿を見ないなーって思ってた。

お祖父さまからの稽古から逃れるために、とっても危ないダンジョンに挑戦しているって聞いたけど、まだ帰ってきてないんだね。


「アルバートさま、だいじょーぶ?」


こてんと首を傾げて父様に尋ねると、セバスがいい笑顔で代わりに答えてくれた。


「大丈夫ですよ。むしろあの程度のダンジョンに時間がかかり過ぎなくらいです。帰ってきたら労ってあげましょう。ねえ、ギル?」


「ああ、そうだな」


バシンと手の平に拳を当ててニヒルに笑う父様とセバスの優しい笑顔が、ちょっと怖いかも……。


「父様。確かにアルバート叔父様が一緒なら心強いですけど、ぼくたちだけでも問題ありません。あ、アリスターの同行は許してくださいね」


兄様も意味深なニッコリ顔です。

アリスターは、最近、正式に騎士として任じられたから、そのままだと「ブルーベル辺境伯騎士団」の同行になっちゃうもんね。


「アリスターだけ連れても危険なことには変わりないぞ? アルバート以外の冒険者パーティーも用立てられん。あれでもアルバートは高ランク冒険者だ。あれと同ランクの冒険者たちへ呼びかけても依頼を受けてくれるとは思えない。奴らに旨味がない依頼だからな」


「あ、別にいいです」


「は? 俺だって一緒に行けないんだぞ。くっそう、ただの団長職なら一時離れればよかったが、今は爵位持ちのブリリアント王国の貴族だからなぁ。伯爵位なんて貰うんじゃなかったぁぁぁっ」


父様はいきなり叫び出すと、わしゃわしゃと両手で自分の髪の毛を掻き毟った。


「ギル、落ち着け」


父様の両肩をセバスが両手で押さえる。


「大丈夫ですよ、父様。騎士団も冒険者も必要ありません。だって最強の神獣聖獣が一緒なんですよ?」


兄様は輝く笑顔で紫紺たちを手で示した。

あ、そうだよね!

どんなに強い魔獣でも、白銀たちの強さには敵わないもん!


「だから、氷雪山脈地帯への探索へ行ってもいいですよね!」














夜。


ベッドの中で兄様とぼくはくっついて眠ります。

兄様は少し興奮していたけど、徐々に呼吸が落ち着いてきてスヤスヤと寝入ってしまう。

ぼくは兄様の腕の中、布団の上に感じる紫紺たちの重みに安心して、ゆっくりと瞼を下ろした。


父様は、グギギギと歯ぎしりをしながら氷雪山脈地帯への探索を考えてみるって。

後押ししてくれたセバスが、ぼくたちと一緒に行こうとしたら父様に止められて乱闘騒ぎになっていたけどね。

母様はとっても心配してくれたけど、最後には応援してくれたよ。


ちゃんと精霊楽器と風の精霊と契約できそうな人と、えっとあとなんだっけ?

とにかく、ちゃんとダイアナさんにお願いされたことを叶えてきます!


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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