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地図とにらめっこ 3

「あの笛には元々小さな動物とかを操る魔法が込められていた。その力を増幅させて、あいつは子供を連れ去っていた」


アリスターの拳が握る力でプルプルと震え、怒りを表すように尻尾がバタバタと座っているベンチに叩きつけられる。


「キャロルの歌が、その悪しき力を助けていた。つまり……キャロルが今代の奇跡の歌い手の可能性が高い、か……」


僕もキャロルが奇跡の歌い手だと思う、思うが、ちょっと都合がよくないだろうか?

奇跡の歌い手の兄が火の精霊の契約者で精霊楽器を奏でる者だなんて、話ができ過ぎだと思う。


「いや、それを言ったらレンの周りに神獣聖獣が集まり過ぎだし、精霊の契約者も揃っているじゃないか」


「そうなんだよねぇ」


我が弟ながら、大物ばかりを引き寄せてしまうなんて、困った子だ。


「そもそもキャロルのことだけじゃなくてレンのことも考えなきゃ」


「え?」


「ヒュー。お前もわかっているんだろう? 精霊楽器は精霊と契約した者が奏でないと力が発揮されない。じゃあレンはどうしてあの楽器で浄化の力が使えたんだろうな?」


アリスターの眼力が強い……スウーッと顔を背けるがアリスターの視線は離してくれなかった。


「……はあーっ。僕だって考えたくないけど……、もしかしたらレンは光の精霊の契約者候補なのかもしれない」


ダイアナもあれこれと僕たちに注文してきたのに、光の精霊の契約者は探さなくていいと言った。

それって、契約者の候補が既に見つかっているからだと思う。

そして、それは精霊楽器で浄化の力を幾度となく使ってきた、レンなのだと。


「「はあーっ」」


僕たちは揃って絶望のため息を吐き出した。


「ヒュー。ここで落ち込んでいてもしょうがない。団長のところへ氷雪山脈地帯へ行く許可をもらわないと」


「ああ。だけど、父様が許してくれるかどうか」


僕たちが行こうとしている場所は、手練れた冒険者でさえ避けて通るところだし、ブリリアント王国とは交友も知己もいない。


さて、どう説得しようかな。

ベンチから立ち上がった僕たちは、再びカツカツと靴音を響かせて廊下を歩きだした。














ファーノン辺境伯に遊びに行っていた間に溜まったお仕事を片付けるため、しばらく忙しく働いていた父様と久しぶりに夕食を一緒に食べられるとルンルン気分だったぼくは、今、ご飯を咀嚼して飲み込むのに集中している。


ニコニコ気分もどこへやら、この食堂に重く圧しかかる空気が、楽しみにしていたご飯を味気のないものへと変えてしまった。


父様はムスッとお口を曲げて無言で食べているし、兄様は、いつもは完璧なのにカトラリーをカチャカチャと音を立ててひたすらお肉を切っている。

母様はそんな二人を笑顔で見守っているけど、実は眉が下がっていて困り顔だ。


むぐぐっ。

そして、チラッと後ろを見れば、ガツガツと出された塊肉を頬張っているはずの白銀は項垂れて水も飲まずにいる。

隣の紫紺も白銀に遠慮してチビチビと食べているし、小鳥姿の真紅もくし切りにされたリンゴの上に乗ったままだ。


楽しい食卓でおいしいご飯を大好きな家族と食べられるって思ったのに……うりゅ。

ぼくのために料理長たちがお花の形やお星さまの形にしてくれた野菜を齧って、でも喉がつかえて飲み込めないよう。


ゴツン!


「いてっ! なにをする、セバス!」


痛そうな音にびっくりして顔を上げると、拳を振り下ろしたセバスと頭を押さえて呻く父様の姿が見えた。

兄様と母様も目を見開いて、食事の手が止まっている。


「いい加減にしなさい。大人げない。ヒュー様との話し合いは食後に改めてすればいいでしょう」


「はあ? 俺は絶対に許さないから話し合いなんてしない! いてーっ」


父様の頭に、またセバスの拳骨が振り下ろされた。

しかも、セバスってば力いっぱい振り下ろしたよね?

反射的に反対の手にも力が入ったのか、首を掴まれているぬいぐるみ状態の翡翠が「ぐえっ」て呻いているよ。


「父様! 僕は、僕たちは止められても行きますからね!」


「へへーんだ。どうやって行くんだよ? 馬も馬車も貸さないからな!」


「…………」


兄様は無言で紫紺へと視線を流した。


「あっ……」


うん、父様。

馬車や馬はいらないんだよ。

紫紺の転移魔法でバビューンと行くからね!


「ギル。とにかく食事をしてから話し合いましょう。ヒューもお行儀が悪かったわよ」


「「はい」」


母様の苦言に父様と兄様は素直に返事したけど、互いに一度目を合わせ「ふんっ」と顔を背けてしまった。


ど、どうしようとオロオロするぼくの隣にはリリとメグがスチャッと侍り、手際よくお肉をひと口大に切りぼくの口へと放り込む。


「むっ。おいちい」


思わず声に出してしまったが、リリとメグはニッコリと笑顔でスープをあーん、お野菜をあーんとぼくの口へと運び続けた。


「けふっ」


もう、お腹いっぱいでしゅ。


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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