エンシェントドラゴンの名前 4
誤字脱字報告ありがとうございます!
いつも、ありがとうございます。
うん……、レンが何かやらかすとは思ってたよ。
まさか、あいつに名前を付けちゃうとは思いたくなかったし、契約できるとも思ってなかったけど……。
必死に俺と紫紺がごまかしていたけど、阻止できなかったなぁ。
紫紺も俺の隣で口をポカーンと開けて、魂を明後日の方向に飛ばしている。
神獣エンシェントドラゴン……こはく、琥珀か……。
しょうがないよな、レンも友達が増えて嬉しそうだし、あいつも繋がりができたらここで大人しく過ごすことができるだろう。
それじゃ、ギルたちのところへ戻るとしよう。
……いやいやいや、なに? お前、レンに名前もらって納得したんじゃないの?
なんで、また一緒に行くって駄々こねてんだよっ!
「ボクも一緒に行きたい! 友達? になったんだから、いいでしょう?」
ちっこいドラゴン姿のままで、目に涙を溜めて俺に訴えるなよ!
ちょっと心がグラグラ揺れちゃうだろうがっ。
「し、紫紺、助けてくれ」
ギュッと尻尾を両手で掴まれた俺は、相棒である紫紺に助けを求めたが、あいつーっ、しらっと顔を横に向けてんじゃねぇ!
「どうしても、ダメ?」
レンがよくするようにコテンと首を傾げてお伺いを立てる琥珀の姿に、俺はぐむむむっと口を噛みしめた。
油断すると頷いてしまう俺がいる。
「はあーっ。何やってんのよ、白銀。琥珀、例えレンと繋がりを持てても、さすがにブループールの街には連れて行けないわよ。瑠璃だって我慢しているんだから、アンタも我慢しなさい」
紫紺のニョッキリと伸ばした爪でコツンと額を突かれて、琥珀はようやく俺の自慢の尻尾から手を離した。
「でもでもぉ。あの子からリヴァイアサンじゃなかった、るり? の神気がするよ?」
「「へ?」」
あそこからと琥珀が指さした場所はレンの胸の辺りで、確かにあそこには瑠璃の鱗で作られたペンダントがある。
「あれは……瑠璃の鱗だな」
「鱗……。な、ならボクの鱗も一緒に……」
「ダーメッ!」
ピシンと尻尾で琥珀の差し出した鱗を叩き落とすと、紫紺は眉間にぐわっと力を込めて奴を睨みつけた。
「いい? アンタの鱗だと神気がビシビシ強すぎて周りに影響が出まくりなのよ。だからダメ。諦めなさい」
紫紺がいつもの説教モードで琥珀を説得しているから、レンは自慢げに瑠璃と桜花の鱗を見せるのはやめなさい。
え? 琥珀の鱗もほしい? だから、ダメだって。
「あいつの鱗は神気が強いし、金ピカで目立つからダメだ。そんなお宝を首からぶら下げていたら、また攫われるぞ」
ちょっとレンを脅すと、ビクンと体を固くさせたあと、ぷくっとかわいく頬を膨らませた。
いや、どんな悪党がレンを攫おうとしても、俺が許さないけどな。
俺がレンと話していると、その話を盗み聞きしていた琥珀が、何かを思いついたかのように尻尾をピンと上に向けたあと、ドラゴンたちのところへとぽてぽて走っていった。
「今のうちに移動したら、怒るかな?」
「怒る……、後を追いかけてくるかもしれないからやめておきましょう。それよりも、一緒に付いていった真紅が気になるわ」
そういえば、なにやらコソコソと琥珀の耳に囁いていたな。
しかし、あいつも神獣だし、そこまでバカじゃないだろうと信用していた俺の気持ちをしっかりと踏んづけていくのが真紅だった。
「ほら、見ろ。俺様も手伝ったんだぞ!」
グイッと目の前に差し出されたのは、土で作った人形……って、これエンシェントドラゴンの形をしているぞ。
「どうすんだよ、コレ」
ちょんちよんと指でいじると、琥珀が土人形をひしっと抱きしめる。
「これならいいでしょ。あの子、レンにあげるの」
子どもの手のひらに乗りそうなサイズの土人形ならいいのか? ここでダメだと拒否したら神獣エンシェントドラゴンのギャン泣きが始まりそうだ。
「なあ、紫紺?」
「いいんじゃないの。子どもの持つ飾りと思えば。土で作ったから金ピカでもないし」
フンフンと匂いを嗅いだ紫紺が不思議そうな顔で首を捻ったあと、呆れた顔で頷いた。
「よし。じゃあ、これを一緒に持って帰ってやるから、お前はここにいるんだ。ドラゴンたちもいるから寂しくないだろう? 近いうちに爺さんたち連れて遊びにきてやるから」
「うんっ!」
「……その前に神界で集合しましょう」
そうだな、あの方の前で俺たちが揃った姿を見せるのもいいだろう。
気丈に頷いた琥珀だったが、大きな目からボタボタと大粒な涙が零れている。
「すぐに会えるさ」
「うんっ、うんっ」
ブンブンと勢いよく頭を上下に動かす琥珀の頭を、ポンポンと前足で撫でてやった。
知らなかったんだ……。
レンに琥珀からとドラゴン人形を渡したときも何にも感じなかったし。
ヒューとアリスターも喜ぶレンにニコニコと笑顔でいたし、紫紺は少し疲れたようだったが微笑んでいたし、なんだか真紅が歪んだ笑顔を見せていたが所詮真紅だと侮っていた。
ビューンとギルたちのところへ転移魔法で飛んで、ドラゴンたちの国で見つけた人魚族の男のことで大騒ぎになって。
ギルたちから散々怒られたが、とりあえずは帰国しなきゃとなって、無事にブループールの街まで戻ってきた。
騒がしい毎日の中で、何か違和感はあった。
紫紺も感じていた、その違和感の正体を見極めようとしなかったわけじゃない。
ただ……、そうじゃなかったらいいなって思っただけなんだ。
「ちょっと、白銀! アレ、どういうことなのっ」
キーッとヒステリックに叫ぶ紫紺の視線の先には、レンと仲良く戯れているドラゴンの土人形……もうアレ、ゴーレムだろ?
勝手に動いてお喋りするゴーレム、いや違うな……アレ、琥珀の分身体だわ。
「うむっ、なかなか良くできてるなっ。さすが俺様。すっごーい! あいつの鱗の欠片と神気、俺様の羽を使ったからチョー頑丈だぞっ」
わざわざ人化して偉そうに胸を張っているが、それは余計なことをしてくれやがったもんだ。
「てめぇっ、真紅~っ」
がぶっとお尻を噛んでやると、紫紺が無言で猫パンチを繰り出す。
「あー、白銀、紫紺。ボクもまざるーっ。遊ぼうよー」
いや、琥珀。
お前は大事な使命があるから、大人しく山の頂にいてくれよーっ。