エンシェントドラゴンの名前 3
あ、言っちゃった。
ぼくが両手で自分の口を塞ぐより早く、兄様の手と白銀たちの前足でお口をぎゅむぎゅむと抑えられた。
むぐぐっ、苦しいです。
「むーっ!」
手足をジタバタと振り回しても、白銀たちは別のところを凝視して、ちっともぼくに気が付いてくれない。
んゆ?
いつもの金色のリボンがシュルルルとぼくの胸からエンシェントドラゴンへと伸びていく。
だけど、そのリボンが一本じゃなくて二本? いやいや五本? どんどんリボンが増えていくよ?
金色の光で眩しくて目が開けていられなくなる。
兄様たちも光の洪水に目を瞑って腕で顔に影を作って庇っているみたい。
ぼくのお口からみんなの手が放れて、苦しくなくなりました。
はーふー。
「うわわわっ、エンシェントドラゴン!」
「やだ、このリボンはどうしたらいいの?」
「俺様、眩しいっ」
白銀たちも光が眩しすぎてパニック状態になっているのかな?
少しずつ光が消えていったようで、閉じた瞼の向こうに感じていた眩しさが落ち着いてきたような気がする。
「……もう、へいき?」
恐る恐る片目だけ、薄っすらと開けてみる。
ぼくの前には、ちょこんとびっくり顔で固まったエンシェントドラゴン、琥珀が座っていた。
「なに、これ? 神聖契約? ボクと人間が神聖契約をしたの?」
「……けいやく、ちがう。ともだち」
みんな、ぼくと神獣聖獣が友達になると契約って言うけど、違うもん!
「友達? ボクと人間、友達?」
「うん! ともだち! あと、ぼくはレンだよ」
人間、人間って呼ばないでね。
「……レン」
琥珀がぼくの名前を小さく呟く。
あんなにいっぱいあった金色のリボンはいつの間にか全て消えていたけど、なんとなくエンシェントドラゴンの胸の辺りにリボンが結ばれているような?
「ぼく、レン。えんちぇんとどらごん、こはく」
ぼくは琥珀に言い聞かせるように、ゆっくりと喋る。
「ボクは琥珀。君はレン」
「そうだよ」
ニコーッと笑って大きく頷くと、後ろで大きなため息が聞こえてきた。
「はーっ。やっぱりこうなったか……」
「そうね。無駄な足掻きだったわね」
「……こいつの名前は琥珀か……。けっ」
クルリと振り向くと大きく肩を落とした白銀と紫紺、腕を組んでフンッと鼻息を吹く真紅、無言で項垂れている兄様。
テテテテーッと小走りで兄様へ駆け寄り、その背中を摩って、顔色を確認する。
「にいたま? きもちわるい?」
どうしよう、具合が悪くなっちゃったのかな?
オロオロして白銀たちやアリスターへ視線を飛ばすけど、みんなが眉を下げて頭を軽く振るだけ。
「えっと、えっと」
ど、どうしようと焦っていたら、兄様がゆっくりと頭を上げてくれた。
「だ、大丈夫だよ、レン。それより、レンこそ気分が悪かったり、ダルかったりしないかい?」
「そ、そうよ。エンシェントドラゴンと契約、じゃなかった、お友達になったんだもの。もしかしてごっそり魔力がなくなっているんじゃ?」
兄様の言葉にバッビューンと紫紺が走ってきて、ぼくの頭や胸、お腹や背中をフンフンと嗅ぎまくる。
ちょっと、恥ずかしい……。
紫紺の匂い確認で、ぼくの魔力が少なくなっていると判断されたので、転移魔法で移動する前にポーションを飲んで魔力を補充します。
「うえーっ」
不味い……ポーションが不味いよ。
「レン。お口を開けて。ほら」
あーんと大きく開けた口にポーンと兄様が飴玉を放り込んでくれる。
あまあま。
顰めた顔からニッコリ笑顔になったぼくの顔を見て、兄様がホッと息を吐いた。
「もう少し休んでから移動しようね」
ナデナデとぼくの頭を撫でて、兄様は厳しい目付きで白銀たちが集まるところへ歩いていってしまった。
「やっちゃったな、レン」
ニシシシと悪戯っ子のように笑ったアリスターがぼくの隣に座る。
「んゆ?」
ぼく、何かした?
「エンシェントドラゴン様に名前を付けただろう? ヒューが真っ青な顔で焦っていたぞ? 魔力切れになって倒れていたら、あいつが魔力暴走でも起こしそうで、俺がヒヤヒヤしたよ」
そんなことないもん、兄様は魔力暴走なんてしないよ?
「それだけ、レンが大事で心配なんだよ」
ぼくを見つめるアリスターの瞳が優しい色に染まっていて、俺も心配してたんだぞって訴えていた。
「むぐぐっ。ごめんなさい」
つい、うっかり、口を滑らせてしまったんだもん。
「ハハハハハ。でも、琥珀っていい名前だな」
「うん!」
そうでしょ! いっぱいいっぱい考えたんだよ。
しばらく休んだぼくたちは、改めて琥珀に別れを告げて転移魔法で父様たちが待つファーノン辺境伯様のお屋敷へと戻った。
ドラゴンたちに手を振って、パッと瞬きする間に移動してしまった。
お屋敷の庭に突然現れたぼくたちにお屋敷の使用人さんたちは大慌てで、奥からドドドドッと鈍い音を響かせて父様が飛び出してきた。
「ヒュー! レン!」
ただいま、父様!