エンシェントドラゴンの名前 2
お友達になるから、お名前を付けるのです。
お友達なのに「エンシェントドラゴン」って種族名で呼ぶのは、ちょっと寂しいでしょ?
だから、まずはぼくとお友達になってから、お名前を付けたいと思っています。
「……、いや、友達とかいいから。エンシェントドラゴンは山に帰れ。俺たちはまた改めて訪れるから大人しく待ってろ。レンは、そのう、あのな、ううんと」
白銀はキリリッとエンシェントドラゴンに指示を出したのに、今はとっても困った顔でぼくを見ている。
「んゆ?」
「だから、その、な。おーい、紫紺」
「ちょっと、こっちに振らないで!」
紫紺はピョンとその場でジャンプして、ブルブルと頭を激しく振る。
なんだか、ぼくに言いにくいことをお互いに擦り付けあっているみたいに見えるけど、なあに?
ぼくとエンシェントドラゴンが並んで首を傾げて二人の様子を見つめていると、ポンと肩に手を置かれた。
「レン。そろそろ父様たちが心配して動き出してしまうよ。一旦戻ろう」
「にいたま」
優しく促す兄様の言葉に素直に頷きたいけど、エンシェントドラゴンとお友達はどうしよう?
「また白銀たちはここに来るつもりなんだろう? そのとき一緒に来て改めて友達になってもらえるようにお願いしようね」
「おおーっ!」
その手があったか!
なにも今すぐ友達になってもらえなくても、あとで白銀たちがエンシェントドラゴンのところに遊びに行くときに付いていって、お友達になればいいんだ!
そのときは、瑠璃も桜花も翡翠も一緒だったら、もっと楽しいもんね!
「あい、にいたま。またくる」
ぼくの返事になぜか兄様やアリスター、白銀たちが「ほーっ」と深く息を吐きだしていたけど、なんでだろう?
「じゃあ、帰るか。紫紺、転移魔法頼むぜ」
「えっ! ええ、そうね。さっさとギルたちのところへ戻りましょう。そのあとすぐにブループールの街まで転移しましょう。そうしましょう」
母様の友達の領地が強風、暴風で困っている話が解決したとは言え、家に帰るのが早すぎでは?
ぼく、もう少しファーノン辺境伯の町とか見て回りたいなぁ。
「いいから、レン。また連れてきてやるから。とにかく、帰ろう!」
「う、うん」
なんでそんなに早く帰りたいの? 寂しくなっちゃった?
「レン。ブランドンのこともある。早く帰ってプリシラと会わせてあげよう」
「はっ! しょうだった」
そうだね、プリシラお姉さんに早くブランドンさん、お父さんと会わせてあげないとだし、ブランドンさんの体調も心配だから治癒魔法をかけてあげないとダメだよね。
「あい、かえる」
ぼくはこくんと大きく頷き、兄様と手を繋ぎ、もう片方の手でエンシェントドラゴンへ別れの挨拶をする。
「えんちぇんとどらごん、バイバイ。またね」
「……本当にまた遊びに来てくれる?」
「あい! 次はみんなでくる」
瑠璃も桜花も翡翠もきっと君に会いたいと思っているよ。
「フェン……しろがねも、来てくれる? ボク、待ってていいの?」
「ちゃんと行くから大人しく待ってろ。あと、ついでにここら辺のドラゴンたちが他のモンに迷惑かけないように見張っとけ」
「この子にそんなことができるのかしら?」
「何もしないで山の上でボーッとしているからダメなんだ。仕事を与えたほうがいいだろう? 瑠璃だって人魚族の庇護をしているんだから」
「それもそうね」
ここでエンシェントドラゴンを崇めていたドラゴンたちも、ここに残るドラゴンと、里との通いになるドラゴンとの選別が終わったみたいだ。
うん、なんだか宝くじに当たった人とハズレた人のように、結果がハッキリとわかるね。
赤い髪のおじさんと緑の髪のお兄さんはがっくりと膝をついて頭を垂れていた。
「うーん、俺様よりも弱弱なドラゴンだが、ここまでみっともないとかわいそうになってくるな」
真紅もちょっぴり同情する視線をドラゴンたちに投げていた。
「白銀、紫紺、真紅。そろそろいいかな?」
あ、兄様が待ちくたびれてしまったみたいだ。
兄様に名前を呼ばれた白銀たちが焦った顔でタタタッとこちらへ駆けてくる。
紫紺の転移魔法でファーノン辺境伯邸まで一気に戻るのに、ぼくたちはなるべく近くにまとまっていなきゃいけない。
転移魔法は繊細な魔法操作が必要だからだそうです。
繊細な魔法操作……うん、習得するのに白銀には高いハードルな気がする。
「さて、いいかしら?」
紫紺の呼びかけにぼくたちは頷き合うけど、白銀だけはウーウーと唸っていた。
「おい、放せ! ちゃんとあとで来るって言ったろ?」
「……うん。でも、本当に?」
やっぱりなかなか帰してくれないエンシェントドラゴンに白銀は自慢の尻尾の毛をギュッと掴まれていた。
「俺様も約束してやる。だから、放せ」
真紅がバシッとエンシェントドラゴンの小さな手を叩く。
「うっ。でもでも、ずっと来なかったし。そこの小さな人間も嘘をついてるかもしれないし……」
ウルウルと目を潤ませてエンシェントドラゴンがもごもごと何かを言い続けている。
「いや、本当にあとで来るから! あとレンは嘘をつかない」
「本当に?」
「ああ、レンは嘘つかないと俺様も思う。なんだったら聞いてみればいい」
「なにを?」
「レンに友達になるから名前をつけてって」
「……友達。友達になったらみんなみたいになれる?」
「ん? なれるだろう?」
白銀と真紅、エンシェントドラゴンで話していたのに、ふいにクルッとぼくへと顔を向けてエンシェントドラゴンがパチパチと瞬きをした。
「んゆ?」
なんだろう? 白銀たちも何かを期待する目でぼくを見ている気がする。
トコトコとエンシェントドラゴンが近づいてきて、もじもじとしているけど、なんだろう?
「あの、あのね、人間。ボクと友達になって名前をくれる?」
兄様たちはギョッと驚いた顔でエンシェントドラゴンを見ているけど、ぼくはとっても嬉しくて飛び上がって「わーい」と喜んだ。
「うんうん、もちろん! もう、おなまえ、きめてるの。あの、あのね、こはくってゆーの。こはく、どう?」
あ、勢い余って付けようと思ってた名前をつい言っちゃった!
「「「レーン!」」」
兄様、白銀、紫紺がぼくのお口を塞ごうと手を伸ばしてくるけど、もう遅い。
ぼくがエンシェントドラゴンに付けようと思っていた「琥珀」という名前を、エンシェントドラゴンはニッコリ笑顔で受け取ってしまったのだから。
「うん、ボク、こはく!」