ドラゴンたちの未来 3
ドラゴンさんたちの問題は無事に解決できました。
盗まれたドラゴンの卵は取り戻せたし、盗んだドラゴンを捕まえることもできた。
そのドラゴンが訴える各ドラゴンの集落、ドラゴンの里が抱える問題も、ここにいるドラゴンでまだ若いドラゴンが里に戻ることで解決することができる。
里に戻りたくないと我儘を言うドラゴンが多かったけど、何年か勤めたあとしばらくはここドラゴンの国に滞在する許可をあげることで黙らせることに成功。
本当に年老いたドラゴンたちは、このままドラゴンの国で静かに過ごすこととする。
ぼくが考えた案だったけど、ぼくが話しても納得してくれないから、ドラゴンたちのカリスマ、エンシェントドラゴンのお口を借りました。
ぐぬぬと悔しさに呻いているドラゴンさんたちもいる。
そもそも、まだ働けるのにエンシェントドラゴンの近くに侍りたいとサボったのがいけないのです!
一番強い赤い髪のおじさんは胸のところに卵を抱えて背中に荷物を背負って悄然と佇んでいます。
緑の髪のお兄さんは、卵泥棒ドラゴンにネチネチと嫌味を言いながら、同じ風属性のドラゴンたちを集めていました。
「むふっ。ほら、かいけちゅ」
ぼくは胸を反らして白銀たちに「えっへん」と素晴らしさをアピールしました。
白銀と紫紺はパチパチと拍手! 真紅は横を向いて口を尖らせて、エンシェントドラゴンは何もわからずにきょとん顔のままです。
「ようやく、帰れるな」
「ええ。ヒューたちがブランドンを連れてきたら、すぐに転移するわ」
「あい」
さすがのぼくもお疲れです。
遺跡を調べにきたのに、まさかまさかのドラゴン登場で、風の精霊王にも会って、とうとう神獣エンシェントドラゴンにまでご対面してしまった。
うーむ、父様や母様、もしかしたらセバスにまでお説教されそうな気がする……。
このとき、ぼくたちは兄様たちが戻ってきたら紫紺の転移魔法でびゅーんと一瞬で帰れるって思ってたんだよ。
まさかね……まだ問題が残っているなんて、誰も気づいてなかったんだ。
…………困惑。
エンシェントドラゴンが泣き止みません。
白銀と紫紺が説得しているけど、全然泣き止みません。
そもそも、白銀たちと一緒にいたいと泣くエンシェントドラゴンに対して、一緒にいることはできないという応えしかない白銀たちでは、話が堂々巡りだもん。
エンシェントドラゴンはこの山の天辺で大地を守護する役目がある。
そして、ぼくらが住むブルーベル辺境伯領には、エンシェントドラゴンを迎えられるだけの土地がない。
土地の問題っていうか、そんなことになったら父様が卒倒しちゃう。
でもでも、ずっと一人ぼっちだったエンシェントドラゴンは白銀たちと別れたくないって泣いちゃうし、あんなに仲が悪そうだった白銀も強く言えないみたいでオロオロしてる。
「しんく? しんく?」
真紅は白銀ほどエンシェントドラゴンとの距離を縮めてないけど、関わりたくないとばかりにディディと戯れ……あ、ちょっとディディをいじめちゃダメだよ。
「ギャ……ギャウ」
ディディが疲れたサラリーマンのようなため息を吐いちゃった!
「放っておけ。どうせあいつはここから離れられない。俺様たちとは違う」
プーイっと顔を背ける真紅は少しつまらなさそうに見えた。
本当は真紅もエンシェントドラゴンと一緒にいたいのかな?
ぼくたちがエンシェントドラゴンの説得にまごまごしていると、兄様たちが戻ってきてしまった。
アリスターの背中には、弱々しく背負われたブランドンさんの姿が見える。
「ほら、やっぱりな」
アリスターが得意気に兄様へ声をかけると、兄様は不機嫌そうに顔を顰めてゲシッとアリスターの足を蹴る。
兄様は貴公子然としていて爽やかな大人びた印象だけど、アリスターに対するときの態度は年相応だと思う。
「レン、どうしたの? まあだいたいは想像できるけど」
「あい、にいたま。えんちぇんとどりゃごん、いっちょいくって」
「「…………」」
今の状態は想像していたんでしょ? なんでアリスターと二人で無言になるの?
「んゆ?」
「…………ま、まさか、レンはエンシェントドラゴン様とお友達にはなってないよね?」
「いやいやいや、まさか。エンシェントドラゴン様だぞ?」
エンシェントドラゴンとお友達……。
「あ、わすれてた」
そうだ! 白銀たちの仲間である神獣エンシェントドラゴンと会ったなら、お友達にならないと!
グスグスと泣いているエンシェントドラゴンへ駆け寄ろうとするぼくの体を兄様がひょいと抱き上げた。
「んゆ? にいたま?」
離してください。
ぼくはエンシェントドラゴンとお友達になりに行きたいのです。
「…………レン。エンシェントドラゴン様とお友達になるのは今度でいいんじゃないかな?」
「こんど?」
「ああ。今はその、白銀たちと取り込み中だし。ブランドンさんを早くブループールの街へ連れて帰りたいから、ね」
ニコッと兄様のキラースマイルを正面から浴びてしまったぼくは、その眩しさに目をシパシパさせる。
確かにブランドンさんのことは早く対処するべき重要案件である!
ううむ、でもぼくのお友達を作る使命はシエル様との約束事だし……でも、また今度来たときに「お友達になってください」ってお願いしようかな?
ほら、今は白銀たちと揉めているし、エンシェントドラゴンはずーっと泣いているし。
「あい。わかりまちた」
お友達は今度にします。
「いい子だね、レンは」
兄様に褒められた!
でも、兄様はなんでアリスターの足をぐりぐりと踵で踏んづけているの? アリスターが痛くて涙目になっているよ?
「アリスター?」
「い、いいんだ、俺のことは。余計な事を言うなってヒューの牽制だからな。って、いってーぇ!」
まさに兄様は余計な事を言うなとばかりに、アリスターの脛をコツンと蹴っ飛ばした。
痛そうなアリスターもかわいそうだけど、背中にブランドンさんを負ぶっているのを忘れないでね。
「なんで一緒にいたらダメなの? どうしてまたボクは一人なの? それに、フェンリルはどうしてみんなに「しろがね」って呼ばれているの?」
「「あっ」」
エンシェントドラゴンのセリフに兄様とアリスターが反応して、段々と顔が引き攣っていく。
「んゆ?」