ドラゴンたちの未来 2
白銀と紫紺が難しい顔をして唸っている。
その横で小さいドラゴン姿のエンシェントドラゴンが人化した真紅にちょっかいを出しているけど、真紅は眉間にシワを寄せてガン無視です。
ぼくは白銀たちを見て、喧喧囂囂で収拾がつかないドラゴンたちを見てを何度も繰り返しています。
ええーっ、このカオスな状況……どうしたらいいの?
「……若いドラゴンが大人しく里に帰ればいいんだが」
「そう命じたら、隠居したドラゴンたちも帰るべきって主張されるわよ」
「……もう面倒だから、力技で解決しちゃダメかな?」
「あら、珍しくエンシェントドラゴンと意見が合ったわね!」
いやいや、ダメでしょ?
神獣聖獣VSドラゴンなんて、怪獣映画も真っ青なことになったら、ここ一帯が更地になっちゃうんでしょ?
ぼくが必死な顔で止めたら、白銀たちはバツの悪い顔をして「冗談」って誤魔化した。
もう! 真面目に考えよう。
「真面目って……ドラゴンたちが勝手にここに住みついたんだから、こいつに追い出してもらえばいい」
真紅が半眼でエンシェントドラゴンを指差し、小声で「ついでにこいつもいなくなれ」と呟いた。
「でもね……代替わりしたところに先代ドラゴンが戻るのも問題ありなのよ? 単純に里の統率が執れなくなるわ」
「しかもドラゴンを慕ってここの近くにドラゴニュートの里もあるしな。ここを潰すのも考えもんだ」
そうして、また堂々巡りになるのである。
ううーむ、ドラゴンたちを追い出すのも、このままの状態にするのも問題がある。
特に、若いドラゴンたちが里に戻らないのは、その地の魔獣の縄張りの問題が出てきてしまう。
でも若いドラゴンたちは自分たちだけが里に帰されるのに不満がある。
……あれ? じゃあ両方に住めばいいんじゃないのかな?
「あい! かいけつでしゅ!」
ふんすっと胸を張って言い切ったぼくに、白銀と紫紺が疑いの目を向けため息をついた。
むむ、失礼な!
「あっちも、こっちも、まるくかいけちゅ!」
「それを言うなら丸く解決……いや丸く収まるか?」
真紅が一人ブツブツ言っているけど、そろそろ足にじゃれているエンシェントドラゴンの相手をしてあげてください。
ぼくは白銀と紫紺に付き添ってもらい、意気揚々とドラゴンたちの争いに身を投じるのです!
……兄様がいないので、ちょっと不安なのは内緒です。
「「通う?」」
赤い髪のおじさんドラゴンも、緑の髪のお兄さんドラゴンも、おじいちゃんおばあちゃんドラゴンも、あと卵泥棒ドラゴンもみんなが首を傾げてしまった。
「あい。ここまでかよう」
ぼくは自信満々にコクリと頷き、もう一度繰り返して告げる。
例えば、このドラゴンの国をお家だとすると、それぞれのドラゴンの里がお仕事の場所と考える。
だったら、お仕事をするためにここから里まで通えばいいんでは?
「つまり、まだ若いドラゴンたちは、その役目を全うするまで里とここを往復するつーことか?」
白銀が自分が確認するように言葉を紡ぐと、紫紺がちょっと眉を寄せて考える。
「通うって、そこそこの距離があるでしょ? 毎日往復してたらドラゴンの居場所が冒険者たちにバレないかしら?」
冒険者たちがドラゴンを目撃したら、最寄りの冒険者ギルドまで報告する。
これは真紅と出会ったブルーフレイムの街で経験済だ。
あのときは、ドラゴンが出没していたらどう対処するのか……冒険者ギルドのギルマス、トバイアスさんは頭を抱える案件だったけど、ドラゴンの正体は小鳥姿の真紅だったしね。
もし、ドラゴンだったらブルーフレイムの街の冒険者たちだけでは太刀打ちできないから、父様が率いるブルーベル辺境伯騎士団総出でドラゴン討伐だったはず。
一体のドラゴンで大騒ぎなら、ここのドラゴンたちがあちこちに飛び交う姿は、阿鼻叫喚の大騒ぎになるだろう。
「へーき。かぜのせーれー、たすける」
その問題もクリア済なのである。
えっへん!
そこでズズイッと身を乗り出す風の精霊王です。
「もちろん、僕たちが力を貸すよ。元々、風の精霊はドラゴンと友誼を結んでいるしね。飛行も助けられるし、人の目に付かない高い所を姿を隠しながら飛ばすこともできる」
そうです。風の精霊さんたちはこの世界の中で一番早く、そして遠くを飛ぶことができるドラゴンたちが大好き。
自分たちの能力を隠すことなく発揮できる、最高の相棒なんだって。
だから、このドラゴンの国で人化したままのんびり暮らしているドラゴンたちが、びゅんびゅんと空を飛ぶなら大歓迎なのだ。
「でも、まいにちたいへん。なんねんおき?」
ドラゴンたちは寿命が長いから数年単位でも、ほくたちの数日ぐらいの感覚だと思う。
だから里でのお仕事を何年か勤めて、そのご褒美としてこのドラゴンの国に何日間または何か月間滞在できるというお約束でいいよね。
ぼくの提案におじいちゃんおばあちゃんドラゴンは満足げだし、卵泥棒ドラゴンはにっこり笑顔で涙をぶわっと流している。
不満の声をブーブーと上げているのは若いドラゴンたちだ。
では、ここでエンシェントドラゴンの登場です。
「おねがいしましゅ」
ぺこりとぼくが頭を下げてお願いすると、エンシェントドラゴンはきょとんとした顔で硬直する。
「んゆ?」
「ああ、こいつはわかってねぇな」
「いいから、レンの言うとおりにしろって命令してちょーだい」
「……わかった」
白銀と紫紺に両脇を固められてエンシェントドラゴンはドラゴンたちの前に雄々しく立つ……小さい姿のままだから白銀の背中に立っているけど、それでいいの?
「お前たち。僕はエンシェントドラゴンだ。え、えっと、ええっと、なんだっけ?」
コテンと首を傾げるエンシェントドラゴンに白銀が尻尾でぽふんと頭を叩く。
「レンの言うとおり」
「そう、レンの言うとおりに里に戻れって。そしてここには通ってくるようにって」
二人が囁く声でエンシェントドラゴンの言うべきセリフを教えてあげている。
でも、全部ドラゴンたちに聞こえているよ?
若いドラゴンたちは、エンシェントドラゴンの命令にしおしおと萎れて項垂れてしまう。
紫紺はそんなドラゴンたちを横目にエンシェントドラゴンを連れて、「アンタは里行き」「アナタはここで」とドラゴンたちをテキパキと仕分けていく。
ふうーっ、これでようやくぼくたちもお家に帰れるかな?