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ドラゴンたちの未来 1

憐れ、ドラゴンの真っ只中へと放り込まれたエンシェントドラゴンの運命はいかに?

なんて、呑気にもわくわくと期待して見つめたぼくの前で、ドラゴンたちは珍客に一瞬目を奪われたあと、一斉にズザザーッと後退りした。


「んゆ?」


あんなにも憧れて好き好きと言いまくっていた神獣エンシェントドラゴンが降臨したのに、反応がちょっと想像と違う。

首を傾げているぼくの隣りで、兄様とアリスターが頭を抱えてウンウンと唸っていた。


「どうすんだよ、ヒュー。あんな状態の奴らにエンシェントドラゴン様が姿を現したら……」


「言うなっ、アリスター。僕だってあのエンシェントドラゴン様は予想外なんだ」


真ん中にポツンと小さなエンシェントドラゴンを置いて、ドラゴンたちは引き攣った顔で硬直しているようだった。


「しろがね? しこん?」


これ、どうするの?


「ぽややんとしていても、奴は神獣エンシェントドラゴンだ。漏れ出る神威をドラゴンたちは感じている」


「そうね。本人は無意識でしょうけど、威圧しているわね」


つまり……あの小さなドラゴンの姿のままで、あの大きなドラゴンたちを押さえつけているの?

それで……このドラゴンの卵泥棒の問題は片付くのかな?


「……そういえば、あいつになんのアドバイスもしてなかったな」


「セリフを教えるの、忘れてたわ」


白銀と紫紺はとても面倒くさそうに立ち上がると、ポテポテと足取り重くエンシェントドラゴンへと歩いていく。


「あ、ぼくもいくー」


慌ててぼくも二人の後ろを追いかけたよ。

ほら、真紅も一緒に行こうよ、大切な仲間のことでしょ?


「はあ? た、大切とか、そんなんじゃねぇよ」


顔を真っ赤にして怒る真紅だけど、口を尖らせながら、ちゃんとぼくたちの後ろを付いてくるんだよね。

ふふふ。


「ちょっと、どけ」


白銀はブンッと尻尾を振り回して、ドラゴンたちを押しのけて進むと、ドラゴンの輪の中で所在なさげに座っているエンシェントドラゴンの前に仁王立ちする。


「おい、ちょっと神気を引っ込めろ。ドラゴンたちが慄いているだろうが」


たしっと前足でエンシェントドラゴンの頭を抑えると、紫紺がエンシェントドラゴンの背中から近寄り囁く。


「ここのドラゴンたちに、ここから立ち去れって言いなさい。面倒だから追い払っちゃいましょう」


んゆ? し、紫紺……それはちょっと横暴だと思う。


ぼくは、チラッと卵泥棒さんに寄り添うドラゴンさんたちを盗み見る。

この人たちは、きっと元ドラゴンの長たちで、長く長く生きたドラゴン。

残りの最期(とき)を穏やかに、神獣エンシェントドラゴンの元で過ごそうと集った、ドラゴンのおじいちゃんやおばあちゃんたちでしょう?

ここから、追い出すのはかわいそう……。

ぼくがそう呟くと白銀と紫紺は顔を合わせて、はあーっと息を深ーく吐き出した。


「そうだな。まっとうに生きてきた奴らもいるよなぁ」


「問題はまだ現役なのに、ここに集ったドラゴンたちだわね」


「……ボクはどうしたらいいの?」


小さい姿のエンシェントドラゴンが両手をもじもじさせて、白銀に縋る視線を向ける。


「うぐっ」


「……厄介ね。追い出されるドラゴンがごねるし、面倒だわ」


「お前ら、結局何も考えてねぇのかよっ!」


一番、何も考えてなさそうな真紅に図星を突かれて口ごもる白銀と紫紺に、ぼくと兄様たちもちょっと困った顔をするのでした。
















兄様とアリスターは、ドラゴンたちの話合いに交ざると危ないのでブランドンさんの様子を見にこの場を離れました。

ほら、ドラゴンたちは強いドラゴンが法律だから、最悪力技で解決しようとするでしょ?

兄様たちが、そんな争いに巻き込まれたら大変だもの。


ぼく? 兄様はぼくを連れて行きたかったみたいだけど、白銀と紫紺が必死に服の裾を噛んで引き留めたから、ドラゴンたちの話合いに参加しています。


では、卵泥棒さんのお話です。


「とにかく、長たちにはそれぞれの里に戻ってほしいです。まだ代替わりには早すぎます! 我らの里の周りにはそれなりの魔獣の縄張りがあり、その範囲が少しずつ広がっている。わかりますか? あいつら、舐めているんですよ、俺たちを。強者がいないドラゴンの縄張りを奪おうとしているんです!」


最後は少し涙声だった。

事情を詳しく知らなかったドラゴンさんたちには、紫紺が説明してまわっています。

ドラゴンが同じドラゴンの卵を盗むというショッキングな事件に驚いているけど、卵でドラゴンを誘導しようとしていたことがわかると年老いたドラゴンは同情を、若いドラゴンは複雑な表情を浮かべていた。


では、若いドラゴン代表、卵を盗まれた被害者ドラゴンの主張です。


「我らは長となり、里を導き安寧を与えてきた。重い役目を勤めた我らが神獣エンシェントドラゴン様の元へ仕える褒美を受け取ることの何が悪い? 歴代の長たちが同じようにしてきたことだ。なのに守り育ててきた同族から卵を盗まれるなどと、ひどいではないか! 魔獣たちから侮られるのはお前たちが悪い。弱いのであれば鍛えればいいこと」


ツーンと顔を背けて、歩み寄るつもりが微塵もないことを態度で示す。

赤いおじさんだけでなく緑のお兄さんたちも腕を組んで怒ってますポーズをしている。


最後にちょと年配の、たぶん長生きしているドラゴンたちの意見です。


「はあーっ、情けない。儂らは元々、お前さんたちがここに来るのが早いと思っていた。たかが数年、数十年、長として過ごしただけで隠居よろしくエンシェントドラゴン様に侍ろうとする、その性根が情けないとな。まだ、ドラゴンとして未熟な者たちでは、周りの魔獣に対する牽制も拙く、なかには格下の者に傷つけられる者もおろう。それが度重なれば、弱い魔獣たちも勘違いするというものじゃ。お前たちが若い者がちゃんと育つまで面倒を見ていれば防げることだったのではないか?」


ここでおじいちゃんドラゴンはギロッと目付きを険しくして、卵泥棒を睨む。


「お前がしたことは許されることではない。反省は海よりも深くし、贖罪は山よりも高く積みあげろ。だが、里を憂えてのこと、儂らは理解を示そう。……辛かったな」


「……っ! も、申し訳ありませんでしたっ! 本当に……すみません、でした」


卵泥棒は被害ドラゴンである赤いおじさんではなく、自分の周りにいるおじいちゃんドラゴンたちへ深く頭を下げて謝った。


……これってどうなるの?

卵泥棒とおじいちゃんドラゴンたちはいいけど、赤いおじさんと緑のお兄さんたちはムスッと不機嫌そうに顔を顰めている。


ねえ、白銀、紫紺。

このちっちゃいエンシェントドラゴンが、この騒動を丸く収めることってできるのかな?


ねえ、なんでそっぽを向くのさ?


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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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