最強の神獣 8
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ぼくがほんのちょっとぼんやりとしている間に、ドラゴンたちが集う山の中腹の隠れた王国まで戻ってきました。
風の精霊王はあんなに泣いていたのに、兄様から助言を受けたあと、エンシェントドラゴンと仲直りして、ニッコニコです。
ここまでも紫紺の転移魔法じゃなくて、風の精霊王の力でピョーンと移動してきました。
そして、あんなに白銀たちと別れたくないと訴えていたエンシェントドラゴンは、小さい体のまま白銀の背中に乗って超ご機嫌です。
白銀も得意気に鼻をツンと上に向けてたしたしと歩いてるけど、その後ろを歩く紫紺と人化したままの真紅は胡乱げに二人を見ています。
さて、卵泥棒も捕まえて、無事に卵が戻ってきたドラゴンたちはどうしているかな?
なんだか、卵を盗んだ風のドラゴンさんにも事情があったみたいだけど……。
「ああ、まだ揉めているね」
兄様がキュッと眉を顰めてると、アリスターはひょいと肩を上げてお手上げのポーズを取る。
緑の髪のお兄さんと赤い髪のおじさんが同じ色の人たちと一緒に、正座している若い人を責め立てているけど、その若い人の周りには白い毛が混じる男女が守るように陣取っていた。
風の精霊王の大雑把な裁きでは、両方が満足する結果が得られず、ずっとあーでもない、こーでもないと揉めている。
それも罪人である風の属性ドラゴンの身内は自分たちに非が及ばないようにと、さらに厳しく問い詰めている。
被害にあった赤い髪のおじさん、たぶん火の属性のドラゴンたちやその奥さん……茶色だから土属性? のドラゴンたちは怒りが収まらないようだ。
ちょっと離れた場所で青色だから水の属性のドラゴンたちが、その騒ぎを冷ややかな顔で見つめている。
「ちっ、まだやってんのか」
真紅が舌打ちすると、風の精霊王まで腕を組んで不服そうに鼻を鳴らした。
「あれに巻き込まれないうちにファーノン辺境伯屋敷まで帰ろうぜ、ヒュー」
「いや、ブランドンさんを引き取って戻らないとダメだろう」
そう、プリシラお姉さんのお父さん、人魚族のブランドンさんを連れてブルーベルのお屋敷まで戻らないとダメです。
でも、この騒ぎを素通りして無事にこのドラゴンの王国から脱出できるのかな?
「むずかちい」
ムムムと顔を顰めるぼくに、白銀は得意気に胸を反らした。
「大丈夫だ、レン。こいつがいるだろう?」
こいつって……エンシェントドラゴンのこと?
「ああ。こいつはドラゴンたちの神だからな。こいつの一言ですべてが丸く収まるのさっ」
フフーンと自慢げだけど、当のエンシェントドラゴンはきょとん顔です。
「ボク……神様じゃないよ? 神獣だよ?」
「そんなことは知ってるつーの! あいつらはお前の側にいたいからって集まってんだ。お前の仲間みたいなモンだから、お前が命令したらなんでもしてくれるぞ!」
これで俺らがいなくても寂しくないな、と白銀が満面の笑みで言い切った瞬間、エンシェントドラゴンは大きな声で泣き出した。
「びえええええーっん、うえええええーんっ」
「な、なんだ? どうした?」
白銀の背中で大泣きするエンシェントドラゴンに、白銀だけでなく紫紺たちも大慌て。
「ああ……そうだよねぇ」
白銀はエンシェントドラゴンが寂しくないようにドラゴンたちを仲間として紹介したんだろうけど、エンシェントドラゴンは仲間の白銀たちと離れたくないと主張していたんだ。
仲間が欲しい、側にいてほしいじゃなくて、白銀たちに側にいてほしい、一緒にいてほしいって願っていたんだよ?
なのに、違う仲間と一緒にいればいいって言われたら、大泣きするよね?
「しろがねが、わりゅい」
「ええーっ! 俺のせいか? これ、俺のせいか?」
ぼくの言葉にシッョクを受けた白銀は、バシーンと紫紺の尻尾でお尻を叩かれていました。
ヒックヒックとまだ落ち着かない様子のエンシェントドラゴンの背中を、ぼくはずっと摩ってます。
はいはい、落ち着いてね。
「だいじょーぶ。ちゃんと、はなす。しろがね、やさしい」
「うん。フェンリルはいつも優しかったよ。プリプリ怒っているときも多かったけど、いつもボクに声をかけてくれたのはフェンリルだもん」
ぼくが慰めるとエンシェントドラゴンは白銀との昔を思い出してちょっと微笑む。
「しこん、やさしい。しんく、たのしい」
「うん。レオノワールはボクたちがはしゃぎ過ぎるといつも注意してくれた。お菓子も分けてくれた。フェニックスとはいつも空を飛んだよ。空を飛ぶフェニックスはすごくキレイで、とっても楽しい時間だった」
うんうんと嬉しそうに頷いて、紫紺たちの思い出を一つ一つ数えていく。
「でも、しろがねたち、いっちょ、むり」
ぼくは無情にも首を左右に振って、大事なことを伝えた。
ぼくだってエンシェントドラゴンと一緒にブループールの街に帰れたら嬉しいけど、やっぱりね、無理だよね?
父様、びっくりしてひっくり返っちゃうでしょう?
ここには、エンシェントドラゴンがシエル様から頼まれたお仕事があるし……。
「ええーっ! でも、ボク、一人はもう嫌だな」
ポツリと呟くから、ぼくもしょんぼりと俯いてしまった。
「そのことは後で相談しましょ。今はアンタにアレをどうにかしてほしいのよ」
のそりと近づいてきた紫紺が複雑な色の瞳に、情けない顔のぼくとエンシェントドラゴンを映す。
「アレ? ボクがレオノワールの役に立つことがあるの?」
「えっ、ええ。あのドラゴンたちの揉め事をね、アンタの一言でまとめてくれればいいの」
「うん! わかった。あのドラゴンたちを殲滅すればいいんだよね!」
んゆ? そんな物騒なことを紫紺は頼んでないです!
「めー! ドラゴンさん、ないない、だめー!」
それこれ、最強種が絶滅の危機でもって大事になってしまいます!
魔獣たちの力のバランスが総崩れだよーっ。
ぼくがそう叫ぶ前に、エンシェントドラゴンは紫紺の尻尾でバシーンと叩かれてポーンと飛んでいった。
「……昔と変わらず、考えなしね!」
ああ……揉めているドラゴンたちの中へ、エンシェントドラゴンが降臨てしまった。