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最強の神獣 6

神獣エンシェントドラゴンの鱗の輝きが鈍く曇りだした。

それも、黒い靄が陰るように。


あれは、ダメなやつ!

ぼくは兄様の腕の中という安全地帯から、シュバッと秘密兵器を取り出して、勇ましく振り立ててた。

デンデデン♪


「はあぁ? レン、何やってんだ?」


周りを警戒して、ピンと耳を立て尻尾をぶわっと膨らませていたアリスターが、びっくりした顔でぼくを見る。


何って、これだよ。

デンデデン♪ デーンデデン♪


「レン。どうしたの?」


兄様までちょっと困った顔でぼくを見る。


「これ。くろいの、けすの」


よくわからないけど、ぼくが笛を吹いたり、鈴を鳴らしたら黒いモヤモヤが消えるらしいから、今は太鼓を鳴らします。

デデン♪


ぼくが「くろいの」と言った途端、兄様とアリスターがグリンとエンシェントドラゴンへと視線を飛ばし、ギクッと体を固くした。


「ヒュー。エンシェントドラゴン様の鱗」


「ああ。少し黒い靄……瘴気が覆っているように見える」


そうでしょ?

だから、ぼくがこの太鼓を鳴らして黒いモヤモヤを消してあげたいんだ。

デデン、デン♪


エンシェントドラゴンの黒いモヤモヤを消せば、蔓で空中に吊るされて火柱であぶられている風の精霊王も助けられるよね?


「きゃああああっ!」


ぼくがニコニコと太鼓を鳴らしていたら、紫紺の叫び声が聞こえてきた。


「んゆ?」


「だ、だめーっ! だめよ、レン! その力はまだ使っちゃだめなのよーっ!」


ビュンと飛ぶように駆けてきた紫紺が、兄様の腕の中からぼくの体を取り上げ、手に持っていた太鼓をバシンと尻尾で叩き落としました。


「あ……」


まだ、黒いの消す途中なのに……。



















ぼくと小さなエンシェントドラゴンはちょこんと隣同士座ってお説教の真っ只中です。

紫紺が目を吊り上げて、ところどころ涙声で怒ってます。

ぼく、わるくないのに。ぶうっ。


「いい? 何度も言うけど、浄化の力はまだ使っちゃダメなの。レンの体にとっても負担をかける力なのよ」


「……あーい」


「エンシェントドラゴンも、そいつはアタシたちと同じく()()方に創られた存在。嫌うのはいいけど消滅させるのはやめてちょーだい」


「……ちえっ」


エンシェントドラゴンが反抗的な態度を取ったら、紫紺の頭に見えない角がニョッキリと生えた気がした。


「アンタねぇーっ!」


「うわっと。ストップ! ストップだ、紫紺。ここでお前がこいつとやり合ってどうする? レンのしたことはヤバイことだが、エンシェントドラゴンが瘴気をまき散らすよりマシだろう?」


おっ、やっぱり、ぼくのしたことってすごいこと? 褒められるかな? 褒められるかな?

ウキウキワクワクしていたぼくを呆れた顔で見た白銀がポツリと爆弾を落とした。


「レン。お前がダメなことをしたのには変わらないからな。後で瑠璃にちゃんと怒られておけ」


ガアァーン! そんな……ぼく、いいことしたのに。

グスングスンと鼻を鳴らすと兄様が優しい手で頭をナデナデしてくれた。


「レン。みんな心配しているんだよ。僕とアリスターも心配したよ。あまり無理しないでね」


「うっ! あい、ごめんなさい」


しょぼんと謝るぼく。だって大好きな兄様やアリスターの悲しい顔が、とっても心に刺さったんだもん。

ところで、ぼくや精霊たちにしか見えなかった黒いモヤモヤを兄様やアリスターも見えるようになったんだね!


「……よくわからないが、アリスターの場合は契約しているディディの精霊力が強くなった影響だろう」


「ヒューの場合はなんだろうな? こんなに近くに神獣聖獣がいて精霊王と顔を合わしてたら、瘴気が見えるようになるのかもな?」


見えるようになった二人にも原因がわからないそうだけど、ぼくとお揃いの能力です!

ぼくは、うれしい。

ニコーッと笑顔のぼくの耳に、真紅のやけに楽しいはしゃぎ声が響いた。


「とりあえず、元凶のこいつをみんなでボコろうぜ」


真紅がエンシェントドラゴンの怒りに触れて嘆いている風の精霊王をゲシッゲシッと蹴りながら、誘ってきた。


「や、やめてよぅ」


風の精霊王は両腕で頭を庇い小さく体を縮めている。


「もう! かぜのせーれーおー。さくせん、ダメにした」


ぼくは両頬をぷくっと膨らませ、紫紺みたいに目を吊り上げてみせる。


「ぷっ、くくくくっ。レン、お前面白い顔になっているぞ」


アリスターが失礼にもぼくの顔を見て噴き出して笑い、ムニムニと両手でぼくの頬を揉む。


「ふひゃひゃ。アリスター、やめて」


パシンとぼくの代わりに兄様がアリスターの手を叩き止めてくれた。


「アリスター。レンの顔になにするんだよ。かわいい顔がかわいそうだろう」


「……出たよ。兄バカが」


んゆ? なんかアリスターが叩かれた手を摩りながら、何か呟いたぞ?


「ちょっと、エンシェントドラゴンも交ざらない! 真紅もやめなさい」


紫紺が風の精霊王を助けに行きました。

でも、こっそりと風の精霊王の足をぎゅむと爪を立てて踏んでいるのを、ぼくはしっかりと見てしまった。


「ところで、レン。作戦ってなんだ?」


「そうだね。レンは風の精霊王様とどんな作戦を立ててたんだい?」


兄様とアリスターに質問されたので、ぼくは得意満面で答えた。


「え、えんちぇんと、ドラゴンと、ともだちになる、さくせん!」


昔は仲が良かったと風の精霊王が自慢していたから、その昔話をしてお互いにいい思い出を語れば、友達になれるんじゃないのかな? と思ったの。

まさか、風の精霊王が一人得意気に話していた白銀たちの話を、エンシェントドラゴンが悲しい気持ちで聞いていたなんて……風の精霊王の独りよがりだったんだね。

ぼくも白銀たちの悪口なんて聞いたら怒っちゃうもん!

悪いのは風の精霊王だよっ!

……今、神獣聖獣に囲まれてめちゃくちゃ悲惨な状態になっているけど。


「許してくれーっ! ひーっ、僕が悪かったよー!」


……いろいろな精霊王がいるんだね! 

ぼくが会った精霊王の中でも、ダントツ弱そうなのは風の精霊王に決定です!


「おい、風の精霊王で遊ぶのもそろそろいいだろう。早く戻らないとレンたちがギルに怒られる」


「そうね。ギルならいいけど、セバスとアンジェは厄介だわ」


「……あの腹黒執事は油断ならない」


んゆ? 白銀たちのぼくの家族に対する印象がちょっと違うような気がする?

母様はとっても優しいし、セバスは有能執事だよ?


「じゃあ、とりあえずドラゴンたちのところまで戻ろうか」


兄様が白銀たちに提案すると、みんなは頷いて同意してくれるが、一人猛烈に反対する人がいた。


「ええーっ! もう帰っちゃうの? まだ来たばかりだよ。もう百年ぐらいここにいようよ?」


ここに百年もいたら、山を下りたらぼくたち浦島太郎状態になってしまうよ?

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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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