最強の神獣 5
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白銀たちが連れてきた神獣エンシェントドラゴンは、ディディより小さな体をフルフルと震わせ、円らな瞳をウルウルと潤ませて縋るように呟いた。
「ボクのこと、嫌い?」
問われた神獣聖獣の白銀たちは口をパッカーンと大きく開けてびっくりしているみたい。
ぼくは頭をコテンと横に傾げて、そんな白銀たちを見ていたけど……白銀たちって仲が良いのか悪いのかわからないなぁ。
「はあっ? いや、おいおい、お前のこと嫌いって……いや、嫌いつーか、俺より強……違う違う、俺より先に創られたのが気に入らないつーか」
白銀が一人でもごもごと何かを言って、隣の紫紺からブリザードのような視線を向けられている。
「俺様はお前が飛ぶから嫌いだっ!」
真紅は腰に両手を当てて、偉そうに胸を張って言い切った。
「ガーン! じゃあ、ボクがもう二度と空を飛ばなければいいの?」
ウルウルお目目のエンシェントドラゴンの攻撃に真紅は胸を「はうっ」と抑えて撃沈しました。
「バカなこと言わないで。真紅も飛行比べで勝てないからって無茶言わない!」
ビシンッと紫紺のしなやかな尻尾でお尻を叩かれた真紅はぴょんと飛び上がって痛がったあと、お尻を摩りプイッと不貞腐れて横を向く。
「だって、フェニックスがボクのこと嫌いって」
「嫌いも好きもないでしょ。アタシたちはあの方に創られた仲間なんだから。そうでしょ? 白銀」
「あっ! …………ああ、そうだな」
白銀は明後日の方向へ顔を向けたまま、ぶっきらぼうに返事をする。
「じゃあ、これからはもっと遊びにきてくれる?」
小さな体を横に倒すように傾げながら、上目遣いにお願いするエンシェントドラゴンの姿に紫紺は苦虫を噛み潰した表情をする。
「…………ダメ?」
「いや、お前な。俺たちはそもそも遊んだりしないぞ? 俺と紫紺が一緒にいるのはたまたまあの方からのお願いがあったからで……」
「お願い?」
「そうよ。他のヤツらとは最近まで顔も見てなかったんだから、今の状況が特別なことなのよ」
「特別?」
「……俺様、もう帰りたい」
「…………ボクも一緒にいたい」
んゆ? 白銀たちとエンシェントドラゴンの会話が噛み合わなくなってきた気がするぞ?
「にいたま?」
「う、う~ん、困ったな。さすがにエンシェントドラゴンを連れて帰るわけにはいかないし」
兄様も白銀たちの会話を聞いて、目を瞑り考え込んでしまう。
「それもあるし、あのドラゴンたちの揉め事も中途半端な状態だし、そもそもここまで引っ掻き回した風の精霊王様があの状態じゃあな……」
アリスターの困惑した顔が、座り込んでひっくひっくと泣いている風の精霊王に向けられます。
「ああ、確かに。風の精霊王がこの場をまとめてくれればいいが……無理だろう?」
兄様とアリスターが深く頷きます。
風の精霊王は友達と一方的に思っていたエンシェントドラゴンと交流を持ちたくて、エンシェントドラゴン自身が施した封印を解くために白銀たちをここ、山の頂上までぼくたちを連れてきた。
なのに……エンシェントドラゴンと対面したら友達とは思ってないって拒否られたらしい。
「……ないちゃう」
そんなの悲しいよ。
でもそのエンシェントドラゴンは、神獣聖獣仲間の白銀たちと一緒にいたいと願って、白銀たちはその願いに渋面でむぐぐっとしている。
そして、ぼくたちは早く父様たちのところへ帰らないと怒られてしまうし、プリシラお姉さんのお父さんを保護して安全な場所へと連れていきたい。
「まずは……あっち」
ぼくは、よいしょと立ち上がって、ずっと泣き続けている風の精霊王のところへとトコトコ歩き出した。
「ねーねー、しろがね」
風の精霊王との作戦会議が終わり、ぼくはエンシェントドラゴンを持て余している白銀の尻尾をたしたしと手で軽く叩いた。
「あ、レン。す、すまないな。こいつをすぐに説得して山を下りるからな」
「ううん。いーのー」
いいの、いいの。白銀たちがエンシェントドラゴンを説得するのに手間取っているのは知っているから、それはいいの。
さあ! ぼくの作戦どおりに風の精霊王、エンシェントドラゴンに話かけてください!
キリリとした眼差しを風の精霊王へ投げて、ビクビクしている彼の背中を押してあげる。
「エ……エンシェントドラゴン!」
「あれ? キミ、誰だっけ? ああ、風の精霊。なあに? ボクになんの用?」
「そうだよ! 風の精霊王だよ。昔馴染みの僕だよ! 昔からこの山に一人きりの君のところへ僕はよく訪ねてきただろう? 君が望むままに外の情報を教えてあげて。仲良く過ごしてきたじゃないか!」
「外の……情報?」
「君が昔を忍んで空を飛ぶときも、僕が最高の風を纏わせてあげたよね! 空を飛びながら火の粉をまき散らすどこぞの下品な鳥と違って、その姿は優美で雄々しく素晴らしかった」
「……下品な鳥?」
風の精霊王はぼくの作戦を無視して、だんだんと昔の自分に都合のいい思い出に浸り始めてしまった。
その話を聞いて、なんだかエンシェントドラゴンの様子が変わってきたように思う。
それも、悪い方向に…………。
「ああ、キミか……。ボクが仲間を恋しく思い出しているときに、横でワーワーとうるさかったのは。ボクの大事な仲間の悪口を言いたいだけ言って、ボクが飛ぶときに邪魔するように風を吹かせていたのは」
小さな体なのに、その体からズモモモと音を立てて強い気持ち、覇気が、蒸気みたいに昇っていく。
「へ?」
「ボクの仲間の悪口だよ。フェンリルがどうしたとか、フェニックスが腑抜けたとか……聞いてもいないのにペラペラと」
ギンッとエンシェントドラゴンが風の精霊王を睨みつけると、彼はピタリと動きを止めた。
「お、おい、エンシェントドラゴン?」
「ちょっと、どうしたの? ぼんやりなアンタらしくないわよ?」
エンシェントドラゴンの周りを心配した白銀と紫紺がウロウロするけど、エンシェントドラゴンの耳には二人の声が聞こえてないようだった。
「ボクは! 仲間の悪口なんて聞きたくなかった! もっと仲間が楽しく過ごしている姿が知りたかった! 幸せになっている姿が見たかった! ここで動けない自分の分もみんなが笑っていればいいと思ってた。それなのに……お前はいつも、いっつも悲しい話ばかりボクに聞かせるから!」
ビュオオオオオオオと強い風が吹く。バリバリバッシーンとどこかで雷が鳴りだした。
「にいたまっ!」
「大丈夫だよ、レン」
「ヒュー。レン」
ぼくの体をギュッと抱きしめた兄様の背中を剣を持ったアリスターが守る。
「エンシェントドラゴン? だって君は神獣聖獣の中でも最高最強の神獣だ。神から与えられた使命を放り出し下界を乱した奴らとは違う。君こそが至高の存在。しかも空を飛ぶドラゴンだ! 風の精霊王である僕の盟友にふさわしい。だから、僕は君も他の神獣たちを軽蔑していると思って……」
「ボクはみんなが大好きだ! 何もできないボクにいつも寄り添ってくれた。フェンリルはいつもボクに声をかけてくれたし、フェニックスはいつもボクを空の散歩に誘ってくれた。レオノワールはボクにお菓子をくれたし、リヴァイアサンはボクを心配してくれる! みんなみんな、ボクの大事な仲間なのにぃ」
ボワッとエンシェントドラゴンと風の精霊王を囲む火柱が立ち上がる。シュルルルと太い蔓が風の精霊王の四肢に巻き付きビョーンと空へ巻き上げた。
「うわわわわっ」
「ボクの大事なものを傷つけた。許さないっ」
エンシェントドラゴンの金色でピカピカしていた鱗がモヤッと黒い影を浮かべる。
んゆ? あれはダメなやつでは?
ぼくは兄様にギュッと抱きしめられながら、ポケットからでんでん太鼓を取り出しフルフルと左右に振ってみた。
「……寄り添ってたんじゃねぇ。喧嘩して攻撃してたんだ」
「俺様だって散歩してたんじゃないやい。どっちが早いか競争してたんだ!」
「いいじゃない。あの子がいい思い出にしているんだから。黙っておきなさい」