最強の神獣 2
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いつも、ありがとうございます。
デデンデン♪
手に持った太鼓を鳴らして大好きな真紅と一緒にステップを踏む。
いつの間にか踊るぼくたちを包むように、優しい歌声が聞こえてきた。
周りで奔放に吹き遊ぶ風に煽られた木の葉を目で追いかけると、空中でクルクルと回ったり捻ったりしている白銀のしなやかな体が目に映る。
カキーンと高い音へ視線を向ければ、少し離れた場所で兄様とアリスターが剣を手に様々な型を決めていた。
その動きは激しいようで滑らかで、雄々しく美しく、まるで踊っているかのように優美だった。
みんながニコニコしているのが嬉しくて、太鼓を激しくクルクルと手の中で動かすと、太鼓の音が一層強く響いていく。
デデンデン♪ デンデン♪
この太鼓はどうしたのかって?
ふふーん、この太鼓は太鼓じゃなかったんです!
遺跡に入ってシエル様の像の前でお祈りして出てきた笛と指輪があったよね?
指輪は今もぼくの親指にピッチリはまっていて、この指輪がドラゴニュートたちへの目印だった。
じゃあ、笛は?
悪い人が持っていた笛、アリスターとキャロルちゃんを苦しめた笛と同じ形の笛は……な、なんと! ぼくの鞄の中で太鼓へと形を変えてしまったのだ!
んゆ?
ぼくも、なんでだか理由はわからないよ。
ただ、ここで楽しく騒いで神獣エンシェントドラゴンを呼び出そうと思ったとき、笛を吹くと兄様たちが心配するからどうしようと迷ったぼくの手の中で太鼓へと変わったの。
そういえば、悪い人が持っていた笛も、ぼくが吹こうとしたら立て笛からオカリナへと形を変えたから、そういう特質の楽器なのかもしれないね。
とにかく、ぼくでも演奏できるサイズの太鼓になったから、こうして音を鳴らしているんだ。
デデンデン♪
楽しいね!
ただ、ぼくがご機嫌で太鼓を鳴らすと、兄様がちょっと悲しそうな顔でぼくを見るんだけど、なんでだろう?
どれぐらい踊ってたのかなぁ。
ぼくはまだまだ元気です!
へたり込むほど疲れてないし、お腹も減ってないよ。
真紅たち神獣聖獣はこれぐらいで疲れることもないだろうし、風の精霊王は相変わらず指をクルクルと回しては妖精たちを作り出している。
兄様たちも剣を片手に、ほんの少し額に汗をかいて剣舞を披露しています。
真紅と一緒に右足右足、左足でジャンプ! とステップを踏んでいると、突然、お空から「パキパキッ」と乾いた音が降ってきた。
「んゆ?」
「なんだ?」
真紅と二人で見上げた空には、ピシピシッとひび割れができて、パラパラッとひび割れから透明な欠片がこちらへと降り注いできた。
「……たいへんだーっ!」
お空が割れているよ?
兄様もアリスターも早く逃げなきゃ!
あれれ? 山の中腹にいるドラゴンたちは大丈夫かな?
あっ、父様と母様は?
ぼくはパニックになってウロウロと歩き回り、手をバタバタと振り回した。
ぼくと真紅の異変に気付いた兄様や白銀たちが、わーっと集まってくる。
「どうしたの?」
「レン、腹が痛くなったのか?」
兄様はすぐさまぼくをひょいと抱き上げて心配そうに窺ってくるけど、アリスターは腹痛と決めつけて薬を飲まそうと苦い丸薬を取り出した。
「レン? 真紅? どうしたんだ? 足でも痛くなったか?」
「やだ、休みなく踊っていたから疲れちゃったかしら?」
白銀と紫紺もフンフンと顔を寄せて、ぼくたちの心配をしてくれる。
そして、風の精霊王は……割れた空へと手を伸ばし満面の笑みで叫んだ。
「やっと会えた! 神獣エンシェントドラゴンよ。僕だよ、風の精霊王だ」
その言葉に釣られて兄様たちが空を見上げると、ひび割れた空からキラキラと輝く何かがこちらを見下ろしていた。
「あれは……」
ぼくたちが絶句する傍で、白銀と紫紺が顔を引き攣らせている。
「ちっ。あいつ、変わらねぇな」
「こんな騒ぎを起こして、のんびりしたあの間抜け顔が腹立つわ」
んゆ?
仲間なのにずいぶんとヒドイことを言うなぁと、ぼくが眉を寄せる。
「ここで会ったが百年……いや、もっと前だが、俺様と勝負だーっ!」
真紅は、ポンッと小鳥の姿に戻って、空に出現したキラキラとした何かに突撃していく……突撃……、あ、飛行能力が足りなくてボトッと落ちた。
「「はあーっ」」
白銀と紫紺のため息が深いです。
「白銀。やっぱりあの光は神獣エンシェントドラゴン様かい?」
兄様へ白銀は思いっきり不機嫌な顔をして頷いてみせた。
「ああ。光つーか、あいつの鱗は金色なんだよ。全身金色のピカピカ。目ん玉も金色! そんなに派手なナリなのに中身はスッカスカだ」
「……まあ、中身は期待しないほうがいいわよ」
白銀と紫紺の評価が辛口過ぎるけど、間違いなくあのキラキラは神獣エンシェントドラゴンだそうです!
「わーい! ふういん、とけたー」
とにかく、最初の目的の封印は見事解けたみたいです。
ぼくと真紅の華麗な踊りと音楽のおかげですよね?
なんで、兄様……顔を背けるのかなぁ?