風の精霊王登場 3
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いつも、ありがとうございます。
ぎゃああああああっ!
声にならない悲鳴がぼくの頭の中でリフレインするっ。
風の精霊王に猫の仔のように首を摘ままれてポイッと空へ投げ出されたぼくの体は下に落ちることなく、そのまま強い風に吹き上げられていった。
風の精霊王が来たときと同じ、竜巻みたいな暴風に。
ぼくの小さな体がクルクルと舞い上がるのを見て、兄様は慌ててその手を伸ばし、ギュッと抱きしめて守ってくれる。
「レン! 僕に捕まって。放しちゃダメだっ」
うう~っ、兄様。
耳元で兄様がぼくの名前を呼び続ける優しい声と、風切るビュルルルという怖い音が重なる。
「ヒュー! レン!」
ぼくの体を抱き込んだ兄様を守るようにアリスターが自分の体で庇う。
ディディはもぞもぞとぼくと兄様との間に潜り込み、「ギャウッ」と弱々しく鳴いた。
ぼくたちが、自分が操る大きな竜巻に巻き上げられるのを満足そうに眺めていた風の精霊王は、ひょいと右腕を払ってここまで一緒に行動していた案内人のドラゴニュートのお兄さんをついでにとばかり吹き飛ばした。
飛ばされた方向が、たぶんドラゴニュートたちが住む村の方向だったから、たぶん帰れると思うけど……怪我もせず無事に帰れるだろうか?
ビューンとかなりの勢いで飛んでいったけど……。
「あ、白銀様……」
アリスターの呆然とする声音にひょいと兄様の腕の中から顔だけ覗かせてみれば、白銀の白い体がグルグルと回りながら上へ飛んでいく。
「し、しろがね」
風が渦巻くど真ん中を上昇気流に乗って激しく前転? しながら上へと連れ去られていく白銀の姿に目を見開いて驚くぼくたち。
「うがあああああっ。目が、目が回るうううううっ」
「あ……」
兄様が思わず白銀へと腕を伸ばすが、届くはずもなく……あっという間に白銀の姿は点となって消えていった。
ううむ、ぼくたちは風の精霊王の手荒い招待を受けているみたいだけど、一応気を遣っているのか、ぼくたちは強風に周りを囲まれているだけで身を害するような風圧は感じない。
まるで台風の目の中にいるように凪いでいるんだ。
でも……白銀たちはまさしく暴風の中へと放り出され揉みくちゃになっている。
白銀がグルグルと回っているのも……風に流されてるんじゃなくて、まるででんぐり返しのように縦回りで上へと飛ばされていったんだ。
紫紺は、必死にぼくたちの方へと移動していたけど、その横を小鳥姿の真紅が巻き上がっていくのを見て、慌てて回収しに風が吹き荒れる中、トンットンッと軽いステップを踏んで追いかけていってしまった。
「しこん。しんく。うぅ、にいたま」
「大丈夫、大丈夫だよ、レン」
ぼくの涙声に兄様がギュッと腕に力を込める。
ディディもぼくの服にキュッと爪を立て強張った顔でしがみつく。
風はビュー、ビューと激しく吹き、一体ぼくたちをどこまで連れて行くのだろう?
何もでぎすに体を縮こませたぼくたちに、風の精霊王の大爆笑が聞こえてた。
「あーははははっ。何、あの無様な姿は! 神獣と聖獣ってもたいしたことないねー」
あーははははははっ!
「さあ、着いたよ」
ぼくたちの心情とは真逆な風の精霊王の明るい声に、ぼくの唇がツンと尖ります。
ここまで竜巻に煽られ飛んできたんです。
白銀なんか頭から着地したのか三点倒立の状態で足がピクピクしているし、紫紺はぜえーぜえーと苦しそうに息を吐きながら、口に咥えていた真紅をペッと吐き出しました。
ぼくは兄様やアリスターに抱きしめられたままへたり込んで、腕に抱っこしたディディを離すことができません。
ニコニコ顔の風の精霊王にイラッとしちゃうのも、しょうがないと思います。
「ここが神獣エンシェントドラゴンがいる神域の場所だよ」
晴れ晴れとした表情でぼくたちへ指し示すその場所は、ただの岩ばかりの狭い平地で、下に漂う雲の存在が山の標高の高さをぼくに教えてくれている。
「ここが、神獣エンシェントドラゴンがいるフェアリーホワイト山脈のスノーネビス山頂。……何もないな」
兄様がぐるりと辺りを見回して、ポツリと呟く。
「岩ばっかりだな。なんか荘厳な神殿が建ってるのかと思ってた」
アリスターもヨロヨロと立ち上がってキョロキョロと視線を動かし、ちょっと残念そうに言葉を吐き出した。
どうやら、兄様たちの想像よりもショボい場所だったみたいで、残念そうです。
「……んゆ?」
ぼくはへたり込んだまま、大きく息を吸ってゆっくりと吐き出してみる。
んゆ?
元々ドラゴンの隠れ里も高い山の合間に作られていたけど、ここはそこよりもさらに高い山の上なのに……息が苦しくない。
高い山の上は空気が薄く息苦しくて高山病になる人も多いんだって。
でもここは異世界だから、山の上でも苦しくないのかな?
パチパチと不思議そうに瞬きしていたぼくの目の前にひょっこりと風の精霊王が顔を突き出した。
「僕が風を起こして君たちが苦しくないようにしているんだよ? 感謝してくれていいよ?」
ニッカリと笑って感謝しろと要求するのは、どうなんだろう?
ぼくの眉間にしっかりとシワが刻まれたのだった。