ドラゴンの嘆き 1
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いつも、ありがとうございます。
兄様が考えたのは、まず今、起きている問題の整理からで、強い風が吹き荒れて農作物の被害が出ていることから始まって、暴風の正体が風の精霊や妖精たちの仕業だったこと。
ぼくは詳しく知らなかったけど、兄様はちゃんと父様やテレンス辺境伯様たちにファーノン辺境伯領地の被害状況を聞いていた。
「風が強くて牛たちの放牧もできないし、馬車とかも横転してしまって人や物を運ぶことができないんだ」
「農作物も不作で外からの荷運びもできないってなったら、かなりマズイな」
アリスターも腕を組んで難しい顔をしています。
たとえ領地の一つが不作だったとしても国の補助で周りの領地から物資を運べば領民が困ることは少ないけど、それもできないってことは……苦しむ人たちが出てくるってことです。
「た、たいへんなの」
ぺしょりとぼくの眉も下がります。
ただ、暴風の原因はわかりました。
風の精霊さんたちは風の精霊王の命令で、ここドラゴンの国から盗まれたドラゴンの卵を探しているからです。
つまり、ぼくたちはドラゴンの卵を盗んだ悪い人を見つければいい。
でも、ドラゴンがいっぱいいるところから、誰にも見つからずにドラゴンの卵を盗んだ悪い人は、とっても隠れるのが上手なのだろう。
風の精霊さんたちがあちこちに飛び交ってもまだ見つからないし、ドラゴンさんたちもどこにいるかわからないと嘆いているもの。
あの魔法の得意な聖獣レオノワール、紫紺でさえドラゴンの強い気配に紛れてドラゴンの卵やそれを盗んだ悪い人の気配が辿れない。
だから兄様は、まず紫紺が気配をキャッチできるように、風の精霊たちの動きを止めるため、風の精霊王に命令できる水の精霊王を呼び出した。
風が止めば、風の精霊たちで攪乱されいたドラゴンの気配も落ち着き、また卵を探している精霊たちを警戒して、どこかでじっと隠れていただろう悪い人も動き出す。
ここら辺一帯に広がる神獣エンシェントドラゴンと他のドラゴンたちの強い気配に紛れて、異物が動けば紫紺がきっと気づいてくれる。
さすがに、ドラゴンの国に忍び込めるぐらいだから、その人は強い気配を纏っているのだろう。
紫紺には、どんなにその気配を隠そうとしてもわかっちゃうもんねー!
「いえ、期待してくれるのは嬉しいけど、わからないこともあるわよ? 実際、今までわからなかったんだから」
いつもの紫紺らしくない弱気な発言に、ぼくはガーンとショックを受ける。
で、でも、わかるよね? 紫紺だけが頼りの兄様の作戦なんだもの。
ドキドキする胸を押さえて兄様の顔を仰ぎ見ると、兄様は落ち着いた表情でポツリと呟いた。
「もし道化師の男だったら、必ず捕まえてやる」
うん、兄様の気合は十分です!
「俺だって、卵を絶対に取り返してやる!」
犯人捜しでは役に立たないとしょぼくれていた白銀がふんむっと雄々しく立ち上がりました。
これだけ、みんながメラメラとやる気に燃えているんだもの、絶対、悪い人を捕まえて卵も取り返せるよ!
「……やる気つーか、殺る気だけどな、ヒューの場合」
アリスターがディディを抱っこして、はあーっとため息を吐いてたけど、アリスターも気合入れようよ。
水の精霊王様が姿を消して、しばらくすると赤い髪のおじさんと紫紺がピクリと何かに反応した。
「いた」
紫紺がグルルルと低く唸り、隣に立つ白銀へと顎で指示をすると、白銀は背中に寝ている真紅を乗せたまま弾丸のように走り出した。
「……しろがね?」
「ヒュー、見つけたわよ。やっぱり精霊たちに見つからないように隠れていたみたい。風が止んだらいそいそと巣穴から出てきたわよ」
フンッと鼻息を出して、誇らしげに胸を張る紫紺がかわいいので、胸気をわしゃわしゃしてあげました。
「ふふふ、くすぐったいわ」
お返しに鼻でスリスリと頬ずりをしてもらい、ぼくも嬉しくてキャッキャッと笑います。
「おい、気が抜けるなぁ。どうする? ヒュー」
「僕たちも行こう。紫紺……案内してほしいけど……レンはどうしようか?」
え? 兄様ってば、ぼくをここに一人で置いていくつもり?
ウルウルと潤むぼくの目に兄様が「うっ」と怯んでいるのがわかる。
「ヒューとアリスターはそこでソワソワしている赤ドラゴンと一緒に行きなさい。アタシはここでレンと待っているわ」
しゅるるっと尻尾でぼくの体を囲むと、紫紺はぺろりと兄様の手を舐めた。
「……すまない、頼んだ」
「え? 紫紺様と別行動で、どこへ行けばいいんだ?」
「小僧ども、ついてこい。いや、面倒だ。我の背に乗れ」
赤い髪のおじさんの大声が響いたと思ったら、バサアッと強風が一吹きぼくたちを襲った。
咄嗟に瞑った目を開けてみると、宙に浮かびながらフヨフヨと移動している兄様とアリスターの強張った顔とご対面。
「んゆ? にいたま?」
兄様はぼくが知らないうちにお空を飛べるようになったんだろうか? アリスターも一緒に?
ぼくの隣りでは、アリスターに置いて行かれたディディが短い手を伸ばして「ギャウギャウ」と泣いている。
「では、我が子を取り戻しに行ってくる」
ワハハハハと豪快に笑って、赤い髪のおじさんはその体を真っ赤な鱗の大きなドラゴンに変え、羽ばたいて行ってしまった。
その背にちょこんと兄様とアリスターを乗せて。
「え? ええーっ?」
ドラゴンに乗れるなんて! 兄様たちずるーいー!